「………翼兄か…」
抱きしめられた莉巳ちゃんは小さな声で呟いた。
私の頭の中は静かに小さな爆発がたくさん起こる。
なんで、稲葉さんがここにいるの?
なんで莉巳ちゃんは稲葉さんを知ってるの?
どうして稲葉さんは莉巳ちゃんを抱きしめてるの?
どうして莉巳ちゃんは悲しそうに笑ってるの?
2人って…どんな関係?
………ダメだ。
尽きないよ、疑問が。
『莉巳ちゃんは、頑張った。
よく頑張ったよ。
もう…頑張らなくていい。
切るな、なんて言わない。』
ポタポタと布団に涙が落ちる。
稲葉さんは左手一本で莉巳ちゃんを抱きしめている。
右手はギブスで固定されている。
稲葉さんは病室の片隅に立っている私へ視線をはしらす。
そしてあの笑顔でニコッと微笑んだ。
急に速くなる鼓動。
稲葉さんだ…
やっぱり、稲葉さんなんだ…