「期限ないしね」
「はぁー。そうなんだよね」
ロッカーに置いていた黒のカーディガンを身に纏い、必要書類を手にとる。
「そう言えばキャスト決まったらしいよ〜」
「えっ! 誰に決まったの?」
もしかしたらと頭の中で思う。
キャストから何かいいフレーズが浮かぶかもって。
今頭の中にあるフレーズ好きなんだけど、今いちピンとこないって言うか、微妙なんだよね。
私が使いたいフレーズじゃなくて、周りから認められるフレーズ。
……それが一番重要。
「はぁ……」
「そんなため息ばっかじゃ幸せ逃げるよ?」
「いいよ、仕事ばっかで恋愛する暇さえないし」
「何言ってるの! 女は恋してなんぼよ!」
恋、か。
頭の中は仕事でいっぱいで、他のこと考える余裕さえないし。
「タオルありがと、お先〜」
借りたタオルをハンガーにかけ、ロッカーに鍵をした。
背を向けてヒラヒラと手を振って歩きだすと、「待ってよ〜」と瞳の慌てる声が後ろから聞こえてきた。