ナミルはため息をついた。
ついに、アンセムとテラスが付き合い始めたことを、カイから聞いたのだ。
テラスは実験のレポートに忙しいらしく、図書館に来てもアンセムとテラスのツーショットは見ていない。
そのため、現実感はまだないが、それでも落ち込んでしまうのである。
(やっぱり、アンセムさんほどの男性に本気で想われて、好きにならない女はいないってことよね…)
ナミルはそう思っていた。
結局テラスも普通の女なのだ。
自分と同じステージに上がっていたはずなのに、アンセムが選んだのはテラスであることに納得できない。
しかも、アンセムから特に報告があったわけでもない。
アンセムの部屋まで行って励ましたあの日から、話す頻度が増え、少しくらいは自分を特別に思ってくれているんじゃないかと期待していたが、思い上がりだったようだ。
友達を誘う気力もなく、1人食堂で昼食を食べていると、ナミルの背後の席に騒がしい女子集団が座った。
「で、どうなのよ?成果は?」
「もう少しで落ちるんじゃないかな~」
聞きたくないのに会話が聞こえてくる。
後から聞こえてきた声には聞き覚えがあった。
「ユキも物好きよね。あんな男のどこがいいの?」
「え~?べっつに~!
でも、癖のある男落とすのって快感じゃない?ああいうタイプは、結局押せ押せでいけば、いつか落ちるのよ」
ナミルは思わず振り向きそうになった。
声の主は、間違いなくシンに付きまとっているユキである。
「ユキって童顔で華奢で、男の保護欲そそっちゃうタイプでしょう?だから、本気で邪険にできないのよ、男って。
好き好き!って懐けば、どんな男も悪い気はしてないんだから」
聞いていて、ナミルはムカムカしてきた。
「で、シンは本当に落ちそうなの?」
「多分ね」
ユキは自信満々だ。
「なんだかんだ言って、本気で逃げないもん。
これから部屋に押しかけるつもり。今日は無理でも、1週間以内には、きっと部屋に入れると思うんだ。入っちゃえばこっちのもんよね」
「でも、なんでシンみたいな男が好きなの?
あんな偉そうな奴。理解できないなぁ」
「べっつに~!好きじゃないし」
「あ、そうなんだ」
「難しそうな男を落とすのが、楽しいんじゃん」
ナミルは怒りを覚えた。
なんなんだ、この女は。
「じゃぁ、落としたらどうするの?」
「ん~、しばらく付き合ったら次行く。だって、もっと素敵な人狙いたいもんね。今は経験積んでレベルアップしてるの」
「そっか~。ユキって小さくてかわいいからモテるよね。羨ましい」
「2個上だけど、アンセムさんって素敵よね。
なんか、テラスっていう女が気に入られているみたいだけど、全然地味な女だったよ。あれなら、ユキの方が絶対上!
シン落としたら、次はアンセムさん攻めてみようかな~」
ここで、ナミルの堪忍袋の緒が切れた。
まだ水が入っているコップを掴み、振り向き様にユキにぶっかけた。
「きゃあ!」
突然の事態に悲鳴をあげるユキと、あっけに取られて傍観するその女友達。
「何するのよ!」
ユキはすぐにナミルに噛み付いた。
「アンセムさんがユキに興味持つはずないでしょう」
憎憎しげにユキを睨むナミル。
「はぁ!?盗み聞き?信じらんない!」
「あんたみたいに薄い女、シンでも落ちないわよ」
「何なのよ!」
「シンは確かにイヤな奴だけど、ユキの浅はかな戦略に落ちるほど馬鹿じゃないわ」
当然周囲の注目を浴びる。
ナミルは構わず続けた。
「恋愛をゲームと勘違いしてんじゃないの?
