「おはようテラス」
テラスが図書館を訪れると、カウンターにはカイではなくアンセムがいた。
「あっ!」
驚いて、気まずそうな顔をするテラス。
「久しぶりだね」
「そ、そうでもないよ。4日ぶり、だっけ?」
「人がレポートの邪魔をしないように気を使っていたのに、テラスは電話も訪問も無視って、どういうことかな?」
「え~と…」
テラスは言いよどんだ。
「あと3日くらいでレポートも終わりそうだし、そしたらちゃんと対応しようと思ってたよ」
笑顔で言ってみる。
「笑って誤魔化そうとしてもダメ」
「うう…」
「オレを避ける理由は何?正直に教えてほしい」
テラスはちらっとアンセムを見て、すぐに目を逸らした。
ドキドキした。
ドキドキして、思考がまとまらなくなる。
奥で作業をしていたカイは手を止め、2人のやり取りを傍観した。
そこへ、乱入してくる者がいた。
「いい加減しつこい!」
「シン~、いいじゃないの~!」
既にお馴染みとなってしまった、シンとユキのコンビである。
「おまえら…出入り禁止にするぞ」
ボソリとカイが呟く。
アンセムは露骨に嫌な顔をし、テラスは追求から開放されてホッとした。
ナミルとユキの食堂でのやりとりは、ナミルがユキに嫉妬して手を出したという事実が曲がった状態で噂が広まり、シンはユキの本意をまだ知らない。
シンはテラスの隣で立ち止まった。
ユキはすかさずシンの腕に絡みつく。
一瞬凄く不快な顔をしたシンだが、ユキのことは放置して、テラスではなくアンセムに話しかけた。
「よう。色男さん」
ジロリと一瞥し、無視を決め込むアンセム。
「テラスと付き合い始めたんだって?」
「シン、何言うつもり?」
テラスはシンの発言に警戒した。
「あんまりテラスに負荷かけるなよな」
アンセムの眉がピクンと動いた。
明らかに怒っている。
「シン、余計なこと言わないで」
「テラスはあんたを好きになって嬉しいって言ってたぜ。
だけど、それに浮かれて急に色々求めんじゃねーよ」
「シ、シン!!」
「そんなことは、言われなくてもわかっている」
怒りを押し殺すアンセム。
「本当か~!?だったらなんでテラスがあんたと2人で会うのを拒むかわかってんの?」
「わ!わーー!!!」
テラスは大声を出しながら、シンの口を両手で塞いだ。
「ちょっと~!テラスさん、私のシンに触んないでよ!」
アンセムはテラスがシンの唇を触ることに耐えられず、立ち上がってテラスの腕をひいて自分のほうへ引き寄せた。
口が自由になりシンは続けた。
「また押し倒されるのが恐いからだよ!」
「バカ!」
テラスは泣きたくなった。
それが言えなくて避けていたというのに、なんでシンの口から伝わらなければいけないのか。
「わかったような口をきくな」
「実際にテラス本人の口から聞いたんだよ」
それを聞いてアンセムの動きが止まる。
そしてテラスを覗き込んだ。
「テラス、本当か?」
さて、テラスは困った。
どうすればこの場を回避できるか。
こういう話は、アンセムと2人だけでしたかったのに。
「随分と警戒されたもんだな…」
アンセムは肩を落とし、ドサリと椅子に座った。
(違う違う…)
テラスはアンセムにこんな顔をさせたかったわけじゃない。
だから、どうしていいかわからずに逃げていたのに。
逃げることが、アンセムを落胆させることだと今気付く。
「アンセム」
テラスに呼ばれ、アンセムは顔を上げる。
テラスはカウンターに身を乗り出し、アンセムにほんの一瞬だけキスをした。
「な!?」
驚くシン。
その隣で、ひっそりと冷めた目でテラスを見つめるユキ。
アンセムは今のキスが自分の妄想ではないかと信じがたく、目を見開いて硬直した。
カイは優しい眼差しでテラスとアンセムを見守っている。
当のテラスは顔を真っ赤にして、それでもアンセムをしっかりと見ていた。
人前だからなんだというのだ。
もう逃げるのはやめよう。
どんな自分も、きっとアンセムなら受け止めてくれるだろう。
