現実世界に帰りたいのに、異世界のイケメン達が帰してくれませんっ‼︎




 「こんもか〜‼︎もかだよ〜っ!」



今日も、笑顔で配信を始める。

コメント欄を見ると、そこはすでに、《可愛い》や《こんもか〜‼︎》などの温かいコメントで溢れ返っていた。



「今日は〜!初めてホラーゲームに挑戦しようと思います!」



声に出してそう言い、意気込む。



《もかちもついにホラゲデビューか!》

《がんばれ!》



挑戦するのは、今話題のホラーゲーム。

すっごく怖いって噂で、ちょっと緊張する。

でも、リスナーさんのためなら頑張れるんだっ!



「それじゃあ、始めていくよ〜!」

《わ〜、楽しみ‼︎》

《怖いって噂だけど……。》



 「きゃああああああ?!」



ゲームを始めて5分後。

突然のお化けに涙目になる。

だけど、すぐにくすっと笑う。



「リスナーさんの言う事、本当だった!」

 

怖がってばっかで、頼りないわたしなんかの配信を、リスナーさん達は楽しんでくれてるかな……?


不安になった時期もあるけど、今はもう大丈夫。



《もかち、よく頑張った‼︎》

《そうそう!やってみたけど怖かったし》



だって、こんなにもわたしを応援してくれている、リスナーさんがいるんだから……!



「ふふっ、みんなありがとう〜‼︎」



感謝を込めてそう言うと、またゲームを再開する。

やっぱり怖い事に変わりはない。

でも————— 。

(同時に、すっごく楽しいっ‼︎)

笑ったり、泣いたり。

たとえどんなにくだらなくても、リスナーさんと日常を、感情を共有し合う事はわたしの生きがいだ。

まさに、宝物みたいな……わたしの、一番大事な時間。



————これだから、配信者はやめられないんだ。





 「もか、おはよ〜!」



学校に登校すると、友達と挨拶を交わす。



「おはよう鈴華(りんか)ちゃん!」



親友の鈴華ちゃんは今日も元気だ。



「本当もかってさ、お淑やかだよね〜」

「そ、そうかなっ」

「優しいしもう大好き‼︎」



鈴華ちゃんがぎゅ〜と抱きついてくる。



「えへへ、ありがとう!」



嬉しいけれど、鈴華ちゃんを見ると、とても申し訳ない気持ちになる。

彼女には、私が配信者として活動している事を伝えていない。

いつかは伝えたいと思っているけれど、まだその勇気がないんだ。



「もかはこんなに可愛いし面白いのに、クラスの奴らは何考えてるんだろうね。」

「それは言い過ぎだよ!」

「え〜?」

「ふふっ、ありがとう!」




でも、鈴華ちゃんは、私を肩書きで判断しないって信じてるから。

実際に始め、私がこの学校で全然上手くできてなくても、鈴華ちゃんは私に気さくに話しかけてくれた。

本気で大切にしたい親友だから、私の発言でこの友情が壊れてしまうかもしれないのは避けたいんだ。






 「じゃ、また明日〜!」

「うん、またね‼︎」



私とは反対方向に家がある鈴華ちゃんと別れ、一人で帰り道を歩む。

鈴華ちゃん達と、楽しく過ごすのも好きだけど、実は一人でいる時間も嫌いじゃない。

今日一日の出来事を振り返ったら、リラックス出来る時間なんだ。

(今日も鈴華ちゃんが褒めてくれて、嬉しかったな〜)

そんな風に思いを馳せていると、ふと屋根裏部屋の事を思い出した。



 私の、家は一軒家で、屋根裏部屋がある。

暑くて、少し埃っぽくて、そこにはおばあちゃんがアンティークショップで買ってきた、椅子やら雑貨やらが置いてあって、小さい時には大きなドールハウスもくれたんだ。

洋風の大きなお屋敷で、可愛いお姫様や召使いのミニドールがいたっけ。



「懐かしいや」



最近は行かなくなって、掃除もしてないからなぁ。

—————久しぶりに行ってみよう。


 「ただいま!」



家に帰ると、お母さんはまだ帰って来ていなかった。

(またパートかなぁ。)

手洗いうがいをして、まず宿題に取り組む。



 約二年前、私が配信者をしたいって相談した時、その条件に、勉強を頑張るっていうのがあったんだ。

しかも、学年一桁代に入らないといけない。

大変な事も多い中、よくお母さんやお父さんは、その条件で始めさせてくれたな、って今は思う。

きっと、私が全く知らない事に挑戦しようとして、不安でたまらなかっただろうに————— 。



 「よし!」



一通り宿題を片付け、お掃除道具を持ったら、階段を上がる。

一段上って行く度、緊張も高まっていった。

ゆっくり上ったつもりだったけど、意外に早く着いてしまった。

ふぅ、と深呼吸をして、屋根裏部屋のドアを開ける。

すると————— 。



「うぅ、埃っぽい、!」



予想通り、物凄い埃が襲ってきた。

窓を開けて換気したものの、一向に収まりそうもない。

放置の恐ろしさを見にしみて感じる。



「単にドールハウスの様子を見にくるはずだったけど、これは全体の掃除が必要そうだ……。」






 「ふぅ、やっとひと段落ついたかな……。」



部屋全体を見回す。

まだ埃が目立つところはあるけれど、少しは綺麗になったはずっ……!

特に、ドールハウスは外観だけでも汚れがひどくて、時間がかかった。



「次は、中だ……。」



ドールハウスに手を伸ばし、中を見ようと開けた、その時の事————— 。

まばゆい光が視界を覆い、ふっと意識がなくなっていく感覚がした。

あれ、私、どうなっちゃうんだろう。

鈴華ちゃんや、お父さん、お母さんもいるのに。

いや、それだけじゃない。リスナーさん達はどうなる?

薄れゆく意識の中、その事だけが心配だった。





 「ん……。」



後頭部に鈍い痛みを感じ、瞼を開く。

そこは、さっきまでいた屋根裏部屋……じゃなくて……。



「ここはどこなの〜っ?!」



—————洋風な建物が並ぶ、おしゃれな街。



「えっ!」



更に手元を見ると、見た事もないドレスの生地が。

ふりふりで真っ黒な生地に、色彩豊かな宝石が散らばっている。

何ていうか……。美し過ぎて、私が普段着ないような服。

(うぅ、服に着られてる感覚とは、まさにこの事かっ……!)

私には似合わない、そうしみじみと感じていると。



ルモカーデュ(・・・・・・)お嬢様……!こんなところにいらしたのですねっ!」



メイド服を着た女の人が走ってきた。

る、ルモカーデュ……?

それに、お嬢様って言った?



「とにかく!早くお屋敷に帰りましょう‼︎」

「え、えと……。」



私は、何も言えないまま、その女の人に豪華な馬車に乗せられ、お屋敷とやらに連れて行かれてしまったのだった。



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