球技大会から二週間が経過した。
伊吹と倫太郎の活躍は、今も学園中の話題となっている。
特に女子の間では、サッカー部に二人組アイドル誕生なんて言われて、もてはやされていた。
サッカー部の……そう、一週間ほどで足が治った伊吹は、正式にサッカー部へ入部した。
サッカークラブにいた頃のように、また倫太郎と楽しくサッカーをするため――。
願いが叶った倫太郎は、伊吹ともすっかり仲良くなる。
三年間離れていたとは思えないくらいに、毎日一緒にいるようになった。
「いただきますっ」
昼休みになると、わざわざ約束することなく四人一緒にお弁当を食べるのが定着した。
球技大会前にも一度同じようなことはあったけれど、実は座る席に変化があって。
私の隣には伊吹が座り、沙知の隣には倫太郎が座っている。
どうしてそうなったかというと――。
「倫太郎って休日何してるの? 好きなアーティストいる? 好きなドラマは?」
「ちょ、質問多すぎ! 一個ずつにしろ」
「だって私、倫太郎のことなんでも知りたいんだもん」
沙知の質問攻めに、倫太郎がタジタジになっている。
なんと、球技大会で倫太郎のプレーを見た沙知が恋に落ちた。
翌日に相談された時は驚いたけれど、沙知は大切な親友だから、倫太郎との恋が実ってくれたら嬉しい。
それに消極的な私と違って、沙知は好きだと思ったら一直線に突き進む積極性がある。
だから倫太郎も、沙知のアピールには少し勘づいているみたい。しかも満更でもない様子。
「……休日はランニング。音楽は割となんでも聴く。好きなドラマは……刑事もの」
「じゃあ今度の土曜日、恋愛映画観に行かない?」
「俺の回答の意味ねー……」
沙知のペースにハマっている倫太郎だけど、とても楽しそうなオーラが出ているように見えた。
そんな二人を正面にして、私と伊吹は毎日お弁当を食べている。
ハッとした沙知が、気を遣って私と伊吹にも声をかけてきた。
「あ、紅葉と伊吹も一緒に行く?」
「え! いやいや、二人の邪魔しちゃ悪いし……」
「そうだよ。沙知と倫太郎で行っておいで」
丁重にお断りした私は、伊吹も同じ考えだったことに安堵した。
こういうのは、沙知と倫太郎の二人きりで行った方が絶対にいい。
それにしても、デート良いなぁと憧れを抱いていると伊吹がこっそり耳打ちしてきた。
「紅葉、今日の放課後少し時間ある?」
「えっ、うん……」
「大事な話があるんだ。中庭で待っていてほしい」
にこりと微笑む伊吹に、私は頷くので精一杯だった。
改まって大事な話とは一体なんだろう?
私が考え込んでいると、そこへ学園マドンナの雛菊さんが現れた。
「伊吹くん、倫太郎くん……」
「あれ、雛菊どうしたの?」
雛菊さんは眉を寄せて、とても険しい顔をしていた。
夏祭り以降、雛菊さんとは気まずい関係にいた私は静かに視線を逸らす。
二年生になった当初、雛菊さんはおそらく伊吹のことが好きだったはず。
そして夏祭りの時、私が結果的に邪魔をしてしまって恨みを買ったに違いない。
けれど夏休み明けには、編入生の倫太郎のことを気にかけていて、現在の気持ちはわからず。
そんな雛菊さんが二人に何の用事だろうと気にしていると――。
「サッカー部のキャプテン、長倉先輩の星座を教えて欲しいの」
「……長倉先輩の、星座?」
伊吹が聞き返すと、雛菊さんの頬がほんのり赤くなる。
そして長倉先輩との出会いを話しはじめた。
「球技大会の時、たまたま三年生のサッカー試合でお見かけして、胸がときめいたの!」
「そうなんだ。長倉先輩、男から見てもかっこいい人だよ」
「そうよね! 最近、彼がサッカー部のキャプテンだと知ったの。だから伊吹くんなら何か知ってるかなって思って」
雛菊さんは少し恥じらいながら、恋する乙女の瞳をしていた。
それでも伊吹は冷静に、そして優しく返答する。
「ごめん。星座は知らないけど、部活の時にそれとなく聞いてみるね」
「あ、ありがとう……!」
「なんでキャプテンの星座?」
可愛らしい笑顔が咲いた雛菊さんに、今度は倫太郎が質問する。
すると雛菊さんは、ある本の表紙を見せてくれた。
「私、星座占いを参考にしているの!」
「えっ⁉︎」
「星は私を幸せに導いてくれる。私のお目にかかった彼が運命のお相手がどうか、毎回星に尋ねているのよ」
星占いの本を抱きしめて、雛菊さんがうっとりとした表情をする。
「じゃあ伊吹くん、よろしくお願いね?」
「うん。任せて」
そうして雛菊さんは上機嫌な様子で教室をあとにした。
学園マドンナの令嬢も、星占い好きの恋多き普通の女の子なんだ。
私も星占いに少し興味があったから、今度雛菊さんに教えてもらおうかな。
そんなことを考えるくらいに、近寄り難かった雛菊さんにも親近感が湧いていた。
少し前まで、こんなに周囲の環境が変化するとは思ってもみなかった。
密かに護衛することしかできなかった伊吹の隣で、こうしてお弁当を食べていることも。
同じ忍者の末裔で敵だと思っていた倫太郎と、同じ学校でお友達になれたことも。
ずっと私の恋を応援してくれた親友の沙知が、自分の恋のために燃えていることも。
全部が奇跡のようで現実に起こっていることに、私は感動していた。



