『じゃあこの手、押し返してみて』


右手を稲葉さんに重ねられ少し力をかけられる。

私は力一杯押し返す。


本当に、力一杯。

これは照れ隠し。


稲葉さんと触れ合ってる部分がある、

そう思うだけでどうしようもなく恥ずかしかった。


たった数時間前に出逢った稲葉さん


分からない。

どうしてこんなにも惹かれてしまったのか。


一緒にいた時間なんてほんの数分


だけどもうこんなにも好きで。


ちょっと…笑える。


『え?なんで笑うの??』


稲葉さんは不思議そうに首を傾げる。



あ…ヤバっ…

1人笑いなんて恥ずかしいことを…



「いや、なんでもないんです」

苦笑いしながらそう返す。


稲葉さんに恥ずかしい一面を見せてしまった。


なんという失態。



いつも私は肝心なときに何かやらかす。


バスケの試合だったら大切なところで転ぶ

テストだったら簡単なところをミスする



どうしようもない、困った野郎だな、私って。