今までの男はユキの手にひっかかったのかもしれないけど、アンセムさんやシンは、すごく頭いいんだから、すぐ見破られるのが落ちよ」
ユキは鼻で笑った。
「なによ」
ナミルはそれがとても気に障る。
「ナミルには言われたくないわね。見え見えのブリッコで男達に愛想振りまいているのは誰?偉そうに私に意見しないでくれる?」
カッと頭に血が上るナミル。
「相手にされてないのはナミルでしょう?図書館で、シンもアンセムさんも声かけてなかったじゃない。2人とも、あの地味女に夢中って感じで」
「う、うるさい!」
「談話会でも、一生懸命甲斐甲斐しく料理のお世話とかしちゃってさ。見え見えなのはどっちよ」
クスクスとユキの友達も笑っている。
「ユキがナミルより男に人気あるからって、僻まないでくれる?」
パァァンッッ!!!
ついに我慢できなくなったナミルが、ユキの顔を思い切りひっぱたいた。
「いっ…た~い…」
「大丈夫?」
すぐに駆け寄る友達。
ユキは弱々しく泣き始めた。
ナミルには嘘泣きだとすぐにわかる。
「…やってらんない」
ナミルは食事のトレイを持つと、走ってその場を立ち去った。
悔しくて悔しくて、涙が出そうだった。
ナミルは走って自室に帰った。
部屋に入ったとたんにナミルは叫ぶ。
「ムカツク!!!本当に嫌な女!!!大っキライ!!!!!」
あんな女に目を付けられたシンに同情する。
人を何だと思っているんだ。
馬鹿にするのもいい加減にしてほしい。
「もう!本当に何なのよ!!」
治まらないイライラと不愉快さに、ナミルは苦しんだ。
言葉では反発しているが、言われたことが図星であることに本当は気付いていて、それが辛かった。
アンセムは自分を見ていない。
シンは最初から眼中にないといった感じだった。
カイもいつだってテラスの味方だ。
誰も彼もテラス、テラス、テラスである。
あんな特徴のない女、とナミルは思ったことがある。
ユキが言っていた地味女という表現と、どこが違うというのだ。
最初にブリッコと涙でアンセムの気を惹こうとしたのは、他でもない自分だった。
ユキを嫌うということは、自己嫌悪するのと同じだ。
(私は、あんな嫌な女と同じなんだ…)
ナミルはどこまでも落ちていった。
ついに、アンセムとテラスが付き合い始めたことを、カイから聞いたのだ。
テラスは実験のレポートに忙しいらしく、図書館に来てもアンセムとテラスのツーショットは見ていない。
そのため、現実感はまだないが、それでも落ち込んでしまうのである。
(やっぱり、アンセムさんほどの男性に本気で想われて、好きにならない女はいないってことよね…)
ナミルはそう思っていた。
結局テラスも普通の女なのだ。
自分と同じステージに上がっていたはずなのに、アンセムが選んだのはテラスであることに納得できない。
しかも、アンセムから特に報告があったわけでもない。
アンセムの部屋まで行って励ましたあの日から、話す頻度が増え、少しくらいは自分を特別に思ってくれているんじゃないかと期待していたが、思い上がりだったようだ。
友達を誘う気力もなく、1人食堂で昼食を食べていると、ナミルの背後の席に騒がしい女子集団が座った。
「で、どうなのよ?成果は?」
「もう少しで落ちるんじゃないかな~」
聞きたくないのに会話が聞こえてくる。
後から聞こえてきた声には聞き覚えがあった。
「ユキも物好きよね。あんな男のどこがいいの?」
「え~?べっつに~!
でも、癖のある男落とすのって快感じゃない?ああいうタイプは、結局押せ押せでいけば、いつか落ちるのよ」
ナミルは思わず振り向きそうになった。
声の主は、間違いなくシンに付きまとっているユキである。
「ユキって童顔で華奢で、男の保護欲そそっちゃうタイプでしょう?だから、本気で邪険にできないのよ、男って。
好き好き!って懐けば、どんな男も悪い気はしてないんだから」
聞いていて、ナミルはムカムカしてきた。
「で、シンは本当に落ちそうなの?」
「多分ね」
ユキは自信満々だ。
「なんだかんだ言って、本気で逃げないもん。
これから部屋に押しかけるつもり。今日は無理でも、1週間以内には、きっと部屋に入れると思うんだ。入っちゃえばこっちのもんよね」
「でも、なんでシンみたいな男が好きなの?
