『結衣ちゃん?笑顔が…堅い』
津川さんは目を細める。
そして私は近くにあった鏡を見る。
………うーん?
いつもと変わらない気がするんだけどなぁ…
『違うよ、違う。
俺が言ってるのはそういうことじゃない。
うまく説明できないけど…
患者さん、みんな敏感だよ?
心の中、きっとバレてる。
あぁこの先生は大変なんだろうな、って。
いろんなこと悩んでるんだろうな、って。
だから迷惑かけちゃいけないな、って。
我慢しなきゃな、って。
俺の言いたいこと、分かる?』
コクリと頷いた。
リハビリで大切なのは患者さんと気持ちを通わすこと。
痛いというのに無理矢理曲げるのは傲慢。
それに、今の状態よりひどくする場合もある。
患者さんは遠慮なく、言わなくちゃいけない。
『痛い』って。
でも今の私じゃ、言ってはもらえない。
こんな頼りない先生に患者さんは甘えられない。
私ってば、何…やってるんだろう。
稲葉さんのことも
莉巳ちゃんのことも
患者さんには関係ない。
私は今、診ている患者さんに集中しなくちゃいけない。
ダメだな…私。
1ヶ月やってきたのにまだ、何も分かってなかった。