和幸と桜庭は、楓の目がなにかを見ているのを察して、黙っている。

感知できないものは、楓の反応から知ろうという判断である。

「アナタが、この山で噂される霊ですか?」

会話できることが女性は快感に身を震わせた。

―― ええ、さようにございます ――

「間違いありませんね?」

―― はい、それはもう。この千年、私以外の霊などお見かけしておりませんゆえ ――

「千年……」

単純に、長い。それだけの時間、彼女をここに繋ぎ止めたのはなんなのか。

そもそも、『無念の死』とはなにか。

女性は久しぶりの会話の快感を、たんと味わうかのように、勝手に口を開く。

―― 嬉しゅうございます、ほんに嬉しゅうございます。私、ご覧の通り影が薄ぅございますゆえ、誰も誰も気に留めてくださいませんでした ――

影が薄い……だから存在感がこんなに薄いのか、と楓は納得した。

霊は生前の反映である。死ぬ間際まで自らを『影が薄い』と定義すれば、霊になってもそれは同じ。