怪盗が最後に盗んだもの

「おっと……危ないな。フローレンス、しっかり掴まっていて」

放たれる魔法を防御魔法で交わしていた怪盗シャハルだったが、キリがないと判断したのか抱き締める力を強くする。フローレンスは必死に彼の首の後ろに手を回した。

刹那、怪盗シャハルの足元から強い風が巻き起こる。風は部屋に置かれたものを吹き飛ばし、アーサーたちが魔法を放つのをやめる。

そして風が止んだ時、部屋からフローレンスと怪盗シャハルの姿は消えていた。



フローレンスは怪盗シャハルに抱き上げられたまま、すっかり夜になった空の上を飛んでいた。眼下には明かりの灯る家々が見える。

「綺麗……」

フローレンスは宝石のように煌めく街を見つめる。この世界がこれほど綺麗なことを生まれて初めて知った瞬間だったのだ。

「これから二人で色んな綺麗なものを見に行こう。この世界にはまだ綺麗なものがたくさんあるんだ」

怪盗シャハルが優しく言う。フローレンスはゆっくりと頷いた後、一番知りたかったことを訊ねた。

「私、怪盗シャハルさんとは初めてお会いしたはずです。なのにどうして私を連れ去ってくれたんですか?」