テラスを追いかけるのを諦めたアンセムは、畑に変わりはないか確認してから寮に戻った。
その足でテラスの部屋へ行く。
同意も求めずキスをしたのだから、完全に自分が悪い。
もう一度きちんと謝ろうと思ったのだが、やはりテラスは部屋にいなかった。
『軽はずみなことをして、本当に悪かった。-アンセム-』
仕方なくメモを残して自室へ戻ることにした。
部屋にカギを差し込んだタイミングで声をかけられる。
「あの、アンセムさん…」
振り向くと、顔も知らない女の子が立っていた。
黒くて艶やかな髪をハーフアップにし、大きな瞳は茶色で、長いまつげはクリンとしている。
小柄だが胸は大きく、抱き心地が良さそうだ。
ピチっとしたシャツに、ふわりした小花柄のスカートを合わせていた。
無言で言葉の続きを待つアンセム。
自分の失態にイライラして、笑顔で対応する余裕がない。
「あ、あの、私、今年入寮したナミルと言います」
シャイなのか、作戦なのか、ナミルは俯いたままだ。
先月から新しく入寮してきた女の子から、いきなり話しかけられるのは良くあることだった。
「あの…」
ナミルは意を決したようにアンセムをまっすぐ見つめて、声は小さいけれどきっぱりと言った。
「私の初めての人になってくれませんか?」
(ああ、またか)
アンセムはとくに驚かない。
これも良くあることなのだ。
入寮すると、男女問わず早速皆相手探しに精を出す。
その中には、とにかく先に性体験を済ませたいと思うものもいて、発展は期待できなくても、自分の理想の相手に声をかけるのは珍しいことではなかった。
とくに、アンセムのように人気のある異性にこの手のお願いをしてくる者は多い。
去年のアンセムは大抵応じていが、今年は断っていた。
「とりあず、中入る?」
しかし、今日はナミルを部屋に入れることにした。
好みのタイプだからではない。
なんだかむしゃくしゃしていて、妙にやりたい気分だった。
1回きりのあと腐れなしの方が気楽だろう。
「いいんですか?」
瞳をうるわせるナミル。
「立ち話する内容じゃないだろう?」
「ありがとうございます」
ナミルは泣きそうな笑顔をアンセムに向けつつ部屋に入る。
その姿にためらいはまったく感じられない。
「適当に座って」
そう言って、アンセムはベッドに腰掛ける。
「は…はい」
ナミルは遠慮がちにソファに座った。
「なんでオレなの?」
飲み物も出さずにアンセムは本題に入る。
彼には珍しいことだった。
「あの…アンセムさん、覚えていないかもしれませんが、入寮したてで私が寮内で迷子になってた時、親切に声をかけてくれたんです。
それで、そのとき職員ブースに行きたかったんですけど、本当に丁寧に行き方を教えてくれたんです」
「ふーん」
「きっとアンセムさんは忘れちゃってますよね」
正直全く覚えていなかった。
女の子に親切にするのは日常過ぎて、いちいち覚えていない。
「私にとってはすっごく印象的で、優しくって、男の人なのに柔らかな空気で、その日からずっと忘れられなくって…」
じっとアンセムを見つめるナミル。
「出会いはあるんですけど、どうしてもアンセムさんのこと考えてしまうんです」
緊張からか、好きな男性を目の前にしているからか、ナミルの頬は紅潮している。
「アンセムさんが、私なんて相手にしてくれるはずないってことは、わかってるんですけど…」
アンセムを見つめたまま、うるんだ瞳から涙が一筋流れた。
「初めてだけは、アンセムさんしか考えられなくて…」
アンセムはただ聞いている。
「お願いです。私の初めてをもらってくれませんか?」
ついにナミルの瞳から涙があふれ出た。
「そうしないと…前に進めなくて…うう…」
そして、ナミルは手で顔を覆って泣き出した。
(ふぅ)
心の中だけでため息をつくアンセム。
いつもの自分だったら、もう少し優しい気持ちでナミルと話ができた思う。
