―翌朝、弘徽殿


「姫様、伺いましたよ!」


早朝から乳母がそう言うのを背中で聞き、


よもや、私から口づけたのを見られた…?

軽々しい事をと、叱られるのかしら…


そう思って恐る恐る後ろを向きますと、思っていたのとは違う満面の笑みを浮かべた乳母が立っていました。


拍子抜けして

「なんです?

朝からそんなににこにこして。」

と返しますと、

「昨夜女御様が、お休み中の東宮様をお起こしせぬようにと、お迎えの女房をたしなめたと専らの噂にございます!

年上の女御様らしい、分別のある行動と皆褒めそやしておりますのよ。

私も鼻が高うございます!」

そう答えて、手を叩いて喜んでいます。


昔から乳母は、人一倍厳しく、かつ人一倍私を愛してくれました。