東宮様に惚れ込み過ぎてはいけないという思いと、立場を忘れて恋に溺れたい想い。

二つの気持ちの葛藤に煩悶するうちに、昭陽舎を去る時刻になりました。


「女御様…」

「しっ…」

東宮様を起こさぬよう、人差し指を唇にあてて声をかけてきた女房を黙らせました。

ふと、東宮様の唇の感触が思い出されて愛しさと切なさが涙となって溢れます…


女房が目を離しているうちに、東宮様の側にある裳を取るふりをして、そっと口づけました。


「おやすみなさいませ…」

聞こえないくらいの声でそう呟き、お部屋を後にしました。