『さっき、なんの音楽聞いてたの?』
ナースステーションの前を通りエレベーターに乗る。
車イスを稲葉さんに押してもらいながら。
「秘密です」
私はニヤッと笑う。
稲葉さんにはいつもいじられてばかりだからたまには…ね?
『えーなんで?
教えてよ~』
「稲葉さんだけには教えません」
と、真面目な顔で答える。
『どうしたの~結衣ちゃん。
今日はご機嫌斜めかな~??』
稲葉さんの笑顔が優しい笑顔に変わる。
さっきとは違う。
稲葉さんは…優しすぎる。
その優しさがたまに、辛い。
そのことを稲葉さんは知らないだろうけど。
「ご機嫌斜めです…とか言ってみたり?」
私は頬を緩めて笑う。
稲葉さんに心配かけちゃいけないからね。
『なんだ~
ビックリしたじゃん』
稲葉さんは安心顔。
やっぱり…優しい。
どこまでも、優しいんだ。