しかし、なぜだか今日はひどく白けた気分だった。
「ただするだけなら」
短く答える。
ナミルは涙に濡れた顔を上げた。
「本当に、いいんですか?私なんて…」
「セックスするだけだよ。その後は知らない。オレは関係ない」
我ながら最低な発言だと思う。
「はい。いいんです。それだけで充分です」
泣き顔が笑顔に変わる。
「なら早速しよう」
そう言ってアンセムはベッドから動かない。
「あ、あの…」
「何?シャワー浴びる?」
「いえ」
首を振ってナミルは戸惑いながらアンセムへ近づいた。
アンセムはナミルの腕をとり、ベッドに押し倒すと大きな胸に手を這わせる。
男を欲情させるに充分過ぎる魅力を持った身体だ。
「ま…待って…」
いきなりのことに、思わず静止してしまうナミル。
「そう?やめる?」
アンセムはすぐに離れた。
「いえ!大丈夫です」
あまりにあっさり自分からアンセムが離れたので、ナミルは慌てた。
「無理する必要はないよ」
「本当に大丈夫です。お願いします!」
このチャンスを逃してなるものかと、ナミルは自分からアンセムに抱きついた。
事が終わり、ナミルを部屋から見送ったあと、アンセムはシャワーを浴びながら自己嫌悪していた。
(本当に、なにやってるんだオレは)
性欲は満たされたが、気分は最悪だ。
ナミルは嬉しそうに部屋を出て行ったが、受け入れたことを後悔していた。
テラスの顔が浮かんでくる。
相手を男女関係なく、まずは人として接するテラス。
異性として意識されないことに居心地の良さを感じていたのに、なぜかキスしてしまった。
あんなことしなければ、順調に親しくなれたはずなのに。
しかも拒絶された。
異性からあんなにも拒否されたのは初めてだった。
相手が気に入っているテラスだからこそ凹んだ。
それにイラついて、八つ当たりのように入寮したての女の子を抱いてしまった。
「最低だ。オレは」
自分が嫌になり、どこまでも沈んでいくアンセムであった。
その足でテラスの部屋へ行く。
同意も求めずキスをしたのだから、完全に自分が悪い。
もう一度きちんと謝ろうと思ったのだが、やはりテラスは部屋にいなかった。
『軽はずみなことをして、本当に悪かった。-アンセム-』
仕方なくメモを残して自室へ戻ることにした。
部屋にカギを差し込んだタイミングで声をかけられる。
「あの、アンセムさん…」
振り向くと、顔も知らない女の子が立っていた。
黒くて艶やかな髪をハーフアップにし、大きな瞳は茶色で、長いまつげはクリンとしている。
小柄だが胸は大きく、抱き心地が良さそうだ。
ピチっとしたシャツに、ふわりした小花柄のスカートを合わせていた。
無言で言葉の続きを待つアンセム。
自分の失態にイライラして、笑顔で対応する余裕がない。
「あ、あの、私、今年入寮したナミルと言います」
シャイなのか、作戦なのか、ナミルは俯いたままだ。
先月から新しく入寮してきた女の子から、いきなり話しかけられるのは良くあることだった。
「あの…」
ナミルは意を決したようにアンセムをまっすぐ見つめて、声は小さいけれどきっぱりと言った。
「私の初めての人になってくれませんか?」
(ああ、またか)
アンセムはとくに驚かない。
これも良くあることなのだ。
入寮すると、男女問わず早速皆相手探しに精を出す。
その中には、とにかく先に性体験を済ませたいと思うものもいて、発展は期待できなくても、自分の理想の相手に声をかけるのは珍しいことではなかった。
とくに、アンセムのように人気のある異性にこの手のお願いをしてくる者は多い。
去年のアンセムは大抵応じていが、今年は断っていた。
「とりあず、中入る?」
しかし、今日はナミルを部屋に入れることにした。
好みのタイプだからではない。
なんだかむしゃくしゃしていて、妙にやりたい気分だった。
1回きりのあと腐れなしの方が気楽だろう。