ならば、そのままの自分で接すればいいじゃないか。
「私、アンセムのこと、好きだよ。でも、そーゆーこと、やっぱりまだ恐い。
どうすれば、いい?拒否したら、アンセムは傷つく?」
一生懸命なテラス。
アンセムは愛しさで胸がいっぱいになった。
そして一言。
「気長に待つよ」
そう言って立ち上がり、カウンターから出た。
「ちっ!なんだよ!心配したけど、結局ラブシーン見せ付けられて終了か?」
毒付くシン。
シンはシンなりに、本気でテラスを心配しているのだ。
「ありがと、シン」
シンの気持ちが伝わってきて、テラスは嬉しく思った。
「テラス、今日もレポートするのか?」
アンセムは既にシンなど眼中にない。
「うん」
「少しだけ、一緒に過ごさないか?」
そう言って、テラスの手を握った。
ドキ…。
テラスは一人どぎまぎする。
やっぱりこういうやりとりは慣れない。
だけど…、
「うん。少しだけ」
テラスは頷いた。
「よし、少し外の空気吸いに行こう」
「え?カイさんの手伝いしてたんじゃないの?」
テラスがカイを見る。
「いや、全く支障はないぞ。行ってこい」
ニヤリと笑ってカイが2人を促した。
「行こう、テラス」
アンセムがテラスの手を引いて、出入り口に向かおうとしたので、ずっとドアのところで2人のやり取りを見ていたナミルは、慌ててその場を立ち去った。
木の陰に隠れたナミルに気づかず、アンセムとテラスは楽しそうに話しながらどこかへ歩いていってしまった。
ナミルは涙が溢れて止まらない。
完全な失恋。
相手を信じて、お互いを思いやる2人を目の当たりにして、自分の付け入る隙など欠片も無いのだと思い知る。
今日はもうなにもせず、気が済むまで泣こう。
ナミルはそう決めた。
辛くて辛くて、心がえぐられたようだ。
それでも、偽ってお愛想振りまいている自分より、真剣に相手を想って傷ついてボロボロになっている自分の方が好きかもしれない。
かすかにナミルはそんなことを思った。
まだ、次への力は沸いてこないけれど。
テラスが図書館を訪れると、カウンターにはカイではなくアンセムがいた。
「あっ!」
驚いて、気まずそうな顔をするテラス。
「久しぶりだね」
「そ、そうでもないよ。4日ぶり、だっけ?」
「人がレポートの邪魔をしないように気を使っていたのに、テラスは電話も訪問も無視って、どういうことかな?」
「え~と…」
テラスは言いよどんだ。
「あと3日くらいでレポートも終わりそうだし、そしたらちゃんと対応しようと思ってたよ」
笑顔で言ってみる。
「笑って誤魔化そうとしてもダメ」
「うう…」
「オレを避ける理由は何?正直に教えてほしい」
テラスはちらっとアンセムを見て、すぐに目を逸らした。
ドキドキした。
ドキドキして、思考がまとまらなくなる。
奥で作業をしていたカイは手を止め、2人のやり取りを傍観した。
そこへ、乱入してくる者がいた。
「いい加減しつこい!」
「シン~、いいじゃないの~!」
既にお馴染みとなってしまった、シンとユキのコンビである。
「おまえら…出入り禁止にするぞ」
ボソリとカイが呟く。
アンセムは露骨に嫌な顔をし、テラスは追求から開放されてホッとした。
ナミルとユキの食堂でのやりとりは、ナミルがユキに嫉妬して手を出したという事実が曲がった状態で噂が広まり、シンはユキの本意をまだ知らない。
シンはテラスの隣で立ち止まった。
ユキはすかさずシンの腕に絡みつく。
一瞬凄く不快な顔をしたシンだが、ユキのことは放置して、テラスではなくアンセムに話しかけた。
「よう。色男さん」
ジロリと一瞥し、無視を決め込むアンセム。
「テラスと付き合い始めたんだって?」
「シン、何言うつもり?」
テラスはシンの発言に警戒した。
「あんまりテラスに負荷かけるなよな」
アンセムの眉がピクンと動いた。
明らかに怒っている。
「シン、余計なこと言わないで」
「テラスはあんたを好きになって嬉しいって言ってたぜ。
だけど、それに浮かれて急に色々求めんじゃねーよ」
「シ、シン!!」
