don't back

 時間はいくらでもあるのでのんびり見学していたら、草むらからひょこりと背の低い小学生が顔を出した。ボールを持ってトコトコとみんなの元へ戻る。

 試合をしている小学生たちとは別に、コートの外でパス練習をしている小学生たちがいる。その中に混ざり、男の子には少々大きいボールを一生懸命蹴っていた。

 きっと彼はレギュラーではないのだろう。試合に出る機会も少ないのかもしれない。見ただけで判断するのは失礼だけれど、コートにいる小学生との差は明らかだった。

 私は今までコートにいるのが当然だと思っていた。

 もちろん、それだけの努力をしてきた。

 でも、人はいつどうなるか誰にも分からない。その時が突然やってきただけだ。

 そこで諦めるのか、這い上がるのか。

 私は後者でありたい。

 他人には無様に映っても、私は諦めることはできない。

 コート外にいる彼らだって、私には一生懸命な選手に見える。

 どんなに望んでいたってもう夢は戻ってこないのだから、これからは私が夢を作っていくんだ。

「よし」

 必死に走る彼らのおかげで、私の目もだいぶ覚めた。

 私は私。今の私を受け入れよう。そして、新しい自分で走り出す。

「まずは、部活の時心配されないように、声を戻すことから」

 それには自分の力だけでは足りないかもしれない。どうしたらいいだろう。

 悩みながら駅前を歩く私の視界にあるものが映った。

「リニューアルオープンしました」

 ティッシュ配りをする女性だ。でも、ティッシュには珍しくピアノの写真が。吸い込まれるように近づいた私の手にお姉さんがティッシュを載せてくれた。

──音楽教室!

 なるほど、その手があった。合唱を何年もやってきたといっても所詮は素人の子ども。独学でやっても、逆に喉を傷めてしまうかもしれない。それならば、プロに教えを乞う方が未来への道が近づく。

 ティッシュには名前と連絡先、住所が書かれている。月謝は実際に聞いてみないと分からないらしい。

「スマホで調べてみよ」

 QRコードを読み込んでホームページを確認する。そこには、長期の他に夏休みの短期集中コースが紹介されていた。

「ちょうど夏休みでよかった。これなら短期集中がいいな。戻るまでだし、週に一回じゃ夏休み明けに間に合わない」

 短期集中コースの金額を確認する。二週間五回までで二万円だった。

 二万円、二万円か……個人レッスンだからそのくらいかかるよね。お小遣い何か月も貯めなきゃ払えないや。お年玉を下ろして払っていいか聞いてみよう。

 十四歳に二万円は大きすぎる。でも、声を戻すことの方がずっとずっと重要だ。