「いいんですか?」
瞳をうるわせるナミル。
「立ち話する内容じゃないだろう?」
「ありがとうございます」
ナミルは泣きそうな笑顔をアンセムに向けつつ部屋に入る。
その姿にためらいはまったく感じられない。
「適当に座って」
そう言って、アンセムはベッドに腰掛ける。
「は…はい」
ナミルは遠慮がちにソファに座った。
「なんでオレなの?」
飲み物も出さずにアンセムは本題に入る。
彼には珍しいことだった。
「あの…アンセムさん、覚えていないかもしれませんが、入寮したてで私が寮内で迷子になってた時、親切に声をかけてくれたんです。
それで、そのとき職員ブースに行きたかったんですけど、本当に丁寧に行き方を教えてくれたんです」
「ふーん」
「きっとアンセムさんは忘れちゃってますよね」
正直全く覚えていなかった。
女の子に親切にするのは日常過ぎて、いちいち覚えていない。
「私にとってはすっごく印象的で、優しくって、男の人なのに柔らかな空気で、その日からずっと忘れられなくって…」
じっとアンセムを見つめるナミル。
「出会いはあるんですけど、どうしてもアンセムさんのこと考えてしまうんです」
緊張からか、好きな男性を目の前にしているからか、ナミルの頬は紅潮している。
「アンセムさんが、私なんて相手にしてくれるはずないってことは、わかってるんですけど…」
アンセムを見つめたまま、うるんだ瞳から涙が一筋流れた。
「初めてだけは、アンセムさんしか考えられなくて…」
アンセムはただ聞いている。
「お願いです。私の初めてをもらってくれませんか?」
ついにナミルの瞳から涙があふれ出た。
「そうしないと…前に進めなくて…うう…」
そして、ナミルは手で顔を覆って泣き出した。
(ふぅ)
心の中だけでため息をつくアンセム。
いつもの自分だったら、もう少し優しい気持ちでナミルと話ができた思う。
しかし、なぜだか今日はひどく白けた気分だった。
「ただするだけなら」
短く答える。
ナミルは涙に濡れた顔を上げた。
「本当に、いいんですか?私なんて…」
「セックスするだけだよ。その後は知らない。オレは関係ない」
我ながら最低な発言だと思う。
「はい。いいんです。それだけで充分です」
泣き顔が笑顔に変わる。
「なら早速しよう」
そう言ってアンセムはベッドから動かない。
「あ、あの…」
「何?シャワー浴びる?」
「いえ」
首を振ってナミルは戸惑いながらアンセムへ近づいた。
アンセムはナミルの腕をとり、ベッドに押し倒すと大きな胸に手を這わせる。
男を欲情させるに充分過ぎる魅力を持った身体だ。
「ま…待って…」
いきなりのことに、思わず静止してしまうナミル。
「そう?やめる?」
アンセムはすぐに離れた。
「いえ!大丈夫です」
あまりにあっさり自分からアンセムが離れたので、ナミルは慌てた。
「無理する必要はないよ」
「本当に大丈夫です。お願いします!」
このチャンスを逃してなるものかと、ナミルは自分からアンセムに抱きついた。
事が終わり、ナミルを部屋から見送ったあと、アンセムはシャワーを浴びながら自己嫌悪していた。
(本当に、なにやってるんだオレは)
性欲は満たされたが、気分は最悪だ。
ナミルは嬉しそうに部屋を出て行ったが、受け入れたことを後悔していた。
テラスの顔が浮かんでくる。
相手を男女関係なく、まずは人として接するテラス。
異性として意識されないことに居心地の良さを感じていたのに、なぜかキスしてしまった。
あんなことしなければ、順調に親しくなれたはずなのに。
しかも拒絶された。
異性からあんなにも拒否されたのは初めてだった。
相手が気に入っているテラスだからこそ凹んだ。
それにイラついて、八つ当たりのように入寮したての女の子を抱いてしまった。
「最低だ。オレは」
自分が嫌になり、どこまでも沈んでいくアンセムであった。



