don't back

「お、いいね」
「家原先輩」

 気付いたら部活の時間になっていた。部長の家原先輩が拍手をしてくれた。

「いやぁ、はは」

 二人して右手で頭を掻いたので、部員が笑った。私たちも笑う。先輩たちとは結構仲が良いと思う。部内で派閥があるところもあるらしいので、部活が楽しみな時点でかなり恵まれている。

「先輩、一年生っていつから見学でしたっけ」
「明後日じゃないかな。まあ、運動部みたいに派手な宣伝はできないけど、数人は入ってくれるでしょ」
「じゃないと困ります!」

 二学年しかいない今、部員は男子四人、女子十人の十四人だ。混声三部合唱はできる。でも、やっぱり声の厚みというものが大事で、人数の多いところには負けてしまう。だから、最低六人は入ってほしい。特に男子。

「久君、一年生で入ってくれそうな子いない? 合唱団入ってた子とか」
「そうだなぁ」

 合唱団が同じだった小林久成が腕組みをする。合唱団があった私たちの小学校は、中学校の学区では二つに分かれてしまい、違う中学になってしまった子もいる。むしろ、うちの学校の方が少ない。だからか、合唱部は人数が少な目の部になってしまった。

「家が近いやつ二人いるから、少なくともどっちかは入るんじゃないかな」
「う~、絶対入ってほしい。私も学区一緒の子いるから会えたら誘ってみる」

 本音を言えば、三学年合わせて二十四人は欲しい。そうしたら、かなり迫力のある音を出せる。

 せっかく合唱を続けてコンクールにも出るんだから、できる限りのことはしたい。今年こそ全国、は無理でもブロック大会には行ってみたいから。

──ブロック大会も、まずは予選通って本選も通らないといけないから狭き門だけど。

 でも、目標は高く! ね。

 まだコンクールが始まってないんだから、いくら上を目指したっていいだろう。高ければ高い程、そこへ向かおうと努力もできる。

「二年生たち、部活紹介を頼む」

 三年唯一の男子、倉田先輩が私たちに向かって言った。すぐさま反論する。

「三年生も一緒に出るんだから、倉田先輩も頑張ってください」
「そうだよ、倉田。いちおう副部長でしょ」
「へ~い。受験生でも頑張ります」
「まだ全然やってないし余裕って言ってたけど」

 いつもの光景、家原先輩と倉田先輩の掛け合いが始まった。二人は部長と副部長だからたいてい一緒にいる。男子と女子だけど、良い友だちというかコンビっぽい。

「今はソプラノ五人、アルト五人、男声が四人か。うまくばらけて入ってくれるといいけど、こればっかりはなぁ。倉田、本当に男子お願いね」

「俺に言われても……頑張るけど」

 その時、顧問の小川先生が入ってきた。

「はい、みんな集まって。発声練習から行くよ」
「はぁい」

 小川先生が今日の部活について説明する。明日の部活紹介の練習をするので、今日は課題曲の練習はしないらしい。残念。でも、部活紹介の出来で興味をもってくれる新入生が増えるかもしれないから。

 披露する曲は去年流行った曲を合唱曲にアレンジしたもの。合唱に馴染みがなくても聴きやすいものにした。紹介時間は部活ごとに五分しかないから、一生懸命アピールしなくちゃ。

 部活は運動部と文化部だと運動部の方が人気がある。特に男女ともに人気があるのが弓道とテニス。弓道格好良いもんね。袴を着られるから選んだっていう子もいた。

 文化部は合唱部以外は吹奏楽と美術、演劇部がある。一番人気は吹奏楽。演劇部は三人だから廃部の危機らしい。合唱部も良い成績取らないと、数年後は同じようになっているかも。

 そこまで思って寒気がした。そんなことにならないよう、今頑張ってるんだもんね。

「はい。じゃあ、頭から通すよ」

 アルトの一人がピアノ担当になり、十三人で声を出す。コンクールや定期演奏会はピアニスト役の人を募集するんだけど、こういう小さいイベントはピアノを弾ける人が交代に弾いている。私も弾いたことがあるけど、ピアノって歌うより緊張する。

「もし、君が~♪」

 元々合唱曲だったわけじゃないから、メロディラインが複雑で結構難しい。ノリを出せないと、楽しさを伝えられない。

「ソプラノ、スタッカートを意識して」
「はい」
「男声はもう少し全体的に音量上げていいよ。深みを出そう」
「はい」

 先生がアドバイスをしていくので、楽譜に書き込んで忘れないようにする。明日が本番だから、最後まで気を抜かないように。

 十七時半過ぎに部活が終わる。十八時には完全撤収しないと見回りの先生に怒られちゃうので、友だちと話をしながらも手を動かした。

「じゃあ、明日は給食終わったらすぐ集合。忘れないでね」
「はい」

 家原先輩に言われて元気よく答える。明日楽しみだな、でもちょっと怖い。何人入ってくれるだろう。仮入部期間もあるから、結果が分かるのはまだ先だ。

 まだまだ明るい外に出る。当たり前だけど、一年生は見当たらない。仮入部期間に入ったら、この時間でも一年生がいるのか。まだ実感できないな。

「咲菜のクラスって宿題出た?」
「ううん、真奈美のとこ出たの?」
「そう! 授業始まったばっかなのにさ、きつくない?」

 真奈美の愚痴を聞きながら帰る。一年生の頃からずっと一緒だから、もし隣にいなくなったら寂しくなっちゃう。卒業までずっと一緒に帰ろうね。