2度目の初恋はセレナーデのように




 (歌音(かのん)のモノローグ)


 選抜の日から1週間が経った。


 冬の寒空の下で薄着でいたからか、私はあれから高熱を出して寝込んでいた。

 ようやく動けるようになったので、今日は久しぶりに外出をしている。


 どこにいるかと言えば……。



 (モノローグ終了)


 〇大学の学生課(落とし物係)
 事務員と会話をしている歌音だったが、申し訳なさそうに首を振られる。


 事務員「ごめんなさい。イヤリングの落とし物は届いていないみたいです」
 歌音「そうですか……」



 シュンとしょげる歌音。


 歌音(せっかく(はる)くんから貰ったものなのに……)


 以前、誕生日プレゼントとしてもらったイヤリングを件の事件の際に落としてしまい、探しに来ていた。


 歌音(スマホは物置の近くに捨てられていたから脱出後すぐに見つかったけど、イヤリングはいつ落としちゃったんだろう)


 会場か、それとも走った道のどこかか。


 たぶんこの学園のどこかにはあると思うのだが、いずれにしても探し物が小さすぎる。
 一人で探すには骨が折れそうだ。


 ちなみに、あの事件の犯人はまだ分かっていない。

 けれど「人目の集まる選抜の時間に起こった」ことと、「普段使われていない物置の鍵が壊されていたことに加えてにつっかえまでされていた」ことから音大の関係者の仕業である可能性が高いらしい。



 両親は激怒し学園に意義を申し立てている最中で、今日も学園へ足を運び話し合いが続いている。


 歌音(そしてそれは今日も……)


 顔を上げて建物の上の方を見た。



 歌音(あの部屋では今も難しい話がされているんだろうな……)


 なんでも警察を入れて捜査させる、なんて大事になりそうな話もあるらしい。


 歌音(そんな大袈裟(おおげさ)なとは思うけど……)

 歌音(まああのまま見つからなかったら命の危険性もあったって言われたし……仕方ないのかも)


 あのときは陽暁(はるあき)が見つけ出してくれたから風邪程度で済んだが、もしも見つかるのが遅かったらどうなっていたか分からない。

 医者にもとにかく体を冷やすなと注意された。



 歌音(でもあんまり大事にしたくないんだけどなぁ)



 ただでさえ貴重な時間を風邪で動けなかったのに、受験予定の大学にトラブルメーカーだなんて思われたら最悪だ。



 歌音「はあ。胃が痛い……」


 これからのことを考えるとお腹が痛くなってくる。

 歌音はため息をつきながらとぼとぼと歩いていった。