「そんなことは、言われなくてもわかっている」
怒りを押し殺すアンセム。
「本当か~!?だったらなんでテラスがあんたと2人で会うのを拒むかわかってんの?」
「わ!わーー!!!」
テラスは大声を出しながら、シンの口を両手で塞いだ。
「ちょっと~!テラスさん、私のシンに触んないでよ!」
アンセムはテラスがシンの唇を触ることに耐えられず、立ち上がってテラスの腕をひいて自分のほうへ引き寄せた。
口が自由になりシンは続けた。
「また押し倒されるのが恐いからだよ!」
「バカ!」
テラスは泣きたくなった。
それが言えなくて避けていたというのに、なんでシンの口から伝わらなければいけないのか。
「わかったような口をきくな」
「実際にテラス本人の口から聞いたんだよ」
それを聞いてアンセムの動きが止まる。
そしてテラスを覗き込んだ。
「テラス、本当か?」
さて、テラスは困った。
どうすればこの場を回避できるか。
こういう話は、アンセムと2人だけでしたかったのに。
「随分と警戒されたもんだな…」
アンセムは肩を落とし、ドサリと椅子に座った。
(違う違う…)
テラスはアンセムにこんな顔をさせたかったわけじゃない。
だから、どうしていいかわからずに逃げていたのに。
逃げることが、アンセムを落胆させることだと今気付く。
「アンセム」
テラスに呼ばれ、アンセムは顔を上げる。
テラスはカウンターに身を乗り出し、アンセムにほんの一瞬だけキスをした。
「な!?」
驚くシン。
その隣で、ひっそりと冷めた目でテラスを見つめるユキ。
アンセムは今のキスが自分の妄想ではないかと信じがたく、目を見開いて硬直した。
カイは優しい眼差しでテラスとアンセムを見守っている。
当のテラスは顔を真っ赤にして、それでもアンセムをしっかりと見ていた。
人前だからなんだというのだ。
もう逃げるのはやめよう。
どんな自分も、きっとアンセムなら受け止めてくれるだろう。
ならば、そのままの自分で接すればいいじゃないか。
「私、アンセムのこと、好きだよ。でも、そーゆーこと、やっぱりまだ恐い。
どうすれば、いい?拒否したら、アンセムは傷つく?」
一生懸命なテラス。
アンセムは愛しさで胸がいっぱいになった。
そして一言。
「気長に待つよ」
そう言って立ち上がり、カウンターから出た。
「ちっ!なんだよ!心配したけど、結局ラブシーン見せ付けられて終了か?」
毒付くシン。
シンはシンなりに、本気でテラスを心配しているのだ。
「ありがと、シン」
シンの気持ちが伝わってきて、テラスは嬉しく思った。
「テラス、今日もレポートするのか?」
アンセムは既にシンなど眼中にない。
「うん」
「少しだけ、一緒に過ごさないか?」
そう言って、テラスの手を握った。
ドキ…。
テラスは一人どぎまぎする。
やっぱりこういうやりとりは慣れない。
だけど…、
「うん。少しだけ」
テラスは頷いた。
「よし、少し外の空気吸いに行こう」
「え?カイさんの手伝いしてたんじゃないの?」
テラスがカイを見る。
「いや、全く支障はないぞ。行ってこい」
ニヤリと笑ってカイが2人を促した。
「行こう、テラス」
アンセムがテラスの手を引いて、出入り口に向かおうとしたので、ずっとドアのところで2人のやり取りを見ていたナミルは、慌ててその場を立ち去った。
木の陰に隠れたナミルに気づかず、アンセムとテラスは楽しそうに話しながらどこかへ歩いていってしまった。
ナミルは涙が溢れて止まらない。
完全な失恋。
相手を信じて、お互いを思いやる2人を目の当たりにして、自分の付け入る隙など欠片も無いのだと思い知る。
今日はもうなにもせず、気が済むまで泣こう。
ナミルはそう決めた。
辛くて辛くて、心がえぐられたようだ。
それでも、偽ってお愛想振りまいている自分より、真剣に相手を想って傷ついてボロボロになっている自分の方が好きかもしれない。
かすかにナミルはそんなことを思った。
まだ、次への力は沸いてこないけれど。



