女性は、きょとんとした。それから、タンポポの咲くような満面の笑み。

―― ええ、直接顔は合わせておりませぬが、声が聞こえまして ――

「声?」

―― はい。気付いて、気付いて、という声にございます。私はまことに共感いたしました。ああ、私と同じく、気付いてもらえぬ方がいらっしゃる。私は共感し、お返事をいたしました。貴方とは、別の方にございます ――

うふふ、と、まるで友達ができたことを母親に報告するような声。

楓は確認する。

「つかぬことをお訊きしますが、今、宿に泊まっている人間のだれかを呪ったりしましたか?」

―― 呪いにございますか? ――

明滅する顔の、うっすら見える右目だけが、ぱちぱちとしばたいた。

「そう呪いです。自殺――自害しろ、と、強要していませんか?」

―― 自害などっ、そんな……! 私はお人に気付いていただくことさえ ――

慌てて宙を後方へ滑る彼女に、楓は確信を得た。

彼らが呪われる理由がなければ、それ以上に、彼女が呪う理由が、そして、呪える力がないと。