〇教室・放課後
授業を終えた歌音の元に、みりあがやってきて手を合わせている。
歌音は困り顔で頬をかいた。
みりあ「お願い! 奏様のことを教えてほしいの!」
歌音「え、えーと」
必死に頼み込んでくるみりあは、どうやら以前の個展で奏を見て一目ぼれをしたらしい。
歌音「どこがそんなによかったの?」
みりあ「肉体美!」
歌音「あ、うん。そっか……」
ぱあっと目を輝かせたみりあは、どうやら奏の体が目当てらしい。
……この言い方では語弊が生まれるが、ルックスが整っている人よりも肉体美の持ち主が好きなのだそうだ。
みりあ「美しい肉体があるからこそ美しい魂のこもった作品を生み出せるのね! やっぱり心技体揃わないといけないのよ!」
みりあは一人、キャーと盛り上がっていた。
歌音(そういえば陽くんのそばにいても好きにならなかったくらいだし……)
歌音とは好みのタイプがだいぶ違うらしい。
歌音(確かに陽くんとお兄ちゃんは性格も見た目も真反対だしね)
頭の中で二人を思い浮かべてみる。
陽暁は全体的にふわふわとした柔らかいお兄さんという印象をもち、対する奏は濃い顔の熱血職人という印象をもつ。
歌音(それならみりあちゃんが陽くんに興味がわかないのも納得だなぁ)
でもそれで兄の情報を教えるか、と聞かれると……。
歌音「お兄ちゃん、この間すっごいげっそりして帰って来たしなぁ」
初デートの日の夜のことだ。
いつもはアトリエに寝泊りしていつ何時も降りてきたインスピレーションを形にするあの兄が、その日は疲れきった顔で帰ってきた。
しかもご飯も食べずに部屋に閉じこもって眠っていたのだ。
歌音(相当疲れたときにだけなる芋虫状態だったもの。そんなお兄ちゃんにまたみりあちゃんを合わせるのはなぁ)
断る体で眉を下げる歌音だったが、みりあは引くつもりはないらしい。
みりあ「わたしもただでとは言わないわ! 交換条件よ! 陽暁の情報を流すわ!」
歌音「陽くんの?」
聞き流そうとしていたけれど陽暁の名を出されて思わず反応してしまった。
みりあはそんな歌音ににいっと笑う。
みりあ「そう。あいつの好みの化粧とか、ファッションとか。そういう情報沢山もっているからね。あなたもあいつの好みは気になるでしょう?」
歌音「それは……」
ものすごくナチュラルに親戚の情報を売ってきたけれどいいのだろうか。
みりあ「もちろん会わせてなんて言わないわ。あなたに望むのは情報だけよ! あなたにも奏様にもご迷惑はかけないわ!」
歌音「でもこの前……」
みりあ「あれは奏様の肉体美に感動しすぎただけ。大丈夫、二度目はないわ!」
歌音「……本当かなぁ」
みりあ「ね、おねがい~!!」
歌音「う、うーん」
悩む歌音だったが……。
みりあ「今ならもれなく『親戚での陽暁の話』と『小さいころの話』つきます」
歌音「お兄ちゃんは6つ上だから24歳だよ。ちなみにあのなりでコーヒーのブラックが飲めません」
陽暁の幼少期の話には勝てなかった。
だって自分の知らない頃の話とか気になりすぎるんだから、しょうがない。
あっさりと奏の情報を売った歌音とみりあはがしっと握手を交わす。
歌音(まあ好きなものとか嫌いなものとか、些細なことなら……)
ということで情報交換をするのだった。



