「どうしてそんな焦ってるんですか?」
私は首を傾げる。
『あー…いや、なんか悪いこと聞いたかな?って。』
稲葉さんは顔を上げる。
「私、彼氏…いないですよ」
ニコッと笑い、はっきり言う。
「前に言わなかったでしたっけ?」
そうあっけらかんに言う私に稲葉さんは何も言わない。
どうしたんだろ?
『そ、そうだっけ?
にしても、よかった、よかった…?』
稲葉さんの語尾が疑問系になる。
第一、
『よかった』
って、どうして?
何が…よかったんだろ?
『…………ダメだ!
今の言葉も忘れて!
一つ残らず全部、忘れて!
なんかヘンだな…今日の僕。』
稲葉さんはそう言いながら頭を抱えた。
確かに、今日の稲葉さんはどこかおかしい。
でもそういう稲葉さんはおもしろい。