「さあ、どっちだい、桜庭くん?」

「左左、左がそうだ」

アルの笑みと、和幸の耳打ち。

桜庭は、硬直する。

香澄はそんな横でのんびりと、リラクゼーションチェアに座っていた。

「あ、あ~」

と、変な声。

椅子と一緒に、体が振動している。マッサージチェアだった。

「い、いい……効くぅ……ああ……」

日々、家事と弟の世話に追われる若者、鈴原香澄は、うっとり夢見心地なのである。

「あぁ、そこそこ、あふぅ……」

実は静かに、一番、旅館を楽しんでいた。

桜庭は、相変わらずの硬直。

睨むカードの表紙は、青と白の市松模様。

桜庭にも、透視能力はない。

賢一ならば一発で見抜けるだろうが、卓球台のそばで幼馴染みに睨まれているヘタレは、頼りにならない。

ましてや、だれかに頼るなど、桜庭の自尊心が許可しない。

「右だ」

そして決断した。

和幸の言ったほうとは、反対を選択する。

プラスチックのカードがぴ、とアルの手から引き抜かれる。

それは――

「――!!」

「残念」

鎌を持っていた。

数字ではなかった。

骸骨だった。

ババ……

桜庭の負けである。