テラスは中央施設の食堂で昼食を食べていた。
今日は1日図書館の個室に篭るつもりでいた。
「やっぱりここだったな」
声をかけられ顔を上げるとシンがいた。
とりあえず、ユキの姿はない。
「こんにちは」
挨拶するテラス。
「こんにちは、じゃねーだろ。昨日は大丈夫だったのかよ。いきなり連れ去られて心配したんだぜ」
「あ…うん。シンこそ、ユキさんとどうなったの?」
「散々付き纏われたよ…」
げっそりなシン。
「レポートもやらなきゃならねーのに、どこまでもついてくるんだぜ。
俺も図書館の個室でやろっかなー…って、俺のことはどうでもいーんだっつーの」
シンは無理矢理話題を修正した。
「あいつすっげー強引だな。テラスはぼけっとしてるところあるから、マジ気を付けた方がいいと思うぜ」
シンはテラスがアンセムを好きになるはずがないと思い込んでいるようだ。
テラスは言い辛いと思いつつ、意を決して伝える事にした。
「それがね、私、アンセムと付き合うことになったんだ」
シンがテラスを見た。
「……は?」
言葉の意味が浸透するまで、しばらく時間がかかった。
「………マジ?」
「うん」
「なんでだよ!」
バンとテーブルを叩き、シンはテラスに詰め寄った。
「相思相愛になったから?」
なんでと聞かれると、なんと答えれば良いのかわからなくなってしまうテラスである。
「だっ…!テラス好きな気持ちわかんねーって言ってたじゃねーか!」
「うん。でも、なんかわかった気がしたんだ」
「なんだよ、それ」
「少しずつ、好きになってたのかなぁ…」
ぼんやりと考え込むテラス。
シンはムカムカしてきた。
「けっ!なんだよ!結局テラスも他の女と同じだったってことかよ。
見た目が良くって、上辺だけでも綺麗なことたくさん言ってくれる男が好きってことなんだな」
そうだろうか?
シンに投げかけられた言葉に、テラスは怒るでもなく、自然と答えとなる言葉が出た。
「そうかなぁ…。どちからかというと、冷静じゃないアンセムを見て、なんかすごく考えさせられたんだよね」
そうだ。
心が揺れるのは、アンセムが自分の気持ちをぶつけてきたときだった。
恐いと思うことの方が多かったけど、その後、自分の気持ちを見つめることになる。
いつでもアンセムが優しくて余裕がある男性だったら、果たして自分はこんな特別な感情を抱いただろうか?
「わけわかんね!」
「うん。去年の私だったら、こういう話されても、シンと同じ反応だったと思う」
「な、なんだよ!一歩先進んだような上から目線、気にくわねぇ!」
シンは寂しい気持ちになった。
「一歩進んだ…か。う~ん、そうかもしれない。新たな扉が開いた感じ?」
シンは益々寂しくなった。
紛らわすために、テラスがまだ食べていないサンドイッチを1つ掴んで口に入れた。
「あ!それ、楽しみにとっといたのに!」
「いいだろ、別に」
モグモグごくんと飲み込むシン。
「よござんしたね~。これからは2人の愛の世界に羽ばたいてくださいってなもんだよ」
「はぁ…」
「あの男なら、セックスも相当上手いんじゃね~の?」
その言葉にテラスは固まった。
「テラスもついに女の悦びってやつを経験したんだな。毎晩めくるめくセックスライフだろ?」
この方向性の攻撃がもっとも効果的とわかり、シンは更に言葉を重ねた。
「…してないもん」
小さな声で否定するテラス。
「そっか~、まだ付き合いたてだもんな~。これからだな。今晩か?」
テラスは深い深いため息をつく。
そのことを考えると気が重くなった。
「なに渋い顔してんだよ。セックスは恋愛の醍醐味なんじゃねーの?」
シンは愉快でたまらない。
「セクハラだ」
テラスは抗議した。
「テラスがいけねーんだろ。上から目線で言うから」
「そういうつもりなかったけど、でも、そう聞こえたんならごめんね」
「ふんっ」
とりあえず謝罪され、気が済んだシンである。
そして改めてテラスを見た。
昨日と比べて変わった様子はない。
だけど、テラスはアンセムを好きだと自覚したのだ。
あれだけ「わからない」と言っていたのに、テラスにはわかった。
(じゃぁ俺は?この先、誰かを好きだと思う日が来るのか?)
