『じゃ、僕戻るね

また来るよ、莉巳ちゃん』


稲葉さんは片手を上げ、病室を出て行った。

取り残された私と莉巳ちゃんは言葉を交わさず、黙り込む。




「今の人ね、翼兄って言うの


私のお母さんのお兄ちゃん


昔っから私、翼兄に弱いんだ。

なんか分かんないけど…安心しちゃって。


翼兄のこと、大好きなんだ」


沈黙を破ったのは莉巳ちゃん。

莉巳ちゃんは涙を拭うとそう言って笑った。


その笑顔はとても温かくて。

ほんの少し…稲葉さんに似ているような気がした。



「実はね、私…いじめられてるんだ。

小学校の頃から。


いじめられる理由なんて知らない。

でもいつも、悪口言われて…


学校なんてキライで。

お母さんもお父さんもキライ。


今、家に私の居場所…ない。


あるとしたら…翼兄のところだけかな。

翼兄は事情はいっさい聞いてこない。


でもいつも私が欲しい言葉、くれるんだ。


さっきみたいにね。」


何も話さなかった莉巳ちゃんが人が変わったように話す。


稲葉さんはすごい。

私のときもそうだった。


1番欲しい言葉を必ずくれる。



すごく、懐かしい気持ちになった。