あんな偉そうな奴。理解できないなぁ」
「べっつに~!好きじゃないし」
「あ、そうなんだ」
「難しそうな男を落とすのが、楽しいんじゃん」
ナミルは怒りを覚えた。
なんなんだ、この女は。
「じゃぁ、落としたらどうするの?」
「ん~、しばらく付き合ったら次行く。だって、もっと素敵な人狙いたいもんね。今は経験積んでレベルアップしてるの」
「そっか~。ユキって小さくてかわいいからモテるよね。羨ましい」
「2個上だけど、アンセムさんって素敵よね。
なんか、テラスっていう女が気に入られているみたいだけど、全然地味な女だったよ。あれなら、ユキの方が絶対上!
シン落としたら、次はアンセムさん攻めてみようかな~」
ここで、ナミルの堪忍袋の緒が切れた。
まだ水が入っているコップを掴み、振り向き様にユキにぶっかけた。
「きゃあ!」
突然の事態に悲鳴をあげるユキと、あっけに取られて傍観するその女友達。
「何するのよ!」
ユキはすぐにナミルに噛み付いた。
「アンセムさんがユキに興味持つはずないでしょう」
憎憎しげにユキを睨むナミル。
「はぁ!?盗み聞き?信じらんない!」
「あんたみたいに薄い女、シンでも落ちないわよ」
「何なのよ!」
「シンは確かにイヤな奴だけど、ユキの浅はかな戦略に落ちるほど馬鹿じゃないわ」
当然周囲の注目を浴びる。
ナミルは構わず続けた。
「恋愛をゲームと勘違いしてんじゃないの?
今までの男はユキの手にひっかかったのかもしれないけど、アンセムさんやシンは、すごく頭いいんだから、すぐ見破られるのが落ちよ」
ユキは鼻で笑った。
「なによ」
ナミルはそれがとても気に障る。
「ナミルには言われたくないわね。見え見えのブリッコで男達に愛想振りまいているのは誰?偉そうに私に意見しないでくれる?」
カッと頭に血が上るナミル。
「相手にされてないのはナミルでしょう?図書館で、シンもアンセムさんも声かけてなかったじゃない。2人とも、あの地味女に夢中って感じで」
「う、うるさい!」
「談話会でも、一生懸命甲斐甲斐しく料理のお世話とかしちゃってさ。見え見えなのはどっちよ」
クスクスとユキの友達も笑っている。
「ユキがナミルより男に人気あるからって、僻まないでくれる?」
パァァンッッ!!!
ついに我慢できなくなったナミルが、ユキの顔を思い切りひっぱたいた。
「いっ…た~い…」
「大丈夫?」
すぐに駆け寄る友達。
ユキは弱々しく泣き始めた。
ナミルには嘘泣きだとすぐにわかる。
「…やってらんない」
ナミルは食事のトレイを持つと、走ってその場を立ち去った。
悔しくて悔しくて、涙が出そうだった。
ナミルは走って自室に帰った。
部屋に入ったとたんにナミルは叫ぶ。
「ムカツク!!!本当に嫌な女!!!大っキライ!!!!!」
あんな女に目を付けられたシンに同情する。
人を何だと思っているんだ。
馬鹿にするのもいい加減にしてほしい。
「もう!本当に何なのよ!!」
治まらないイライラと不愉快さに、ナミルは苦しんだ。
言葉では反発しているが、言われたことが図星であることに本当は気付いていて、それが辛かった。
アンセムは自分を見ていない。
シンは最初から眼中にないといった感じだった。
カイもいつだってテラスの味方だ。
誰も彼もテラス、テラス、テラスである。
あんな特徴のない女、とナミルは思ったことがある。
ユキが言っていた地味女という表現と、どこが違うというのだ。
最初にブリッコと涙でアンセムの気を惹こうとしたのは、他でもない自分だった。
ユキを嫌うということは、自己嫌悪するのと同じだ。
(私は、あんな嫌な女と同じなんだ…)
ナミルはどこまでも落ちていった。



