っと、こんなことしてる暇なんてなかった!
「もう一踏張り頑張りますか」
「そうだね、頑張ろ!」
手渡された書類を瞳に返し、私たちは仕事に戻った。
CMの撮影撮りまで後少し。
あの彼ならいいCMが撮れそう。
――あの温もり。
うん。
きっといいCMになるよね。
私の初の大仕事、彼ならきっとやってくれるって思う。
後はどのフレーズが使われるかだけど、きっと一番使いたいフレーズは使われないよね。
仕事は遊びじゃないんだ。
夢だけじゃやっていけない。
はぁ……。
昔はもっと、仕事に夢や希望を持っていたんだけどな。
いつからか自分の気持ちに妥協するようになった。
私が思い描く仕事と、周りが求めるものは必ずしも同じじゃない。
「綾瀬、決まったぞ」
丁度いいタイミングで部長の声が聞こえ、私は部長に決定したフレーズを聞いた。
それは予想どおりの結果。
「絵コンテも出来上がったし、次は来週の撮影だな。これからますます忙しくなるぞ」
「はい」
これが現実、周りが求めるものが必要とされる。
だからと言って、仕事に妥協しているわけではなくて、あくまで私の気持ちを妥協しているだけ。
今は思い悩む暇なんてないんだ、ただ突き進むのみ。
残業続きの毎日で、この日も仕事が終わって会社を出ると閑散とした町並みだった。