聞き覚えのある声。

昨日聞いたばかりの声。

大好きなはずの声。

なのに今は一番聞きたくなかった声。

…敦志の声。

「……美香、じゃねえの?」

振り向いたら、涙を見られる。

あたしは思わず立ち止まったけど、敦志が歩いてくるのが解る。

きっと腕を捕まえられて、そっちに顔を向かされる。

何ともいえない恐怖が襲ってきて、あたしはそのまま走った。

長く感じた階段を、大急ぎで下りた。

さっき来た道を急いで走った。

走って、走って、走った。

あたしの全速力のつもりだった。



でも敦志には敵わなかった。