『覚えてる?

俺だよ!稲葉と同期だった津川!!』



「…………あー!!!

津川さん!津川さんじゃないですか!!」



やっと思い出した。

ちゃんと話したのは1度だけだったけど、確か…奥さんが自分の患者さんだった人。


稲葉さんが笑いながら話していたのを思い出した。



『まさか結衣ちゃんがうちで働く新人さんだとはね~

じゃあこれから、よろしくね』


津川さんはニコッと笑う。

よかった…知ってる人がいて。


正直、不安でどうしようもなかったんだ。




『結衣ちゃん、まだ稲葉のこと…』



「想ってないですよ、もう」


私は津川さんの言葉を遮った。

ウソをついたのは未練たらしいと思われたくなかったから。


私のほんの少しのプライドがそうさせたんだ。



『そっか。

うん、そうだよね』



「何言ってるんですか~

それに私、彼氏いますよ」


津川さんは驚いた顔をした。


実は私には専門学校で出逢った彼氏がいる。


好きかと聞かれれば好き。

好きじゃないかと言われれば好きじゃない。


悪いとは思ってるけどでも…稲葉さんを忘れるためにはこの方法しか思いつかなかったんだ。