【警告】決して、この動画を探してはいけません!


2022年9月18日(日) 午前1時10分/祖父の家
——まるで"これが終わりじゃない"と言われているような。

その考えが頭をよぎった瞬間、全身の血の気が引くのを感じた。

私は窓の外の"泥の足跡"をじっと見つめたまま、息を呑んだ。

(……影は消えたはずなのに)

なぜ、ここに足跡だけが残っている?

いや、それだけじゃない。

「……何か、おかしくない?」

私は小さな声で呟いた。

裕也が険しい表情のまま、スマホを取り出し、窓の外を照らす。

「……なんかさ……」

彼の声が、わずかに震えている。

「この足跡——"ずっと同じ場所にある"ように見えねぇか?」

「……え?」

私は思わず裕也の顔を見た。

彼はスマホのライトを足跡に向けたまま、唇を噛んでいる。

「普通さ、誰かが歩いたら、"進行方向"の足跡がつくだろ?」

「……うん……」

「でも、こいつは違う……"ここから動いてねぇ"」

裕也の言葉に、私は足跡を凝視した。

確かに、その足跡は同じ場所に"くっきりと"残っている。

(……まるで、"そこに立っていただけ"みたいに)

一歩も動かず、"じっと"こちらを見つめていた?

私は喉がひりつくのを感じた。

(……本当に、終わったの?)

全身の毛が逆立つ。

さっきまで「終わった」と思い込もうとしていた自分が、急に怖くなった。

その時——。

——ギィ……。

家のどこかで、床が軋む音がした。

「……おい、今の……」

裕也が囁くように言った。

私は息を呑んだまま、耳を澄ませる。

家の中は、しんと静まり返っている。

祖父の寝息すら聞こえない。

「……じいちゃん、起きてるのか?」

裕也が小声で言うが、祖父の部屋からは何の反応もない。

誰も動いていないはずなのに——。

(じゃあ、今の音は……?)

私は恐る恐る襖の方へ視線を向けた。

しかし、何も変わらない。

——ただ、嫌な"違和感"だけが消えずに残っている。

「なあ、夏美……」

裕也が沈んだ声で言った。

「社に封じた狒々……本当に、戻ったのか?」

私は、言葉を失った。

「でも、動画は削除したし……社の中に閉じ込めた……」

「そうだよな……だったら、もう終わってるはずだよな……」

裕也は自分に言い聞かせるように呟いた。

だが、彼の表情には、不安の色が滲んでいた。

私もまた——同じことを考えていた。

(……何か、おかしい)

まるで、"歯車が微妙に噛み合っていない"ような違和感。

「……裕也、動画はちゃんと消えたんだよね?」

私は、不安を抱えながら裕也に尋ねた。

「……ああ。確かに消した。もうどこにもないはずだ」

裕也はスマホを手に取った。

画面を開き、動画サイトをチェックする。

——そして。

「……は?」

裕也の顔が青ざめた。

「……嘘だろ……なんで……」

「どうしたの!?」

「……ある。動画、まだ残ってる……!」

私は息を呑んだ。

「え……!? だって、削除できたって……」

裕也は震える指で、再び【削除】ボタンを押した。

《エラー:削除できません》

「……なんで、また……!!」

画面には、削除エラーのメッセージが浮かび上がっていた。

「貸してみて……私がやってみる」

(……消えない? どうして……!?)

その時、画面が"カクッ"と乱れた。

そして——

——キッ、キッ、キッ……

狒々の鳴き声が、スマホのスピーカーから響いた。

「……っ!!」

私は反射的にスマホを手放しそうになった。

画面に映っていたのは——

あの社の映像。

そして、"そこ"には——

影が、ゆっくりとこちらに振り向こうとしている。

「……ダメだ」

裕也が、震える声で呟いた。

「このままじゃ……"ここ"で狙われる……!」

私はゴクリと唾を飲んだ。

——もう、村のどこにいても安全じゃない。

(だったら……社へ行くしかない)

私は、裕也と視線を交わした。

「……社で、この動画を消すしかない」

裕也は、しばらく沈黙した。

そして——小さく頷いた。

「……わかった」

「しかし……今日はもう駄目だ。一旦、寝ようぜ」

裕也がそう言って窓を閉めると自分の部屋に戻って行った。

私も深く息を吐いて、布団に入った。
さっきの"足跡"が脳裏にチラつかせながら、私は浅い眠りに落ちていった。