二週間が経ち、いよいよ球技大会当日を迎えた。
全校生徒が白Tシャツとジャージのハーフパンツ姿となって、気合いに溢れている様子。
開会式後、早速バレーボールの初戦があった。それを勝利で終えた私と沙知は、すぐにグラウンドへと足を運んだ。
もうすぐ、私たち二年C組のサッカー試合がはじまるから。
すでに観客エリアは大勢の人で埋め尽くされ、特に女子生徒が多いように見受けられた。
自分のクラスの応援の場合、ベンチから一番近い位置で応援できる。
クラスメイトと集まって、試合がはじまるのを待った。
「伊吹くーん!」
「倫太郎くーん!」
シュート練習をする伊吹と倫太郎に黄色い声援が送られるけれど、二人とも真剣な表情だった。
多く得点をとった方が勝ち。
伊吹と倫太郎が、水面下でそんn勝負をしているとは誰も思っていないだろう。
すると監督を務める高田先生が近くを通りかかり、私に問いかけてきた。
「上田さんは……」
「は、はい!」
「二之宮くんと富岡くんを推薦したけれど、二人がサッカーしているところを見たことあったんですか?」
どうしてそんな質問をされたのかは不明だけれど、私は正直に答える。
「ボールを蹴っているところは見ました。でも試合をしているところは実際見たことなくて……」
「そうなんですね。二人ともフォワードなんですけど、不思議なんです」
「不思議?」
サッカーのフォワードというポジションは、得点を狙うのが主な役割だと以前お父さんが教えてくれた。
味方がボールを支配している時は、最前線にいる伊吹と倫太郎がゴールを狙いに走ることになる。
高田先生は、練習の時から感じていた二人の違和感を話しはじめた。
「息が合ったような動きをするのに、互いにパスは絶対に出さないんです」
「え?」
「まるで得点を競うかのように、パスボールを欲しがって自らゴールを決める。喧嘩でもしているんでしょうか?」
高田先生の的確な分析に、私は恐怖すら覚えた。
けれど私が二人の勝負のことを他言するわけにはいかなくて、「どうなんでしょう」としか答えられなかった。
シュート練習終了の合図をするため、高田先生は伊吹たちの元に向かっていった。
タイミングを見計らっていたのか、隣にいた沙知がこそっと耳打ちしてくる。
「本当に競ってたりして」
「え?」
「どっちがサッカー上手だとか、もしくは紅葉とのデート権を獲得できるとか。紅葉に告白できるとか?」
ここにも伊吹と倫太郎の様子を分析している人がいた。
私は頬を熱くしながらすぐに否定する。
「な、なんで私の名前が出てくるの……⁉︎」
「だって二人が競うほどの目的って、それくらいでしょ?」
「……え?」
沙知の言葉に、私の胸の奥がザワザワしてきた。
二人が競うほどの目的が、私?
以前、三人で一緒に下校した時に倫太郎が言っていた。
『これは俺と伊吹の、男同士の問題だ』
そして伊吹も――。
『俺も譲る気はないよ、絶対に……』
それが雛菊さんのことではないとわかったけれど、他の女子は見当もつかなくて。
だけど、沙知の言っていることが本当なら……。
二人が勝負する理由って、私のせいなの?
そう考えた途端、胸が苦しくて心臓の音が身体中に響いた。
「試合開始!」
ピー!という笛の音と共に、試合が始まった。
味方チームのパス回し、敵チームの堅い守りのやりとりが続いた。
そうしてようやくシュートチャンスのボールを獲得したのは、倫太郎だった。
素早いドリブルで敵チームのディフェンスをかわすと、そのままゴールに向かってボールを蹴る。
大きなカーブを描いたボールは、パシュっと音を立ててゴールネットを揺らした。
「きゃー! 倫太郎ー!」
「かっこいいー!」
観客エリアからは、倫太郎を応援する声が鳴り止まない。
味方チームのメンバーに讃えられていた倫太郎。私はその様子を、複雑な気持ちで眺めていた。
沙知の言うとおり、私のための勝負なのだとしたら。
私が一番応援したいのは、大好きな伊吹だから――!
「伊吹ー! がんばってーー!」
そう思った時には、恥じらいなんて忘れて伊吹の名前を呼んでいた。
倫太郎へのたくさんの声援で、私の声なんて届かないと思った。
でもグラウンド上の伊吹が、私の存在に気づいてくれた。
いつもの余裕そうな笑顔を見せてくれて、私は安堵する。
「あ……」
大丈夫。伊吹ならきっとやってくれる。
そんな気持ちで、私は最後まで試合を応援した。