急に焦りと不安に襲われたシン。
「どんな気持ちだ?」
テラスはその短い質問だけで、シンの聞きたいことを理解した。
「なんか、変な感じ。
好きってもっとハッキリした強い感情なんだと思ってたんだけど、昨日の延長というか、大きな変化があるわけじゃなくって、じわじわと、そういうことだったんだな~って思うというか…。
うまく言えないけど」
シンは茶化さず真剣に聞いている。
「でも、気持ちはスッキリしてるんだ。嬉しいよ。やっぱり」
「そっか…」
羨ましい、シンはそう思った。
「なんか、焦るな」
だから本音を漏らす。
「うん…。
あのね、ゆっくり考えればいいんだよって、私、色々な人に言われたんだ。
だから、シンもね、焦らないで、じっくり構えていればいいと思う」
「そうか?」
シンは心細げにテラスを見た。
「うん。きっと、人によって時期が違うんだろうね。
私も1人だったらこんなに考えることもなかったと思うよ。
アンセムや、他にもたくさんの人と接して、考えるきっかけを貰ったんだと思う」
「良くわかんねー」
だけど、テラスがシンを応援してくれていることはわかった。
「私も、まだわからないことたくさんあるよ」
「テラス」
「なに?」
「俺も、誰かを好きになる日がくると思うか?」
「う~ん、どうだろう」
テラスは考えた。
「ここは『大丈夫!』って励ますところだろーが」
「そうかな?でも、こういうのって答えがないから、軽々しく迂闊なこと言えないよ」
「ちっ!真面目なヤツ!」
「さて、そろそろ行こ~っと」
テラスは立ち上がった。
「またね、シン」
「おう…………よ」
「え?何か言った?」
「ありがとよ!」
シンはテラスを見ずに、言い捨てるように怒鳴った。
「あはは。別に何もしてないよ」
テラスは照れているシンがおかしくて笑った。
今日は1日図書館の個室に篭るつもりでいた。
「やっぱりここだったな」
声をかけられ顔を上げるとシンがいた。
とりあえず、ユキの姿はない。
「こんにちは」
挨拶するテラス。
「こんにちは、じゃねーだろ。昨日は大丈夫だったのかよ。いきなり連れ去られて心配したんだぜ」
「あ…うん。シンこそ、ユキさんとどうなったの?」
「散々付き纏われたよ…」
げっそりなシン。
「レポートもやらなきゃならねーのに、どこまでもついてくるんだぜ。
俺も図書館の個室でやろっかなー…って、俺のことはどうでもいーんだっつーの」
シンは無理矢理話題を修正した。
「あいつすっげー強引だな。テラスはぼけっとしてるところあるから、マジ気を付けた方がいいと思うぜ」
シンはテラスがアンセムを好きになるはずがないと思い込んでいるようだ。
テラスは言い辛いと思いつつ、意を決して伝える事にした。
「それがね、私、アンセムと付き合うことになったんだ」
シンがテラスを見た。
「……は?」
言葉の意味が浸透するまで、しばらく時間がかかった。
「………マジ?」
「うん」
「なんでだよ!」
バンとテーブルを叩き、シンはテラスに詰め寄った。
「相思相愛になったから?」
なんでと聞かれると、なんと答えれば良いのかわからなくなってしまうテラスである。
「だっ…!テラス好きな気持ちわかんねーって言ってたじゃねーか!」
「うん。でも、なんかわかった気がしたんだ」
「なんだよ、それ」
「少しずつ、好きになってたのかなぁ…」
ぼんやりと考え込むテラス。
シンはムカムカしてきた。
「けっ!なんだよ!結局テラスも他の女と同じだったってことかよ。
見た目が良くって、上辺だけでも綺麗なことたくさん言ってくれる男が好きってことなんだな」
そうだろうか?
