ハーモニックヘルスのオフィス。
企画が承認された翌週から、美織はさっそく実行フェーズの作業に入った。
オンデマンドプリントの導入にあたって、まず取り組んだのは、社員の動線と印刷利用状況の把握だった。
昼休みの時間を狙って、各部署のプリンター設置場所を確認しながら、社員に声をかけていく。
「こんにちは、総務の高村です。ちょっとだけお時間、いいですか?」
美織はメモ帳とタブレットを片手に、営業フロアの男性社員に話しかけた。
「今後、オンデマンドプリントの仕組みを導入する予定なんですが、印刷するときって、どのルートで動いていますか?」
「あー、だいたいこの通路を通って、こっちのプリンターを使ってますね。会議資料だと急ぎのことが多くて」
「ありがとうございます。急ぎのとき、今のプリンターの位置で不便に感じることはありますか?」
「そうですね……少し歩くけど、まあ慣れてるんで。でも、急いでるときに誰かが詰まってるとちょっと焦ります」
別の部署では、女性社員がこう答えた。
「個人情報を含む資料を印刷するとき、誰かに見られないかちょっと不安で……。できれば人目が気にならない場所にあると助かります」
美織は、メモを取りながら、何度もうなずいた。
――ただ“効率よく配置”するだけじゃダメなんだ。
業務の種類、使う人の気持ち、空間の心理的な“圧”――
そういう一つ一つを拾っていかないと、“本当に使いやすい環境”にはならない。
フロアを回りながら、美織はふと足を止めた。
ふと、週末に響生が言っていた言葉が蘇る。
『マーケティングは、売るための仕組み。総務は、働くための仕組み』
今、その言葉が、現場の声と結びついていく。
――そうだ。私たちの仕事は、“見えない困りごと”に耳を傾けて、
――“働きやすさ”という空気を整えること。
それは、ただの雑務でも裏方でもない。
会社というひとつの舞台を、安心して動かすための土台づくり。
ヒアリングを終えてデスクに戻るころには、メモ帳はびっしりと書き込まれていた。
美織の胸の中に、静かに、しかし確かに――
“総務の仕事”への誇りが芽生え始めていた。
企画が承認された翌週から、美織はさっそく実行フェーズの作業に入った。
オンデマンドプリントの導入にあたって、まず取り組んだのは、社員の動線と印刷利用状況の把握だった。
昼休みの時間を狙って、各部署のプリンター設置場所を確認しながら、社員に声をかけていく。
「こんにちは、総務の高村です。ちょっとだけお時間、いいですか?」
美織はメモ帳とタブレットを片手に、営業フロアの男性社員に話しかけた。
「今後、オンデマンドプリントの仕組みを導入する予定なんですが、印刷するときって、どのルートで動いていますか?」
「あー、だいたいこの通路を通って、こっちのプリンターを使ってますね。会議資料だと急ぎのことが多くて」
「ありがとうございます。急ぎのとき、今のプリンターの位置で不便に感じることはありますか?」
「そうですね……少し歩くけど、まあ慣れてるんで。でも、急いでるときに誰かが詰まってるとちょっと焦ります」
別の部署では、女性社員がこう答えた。
「個人情報を含む資料を印刷するとき、誰かに見られないかちょっと不安で……。できれば人目が気にならない場所にあると助かります」
美織は、メモを取りながら、何度もうなずいた。
――ただ“効率よく配置”するだけじゃダメなんだ。
業務の種類、使う人の気持ち、空間の心理的な“圧”――
そういう一つ一つを拾っていかないと、“本当に使いやすい環境”にはならない。
フロアを回りながら、美織はふと足を止めた。
ふと、週末に響生が言っていた言葉が蘇る。
『マーケティングは、売るための仕組み。総務は、働くための仕組み』
今、その言葉が、現場の声と結びついていく。
――そうだ。私たちの仕事は、“見えない困りごと”に耳を傾けて、
――“働きやすさ”という空気を整えること。
それは、ただの雑務でも裏方でもない。
会社というひとつの舞台を、安心して動かすための土台づくり。
ヒアリングを終えてデスクに戻るころには、メモ帳はびっしりと書き込まれていた。
美織の胸の中に、静かに、しかし確かに――
“総務の仕事”への誇りが芽生え始めていた。



