と、楓の声が聞こえたのか、女性の霊が振り返った。

―― まあ貴方 ――

と笑顔。

―― もしや、私が見えておいでですか? ――

それは、死んでいることへの狂的な笑みではなく、なにか満たされた、あたたかい笑みだった。

あまりに優しい表情で、楓はやや疑問を抱える。

霊はいた。しかしとてもではないが、人を呪っているとは思えない。

「アナタ、この山で噂されている霊ですか?」

―― ああっ、なんて嬉しいこと。私が見えていらっしゃるのですね。ああっ、なんて嬉しいこと ――

喜びにふわふわと舞う着物の女性は、明滅しながら楓の前へやってきた。

目の前にいても、ロウソクの火が安定しないように、陽炎のように、腕が消えたり顔の半分が消えたり――全体が揃わない。

ひたすら、存在感の薄い霊。なおのこと、人を呪うとは……ましてやその力があるとは思えない。