【警告】決して、この動画を探してはいけません!


2022年8月13日(土) 夜
親たちは、田舎の家によくある大広間で宴会を始めた。

私たちは、食べる物を食べたら、酔っぱらい始めた大人たちを置いて、別室に集まって安高村の祭りについて調べ始めた。
きっかけは、裕也とタケシが持ちかけた「動画撮影計画」だった。
彼らは、この村の祭りには“絶対に覗いてはいけない社”があると主張した。

最初は興味もなかったし、ただの迷信だと思っていた。
でも、調べれば調べるほど、この祭りには「妙な点」が多すぎると気づいた。

この時から、私は記録を取っていくことにした。
私のスマホのメモリ容量は小さいので、長い動画は保存できない。だから、ショート動画を撮影して、時間と何があったのかだけを記録していくことにして、細かい内容は、紙に書き留めていくことにしたのだ。

今思えば赤面ものだが、当時、ある女性監督のドキュメンタリー映画を見て憧れていたのも影響している。
裕也たちは配信用の動画撮影が目的かも知れないが、私の場合は違う、そこまでの過程や様子を残したいのだ。


<夏美の撮影記録>
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2022年8月13日(土) 21:32/調査記録
撮影者:山下夏美

裕也とタケシがスマホを使って調べている様子が撮影されていた。
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安高村の祭りについて、ネットで情報を探した。

しかし、この村に関する記録は異様なほど少なかった。

・安高村の歴史について書かれた記事はほとんどない。
・祭りについての正式な情報も見つからない。
・かろうじて発見できたのは、個人の書き込み程度。

「こんなに情報がないの、おかしくね?」

裕也がスマホの画面をスクロールしながら呟いた。

「こんな田舎の祭り、誰も興味ないってことじゃない?」

私はそう言いながらも、心のどこかで違和感を拭えなかった。

——記録に残っていないのは、「興味がない」からなのか、それとも「残してはいけない」からなのか?


<裕也が見つけた書き込み>
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掲示板投稿(投稿日不明)
【スレッドタイトル】安高村の祭り、知ってるやついる?

【匿名A】:「安高村の祭りって、昔からあるらしいけど、詳細な記録がないんだよな」
【匿名B】:「巫女が社に入って、一晩念仏を唱えるって聞いたことがある」
【匿名C】:「社の中、絶対に覗いちゃダメらしいな」
【匿名D】:「昔、興味本位で覗いたやつが行方不明になったって話、マジ?」
【匿名E】:「何かを見ちゃいけないんじゃなくて、巫女が“何かを見ないために”目隠しをしてるって聞いたけど」
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私はその掲示板を読み、ぞくりとした。

「……巫女が目隠しをするのって、社の中で何かを見ないため?」

「かもな」

タケシが頷く。

「つまり、社の中には“見たらいけないもの”が置いているってことかな?」

私は無意識にスマホを握りしめた。

——何があるのかもわからないのに、絶対に覗いてはいけない場所。

——巫女は、何かを見ないために目隠しをしている。

本能的に、私はこの祭りに嫌なものを感じ始めていた。

その後、タケシがさらに別の書き込みを見つけた。


<タケシが見つけた書き込み>
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掲示板投稿(撮影日不明)

【匿名】:「安高村の祭りを見た。巫女が社に入る瞬間を撮ったら、何か映った」
添付画像:社の内部(奥に不明な影)
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画像を見た瞬間、私は息を呑んだ。

画質は荒く、ブレていた。
だけど、社の奥の暗闇の中に、ぼんやりとした赤黒い影が映っている。

「……これ……」

「な?」

裕也がニヤリと笑う。

「これ、絶対バズるネタだろ」

「いやいやいや、そういう問題じゃなくない?」

私は、やっぱり嫌な感じがしていた。

「やっぱりこの祭り、面白そうだよな」

タケシが興奮した様子で言う。

「……ねえ、本当にやるつもり?」

「もちろん!」

「だって、誰もこの社の中を撮ったことがないんだぞ? 俺たちが撮影したら、絶対に話題になる」

「そういう問題じゃなくて……」

私は、違和感を拭いきれずにいた。

なぜ、社の中を覗いてはいけないのか?
なぜ、巫女は目隠しをするのか?
なぜ、この祭りについての記録がほとんど残っていないのか?

すべてが、「触れてはいけないもの」のように思えた。

「……やめた方がいいんじゃない?」

私は、もう一度言った。

だけど、裕也とタケシは全く聞く耳を持たなかった。

「何も起こらないって! ただの村の迷信だよ」

「心配しすぎだって。まあ、もし怖いんなら夏美は撮影だけでもいいし」

私は、深くため息をついた。

その時の私は、まだ「これはただの田舎の言い伝え」だと思っていた。
——けれど、それが本当に“見てはいけないもの”だったとしたら?

今ならわかる。
あの時、私は無理にでも止めるべきだったのだ。しかし私もドキュメンタリー映画のノリで
撮影していたので、同罪かもしれない。