週明けの月曜。
いつも通り、メールをチェックしながら、美織は何となく気が重かった。
プリンター用紙の補充依頼、手洗い用蛇口の不具合連絡……
確かに、どれも社員が気持ちよく働くために必要な仕事。
けれど、目立たず、感謝されることも少ない。
――やっぱり、雑用係……かな。
美織はまず、手洗い用蛇口の不具合を確認しに現場へ向かい、状況を写真に収めてからビルの施設管理会社へ修理を依頼した。
その後、備品棚からプリンター用紙を取り出し、プリンター脇の棚に補充する。
何気なく視線を落としたその先――排紙トレイの横に置かれた「未回収BOX」に目が止まった。
まだ昼前だというのに、すでに数枚の印刷物が放り込まれている。
――こんなに早く?
いつもなら、気にも留めない光景だった。
けれど今日は、違った。
――紙の無駄だけじゃない。情報が放置されてるって、けっこう危ないかも。
美織の胸に、小さな違和感が芽生える。
そして、ふと――週末のカフェでの会話が脳裏をよぎった。
『マーケティングは“売る”ための仕組みをつくる。総務は“働く”ための仕組みをつくる』
『会社を動かす両輪だよね』
そのときは、ただの気の利いた言葉のように思っていた。
けれど今、その言葉が現実に繋がっていくのを、美織は感じていた。
席に戻るとすぐに、パソコンを立ち上げる。
検索窓に打ち込んだのは、
「プリンター 印刷物 放置 対策」
表示された検索結果の中に、「オンデマンドプリント」や「ICカード連携印刷」といったソリューションの文字が並ぶ。
――これなら、放置も防げるし、紙の無駄も減らせる……かも。
美織の指が、自然とマウスを動かし始めていた。
◇◇
翌日。
昼休みが終わり、課長の田村が自席に戻ってきたタイミングを見計らって、美織は声をかけた。
「あの……少しだけ、お時間いただけますか」
「ん? なんだ、高村さん。なにかトラブル?」
「いえ、あの……提案というか、改善のアイデアがあって……」
課長が顔を上げる。美織は手元のメモを握りしめ、静かに言葉を続けた。
「社内のプリンターで、印刷されたまま放置されてる書類、ありますよね。未回収BOXに入ったまま、夕方には廃棄されてるのをよく見かけます」
「ああ、あるね。たまに見かける。まあ、仕方ないんじゃない?」
「でも、紙の無駄になりますし、情報漏えいのリスクもあると思うんです。そこで、『オンデマンド印刷』の導入を検討できないかと……。ICカードで認証して印刷を出す仕組みです」
田村は腕を組み、うーん、と低く唸った。
「でもねえ、高村さん。正直、今のところ、それで大きな問題になってるわけじゃないし。導入コストも結構かかるんじゃないの?」
「はい、初期費用はかかります。ただ、紙の無駄を削減できるだけでなく、セキュリティ対策にもなりますし、長期的には――」
そこまで言いかけたところで、後ろから別の声がかかった。
「――いい視点ですね」
振り向くと、総務部長の木崎が立っていた。
「高村さん、もう少し詳しく話してもらえますか」
「えっ、あ、はい……!」
美織は、提案に至った経緯や改善案の概要を部長に説明した。
「現場の小さな違和感から、全体の仕組みを見直そうとするのは、すごく大事なことです。試算ができそうなら、簡単な企画書にまとめてもらえるかな?」
美織は一瞬、言葉を失ったが、すぐに表情を引き締めて頷いた。
「はい、やってみます」
課長は苦笑しながら肩をすくめた。
「うーん、そう言われちゃうと、反対しづらいな……」
美織の胸の奥に、小さな火が灯ったような気がした。
――“働くための仕組み”を、自分がつくっていく。
そんな実感が、じわりと広がっていた。
いつも通り、メールをチェックしながら、美織は何となく気が重かった。
プリンター用紙の補充依頼、手洗い用蛇口の不具合連絡……
確かに、どれも社員が気持ちよく働くために必要な仕事。
けれど、目立たず、感謝されることも少ない。
――やっぱり、雑用係……かな。
美織はまず、手洗い用蛇口の不具合を確認しに現場へ向かい、状況を写真に収めてからビルの施設管理会社へ修理を依頼した。
その後、備品棚からプリンター用紙を取り出し、プリンター脇の棚に補充する。
何気なく視線を落としたその先――排紙トレイの横に置かれた「未回収BOX」に目が止まった。
まだ昼前だというのに、すでに数枚の印刷物が放り込まれている。
――こんなに早く?
いつもなら、気にも留めない光景だった。
けれど今日は、違った。
――紙の無駄だけじゃない。情報が放置されてるって、けっこう危ないかも。
美織の胸に、小さな違和感が芽生える。
そして、ふと――週末のカフェでの会話が脳裏をよぎった。
『マーケティングは“売る”ための仕組みをつくる。総務は“働く”ための仕組みをつくる』
『会社を動かす両輪だよね』
そのときは、ただの気の利いた言葉のように思っていた。
けれど今、その言葉が現実に繋がっていくのを、美織は感じていた。
席に戻るとすぐに、パソコンを立ち上げる。
検索窓に打ち込んだのは、
「プリンター 印刷物 放置 対策」
表示された検索結果の中に、「オンデマンドプリント」や「ICカード連携印刷」といったソリューションの文字が並ぶ。
――これなら、放置も防げるし、紙の無駄も減らせる……かも。
美織の指が、自然とマウスを動かし始めていた。
◇◇
翌日。
昼休みが終わり、課長の田村が自席に戻ってきたタイミングを見計らって、美織は声をかけた。
「あの……少しだけ、お時間いただけますか」
「ん? なんだ、高村さん。なにかトラブル?」
「いえ、あの……提案というか、改善のアイデアがあって……」
課長が顔を上げる。美織は手元のメモを握りしめ、静かに言葉を続けた。
「社内のプリンターで、印刷されたまま放置されてる書類、ありますよね。未回収BOXに入ったまま、夕方には廃棄されてるのをよく見かけます」
「ああ、あるね。たまに見かける。まあ、仕方ないんじゃない?」
「でも、紙の無駄になりますし、情報漏えいのリスクもあると思うんです。そこで、『オンデマンド印刷』の導入を検討できないかと……。ICカードで認証して印刷を出す仕組みです」
田村は腕を組み、うーん、と低く唸った。
「でもねえ、高村さん。正直、今のところ、それで大きな問題になってるわけじゃないし。導入コストも結構かかるんじゃないの?」
「はい、初期費用はかかります。ただ、紙の無駄を削減できるだけでなく、セキュリティ対策にもなりますし、長期的には――」
そこまで言いかけたところで、後ろから別の声がかかった。
「――いい視点ですね」
振り向くと、総務部長の木崎が立っていた。
「高村さん、もう少し詳しく話してもらえますか」
「えっ、あ、はい……!」
美織は、提案に至った経緯や改善案の概要を部長に説明した。
「現場の小さな違和感から、全体の仕組みを見直そうとするのは、すごく大事なことです。試算ができそうなら、簡単な企画書にまとめてもらえるかな?」
美織は一瞬、言葉を失ったが、すぐに表情を引き締めて頷いた。
「はい、やってみます」
課長は苦笑しながら肩をすくめた。
「うーん、そう言われちゃうと、反対しづらいな……」
美織の胸の奥に、小さな火が灯ったような気がした。
――“働くための仕組み”を、自分がつくっていく。
そんな実感が、じわりと広がっていた。



