「えっと、名前は?」
「私? 綾瀬です」
「じゃあ綾瀬さん、今からちょっといい?」
へっ?
何を言いだすのかと思ったら、と私が考える暇もなく彼は歩き始めた。
「ちょっと待ってください、霧島さん!」
「アハハッ。さん付けはやめて」
「……じゃあ、霧島くん」
両手をポケットに入れ、後ろ歩きをしながら私の姿を捉える霧島彬。
「着いてこないとCM出ないよ?」
「脅しですか?」
「うん。ハハッ」
彼の様子からするに、本気じゃないことは容易に想像できた。
彼がこの業界でやっていくとするならCMに起用されたことは、新人としたらかなりプラスになることだし。
だからこそ、そんな大事な時期に二人きりになったらまずいんじゃない?
「綾瀬さん深く考えすぎ! それに俺、無名の新人だから、何もついて来ないよ?」
あっけらかんと自分の立場を笑いにする彼に、私まで笑いが漏れてきた。
この業界で働く人たちってプライド高い人ばかりかと思っていたけど、彼はちょっと違う。
何だか彼のこと、もっと知りたいって思ってしまった。