『結衣ちゃんってさ、ホントに頑張り屋だよね
ちょっとは手、抜いてもいいんだよ??』
松葉杖でひたすら前へ進もうとする私に稲葉さんはそんな優しい言葉をかける。
「手抜いてもいい、なんて言っていいんですか~?」
私はそう冗談を言って稲葉さんから顔を背ける。
できることなら、手を抜きたい。
ただ辛いだけで何もいいことなんてなくて。
唯一いいことと言えば稲葉さんと一緒にいられるこの時間
でも、リハビリは辛くて。
だから逃げ出したい、
何度もそう思った。
手を抜けない理由、
逃げ出したくても逃げ出せなかった理由、
それは私の胸に溜まった涙を隠すためで。
頑張ってなきゃ、今にも泣きそうだった。
不自由で人の手がないと何もできない。
人に迷惑をかけるのがキライな私にとってはただ、苦しいだけで。
大好きなバスケができないというのも
私を苦しめるだけで。
それを紛らわすかのように私はリハビリを頑張った。
『僕が今まで担当した結衣ちゃんと同い年くらいの子でも
そんなに頑張る子はいなかったよ?』
稲葉さんはそう言って周りから見にくい場所にあるベンチに私を座らせる。
『僕は、そんなに頑張ること…ないと思う。
弱音…吐いてみたら?
僕でよかったいくらでも、話し聞くよ??』
チラッと稲葉さんを見ると優しい眼差しで私のほうを見ていて。
もう涙が溢れ出しそうで。
目頭が熱くなる。
でも私は
「大丈夫です」
なんて笑いながら言ってて。
自分の不器用さに腹が立った。