シンに投げかけられた言葉に、テラスは怒るでもなく、自然と答えとなる言葉が出た。
「そうかなぁ…。どちからかというと、冷静じゃないアンセムを見て、なんかすごく考えさせられたんだよね」
そうだ。
心が揺れるのは、アンセムが自分の気持ちをぶつけてきたときだった。
恐いと思うことの方が多かったけど、その後、自分の気持ちを見つめることになる。
いつでもアンセムが優しくて余裕がある男性だったら、果たして自分はこんな特別な感情を抱いただろうか?
「わけわかんね!」
「うん。去年の私だったら、こういう話されても、シンと同じ反応だったと思う」
「な、なんだよ!一歩先進んだような上から目線、気にくわねぇ!」
シンは寂しい気持ちになった。
「一歩進んだ…か。う~ん、そうかもしれない。新たな扉が開いた感じ?」
シンは益々寂しくなった。
紛らわすために、テラスがまだ食べていないサンドイッチを1つ掴んで口に入れた。
「あ!それ、楽しみにとっといたのに!」
「いいだろ、別に」
モグモグごくんと飲み込むシン。
「よござんしたね~。これからは2人の愛の世界に羽ばたいてくださいってなもんだよ」
「はぁ…」
「あの男なら、セックスも相当上手いんじゃね~の?」
その言葉にテラスは固まった。
「テラスもついに女の悦びってやつを経験したんだな。毎晩めくるめくセックスライフだろ?」
この方向性の攻撃がもっとも効果的とわかり、シンは更に言葉を重ねた。
「…してないもん」
小さな声で否定するテラス。
「そっか~、まだ付き合いたてだもんな~。これからだな。今晩か?」
テラスは深い深いため息をつく。
そのことを考えると気が重くなった。
「なに渋い顔してんだよ。セックスは恋愛の醍醐味なんじゃねーの?」
シンは愉快でたまらない。
「セクハラだ」
テラスは抗議した。
「テラスがいけねーんだろ。上から目線で言うから」
「そういうつもりなかったけど、でも、そう聞こえたんならごめんね」
「ふんっ」
とりあえず謝罪され、気が済んだシンである。
そして改めてテラスを見た。
昨日と比べて変わった様子はない。
だけど、テラスはアンセムを好きだと自覚したのだ。
あれだけ「わからない」と言っていたのに、テラスにはわかった。
(じゃぁ俺は?この先、誰かを好きだと思う日が来るのか?)
急に焦りと不安に襲われたシン。
「どんな気持ちだ?」
テラスはその短い質問だけで、シンの聞きたいことを理解した。
「なんか、変な感じ。
好きってもっとハッキリした強い感情なんだと思ってたんだけど、昨日の延長というか、大きな変化があるわけじゃなくって、じわじわと、そういうことだったんだな~って思うというか…。
うまく言えないけど」
シンは茶化さず真剣に聞いている。
「でも、気持ちはスッキリしてるんだ。嬉しいよ。やっぱり」
「そっか…」
羨ましい、シンはそう思った。
「なんか、焦るな」
だから本音を漏らす。
「うん…。
あのね、ゆっくり考えればいいんだよって、私、色々な人に言われたんだ。
だから、シンもね、焦らないで、じっくり構えていればいいと思う」
「そうか?」
シンは心細げにテラスを見た。
「うん。きっと、人によって時期が違うんだろうね。
私も1人だったらこんなに考えることもなかったと思うよ。
アンセムや、他にもたくさんの人と接して、考えるきっかけを貰ったんだと思う」
「良くわかんねー」
だけど、テラスがシンを応援してくれていることはわかった。
「私も、まだわからないことたくさんあるよ」
「テラス」
「なに?」
「俺も、誰かを好きになる日がくると思うか?」
「う~ん、どうだろう」
テラスは考えた。
「ここは『大丈夫!』って励ますところだろーが」
「そうかな?でも、こういうのって答えがないから、軽々しく迂闊なこと言えないよ」
「ちっ!真面目なヤツ!」
「さて、そろそろ行こ~っと」
テラスは立ち上がった。
「またね、シン」
「おう…………よ」
「え?何か言った?」
「ありがとよ!」
シンはテラスを見ずに、言い捨てるように怒鳴った。
「あはは。別に何もしてないよ」
テラスは照れているシンがおかしくて笑った。



