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2022年9月18日(日) 午前7時10分/祖父の家
——チュンチュン……

どこかで小鳥のさえずりが聞こえる。
目を開けると、天井がぼんやりと視界に入った。

(……朝だよね?)

昨夜の出来事が、一気に脳裏に蘇る。

玄関の鍵が勝手に開いたこと。
狒々の影が、侵入しかけたこと。
そして、扉が閉まる直前に"赤い目"が見えたこと——。

私は反射的に布団の中で身を縮めた。

しかし——部屋の中は、いつもと変わらない。

開け放たれた窓から、ひんやりとした朝の空気が入り込んでいる。
遠くでは祖父のラジオ体操の音楽が流れ、カエルの鳴き声が混ざっている。

(……本当に、全部"あったこと"なんだよね?)

私はゆっくりと起き上がり、隣の部屋を覗いた。

裕也は、布団をかぶったまま寝ていた。
彼の寝息が、静かに規則的に響いている。

(……本当に、何もなかったみたい)

そう思うと、あの恐怖が"ただの悪夢だった"ような気さえしてきた。

——でも。

"何か"が違う。

私は、洗面所へ向かい、顔を洗おうと蛇口をひねった。

冷たい水が、手のひらに広がる。

顔を上げ、鏡を覗き込むと——。

(……あれ?)

首をかしげた。

なんだろう、この"違和感"。

いつもと変わらないはずの自分の顔。
けれど、ほんのわずかに"何かがズレている"気がした。

昨日と何が違うのか、はっきりとはわからない。
だけど、どうしてもその"違和感"が消えない。

私はゴシゴシと目を擦り、もう一度鏡を覗き込んだ。

——その瞬間、背筋が凍りついた。

(……これ……私……?)

鏡の中の"私"は、確かに私だった。
でも——なぜか"ほんの少しだけ遅れて"動いていた。

一瞬のズレ。
けれど、それは"見間違い"ではないと直感した。

ゾクリと鳥肌が立つ。

私は恐る恐る後ろを振り返った。

——誰もいない。

けれど、鏡に映る"私"だけが、"何かを知っている"ように感じられた。

「おはよう、夏美」

背後から祖父の声がして、私はハッと振り向いた。

祖父は、台所でお茶を淹れていた。
いつもと変わらない、穏やかな朝の光景。

「……おはよう」

私はぎこちなく返事をしながら、再び鏡をチラリと見た。

——もう、おかしなズレはなかった。

(……気のせい?)

落ち着かないまま、居間に向かう。

すると、リビングにはすでに裕也が座っていた。

「おはよ」

「あ……おはよう」

裕也は、少し眠たそうにしながらも、特に変わった様子はない。

……本当に、何もなかったみたい。

——いや、違う。

私は、ふと玄関の方を見た。

そこには、昨日の"異変"の名残があるはずだった。

鍵。

勝手に開いたはずの、玄関の鍵は——

きちんと、かかっていた。

まるで、最初から何も起こらなかったかのように。

「……おかしくない?」

私は、思わず呟いた。

裕也も、鍵に気づき、ハッとした表情になる。

「……昨日、あれ……勝手に開いたよな?」

私はコクンと頷いた。

「でも、今は閉まってる……誰が?」

裕也が、小さく息を呑む。

祖父は、私たちの会話を聞きながら、のんびりとお茶をすすっていた。

「なんだ、お前ら。朝から難しい顔をして」

「いや……昨日の夜、玄関の鍵が勝手に——」

私は、言いかけて言葉を飲み込んだ。

祖父が、不思議そうに首をかしげた。

「鍵? 何かあったのか?」

その表情は、何も知らない"普通の祖父"のものだった。

私は、ゾクッとした。

(……え?)

もし、本当に昨日の夜のことを知らないなら、誰が鍵を閉めたの?

裕也と目を合わせる。

裕也の顔も青ざめていた。

——何かがおかしい。

いや、"全部"おかしい。

「……なあ、夏美」

裕也が、ポツリと呟いた。

「俺たち、"昨日の夜"……本当にあったのか?」

——それは、最も聞きたくなかった疑問だった。