〇歌音の部屋
難しい問題にでもあったように眉をよせた歌音のドアップから。
歌音「う~~~~~~ん」
ベッドにいろんな服を出して唸っている歌音は真剣に悩んでいた。
歌音「こっちにすると気合入れすぎだと思われそうだし、こっちは逆にいつも通り過ぎる!」
歌音「せっかく付き合って初めてのデートなのに~!」
鏡の前に服を持っていき体に合わせてみるが、イマイチぴんとこずに「ひーん」と泣く。
机の上は既にためした服やアクセサリーが散乱していた。
(モノローグ)
誕生日の日、お互いの心が通じ合った。
それは嬉しかったし、こんな奇跡みたいなことがあっていいのかと浮かれたものだ。
でもふと疑問に思った。
付き合うって、何すればいいの……?? と。
だって今まで恋愛経験なんてなかったし、好きになったのも陽くんだけだから恋愛の右も左もさっぱりなのだ。
あわてて買った雑誌には「付き合ったらまずはデート」とか、「スキンシップを重ねるて新鮮な経験を」だとか書いてあったけど……。
陽くんとは幼なじみということもあって、既にいろんなところに遊びに行ったり、お互いの家に入ったりしてしまっている。
あれ、これ関係変わってもあんまり変わらない……?
なんて考えていたときだった。
お兄ちゃんが個展を開催するから見にきてくれといってきたのは。
音楽以外の芸術にあまり触れてこなかった私にとって、美術館は初めての領域だった。
これなら今までと違う経験ができるのではないかと思ったのだ。
(モノローグ終了)
歌音(だからこれ幸いと陽くんを誘ったはいいんだけど……)
歌音「はあ。前までどんな服で会っていたっけ……」
付き合って初めてのデートだから、どうせなら可愛いと思ってもらいたい。
けれど気合入れすぎと思われるのは嫌。
複雑な乙女心だった。
歌音「しかもなんでいきなり美術館デートにしちゃったかな私……」
歌音(新鮮な経験って言ったら遊園地とかレジャー施設だってあるじゃない? そっちだったらある程度服のレパートリーあるのに……美術館だよ!? どんな服にすればいいか分からなさすぎる!)
私服はオフショルやパーカーなどの活発系の服が多かった歌音にとって、美術館デートに着ていく服を決めるのは難易度が高かった。
歌音(こんなことならファッション雑誌みて一式買っておくんだった……)
歌音「先が思いやられる……」
かれこれ前日の夜からずっと悩んでいる歌音、再びヒンヒンと泣く(デフォルメで)。
歌音「って! やば! そんなこと言ってられないってば!」
時計を見るともう約束の時間だった。
どたどたと準備をしていく歌音は、結局ちょっとキレイめなニットにワンピースを合わせて外に出た。



