隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり

「あー、美味かった。やっぱりひよりの作る飯はうまい」
「それならよかった」

 目の前にいる幼馴染で隣人の蒼くんは、お腹をさすりながら満足そうに笑った。私、佐々木ひよりが蒼くんの家に来てご飯を作る理由は、蒼くんの両親が海外出張で一年不在だから。蒼くんは私の一つ年上で、高校三年生。すぐ隣に住む私と蒼くんは幼馴染で、小さい頃から兄妹みたいに仲がよかった。
 最初は私の母親が余分に作ったご飯を届けていたけれど、いつの間にか私自身が蒼くんの家でご飯を作り、一緒に食べるという一連の流れができてしまったのだ。普通の親だったら年頃の男女が二人きりで一つ屋根の下にいるなんて、と気にしそうだけど、私たちはお互いの両親を含めて小さい頃からずっと仲が良いこともあって、うちの親は何も気にしていない。

(蒼くん、今日もかっこいい)

 少しだけ長めの髪はいつもサラサラしていて、背も高くイケメンだ。蒼くんは男子校だけど、登下校中にいつもラブレターを渡されたり、連絡先を聞かれたりするらしい。本人曰く、すごい迷惑らしいけど。今日も今日とて見惚れていると、蒼くんは私の視線に気づいてフッ、と微笑んだ。うっ、見慣れているはずなのに、心臓が毎回跳ね上がってしまう。
 私は、ずっと蒼くんに片想いしてる。いつからか、なんて覚えてない。気がついたら、蒼くんのことが大好きになっていた。けど、この気持ちは伝えられないし、伝えちゃいけない。

(顔、赤くなってないといいな)

 思わず視線を逸らすと、蒼くんのスマホが鳴った。

「はい、もしもし、ああ、みさ姉、どうした?え、今?ひよりが来てる、そう。ええ、めんどくせぇなやだよ、今日は無理。また今度話聞いてやるから、うん。じゃあな」

 そう言って、蒼くんはスマホを切る。みさ姉というのは、蒼くんの家の隣に住む大学生二年生のみさこさんだ。蒼くんの家を真ん中に、私の家とみさ姉の家がある。私は小学生五年生の時に引っ越してきたけれど、私が越して来る前から、蒼くんとみさ姉は隣同士で幼馴染なのだ。
 みさ姉はとても良いお姉さんで、私が越してきてからは三人でいつも仲良く遊んでいた。今でも、たまに勉強を教えてくれたり、私の好きなお菓子を買ってきてくれたりする、とっても優しいお姉さん。

「みさ姉、いいの?何か話があったんじゃない」
「いいよ、どうせ大した話じゃないし。いつでも聞ける」

 くわあ、とあくびをしながら蒼くんは言った。そんなこと言うけど、本当は蒼くんはみさ姉の話を聞きたかったんじゃないのかな。みさ姉と蒼くんは仲良しで、たまに商店街や帰り道で二人で一緒にいるところを見かけたことがある。その時の蒼くんの顔はとっても嬉しそうで、みさ姉との距離もすごく近くて、もしかしてこの二人は付き合ってるんじゃないか、そうでないにしても、蒼くんはみさ姉のことを好きなんじゃないかって思う時がある。