超人気美男子に目を付けられた平凡女は平和な寮生活を求めて苦悩する

アンセムの穏やかな笑顔を見て、テラスは答えが見つかったような気がした。

「そうか…。私、アンセムに会いたかったんだ」

思ったことがそのまま言葉に出た。

「私ね、会えない期間、アンセムのことを考えてはずっとモヤモヤした気持ちだったんだ。考えても考えてもわからないの。
だから、アンセムに直接会おうと思ったんだ」

アンセムをじっと見つめるテラス。

「実はね、昨日実験が終わってからアンセムの部屋に行ったんだよ。
だけどいなくて、すごくガッカリした。それで、夕食食べに食堂に行ったら、アンセムを見つけたんだ」

テラスはその先を、少し言い辛く感じ、再びコーヒーに口をつけた。

「声をかけてほしかったな。オレもテラスに会いたいと、ずっと思っていたから。実験の邪魔をしたくなくて、会いに行くのを我慢していたんだ」

昨日会えたかもしれなかったのに、テラスの存在に気付かなかった自分をアンセムは責めた。

「うん、友達と楽しそうに話していたから、邪魔したら悪いなって思って…」

「そんなこと構わないよ」

「でも、ナミルさんもいたし」

「ナミル?確かに一緒だったけど、テラスがどうして気にするんだ?」

アンセムにはその理由がわからない。

「あのね、図書館で一緒に手伝いした日も、あの後一度アンセムの部屋に行こうとしたんだ」

「そうだったのか…」

「でもね、調度ナミルさんがアンセムの部屋に行ったところみたいだったから、引き返したの」

「あの時か」

ナミルが訪れたとき、アンセムは最初テラスではないかと思った。
少し時間がずれていれば、本当にテラスが来ていたはずだったのか。

「なんか、すごく沈んだ気持ちになっちゃって、出直すことにしたんだ」

アンセムはテラスを凝視した。

「それは、もしかしてヤキモチじゃないのか?」

「ヤキモチ???」

「オレがナミルに惹かれたらって、心配してくれた?」

「心配?どうして?だってそれはアンセムの自由だもん。仕方ないって思った」

「寂しいって感じてくれたんじゃないのか?」

「寂しい…」

テラスは首をかしげて考えた。

「うん…そうだよ。私アンセムに会えなくて寂しかった。
考えて、答えが出なくて、会えば何かわかるかもって思ってたけど、本当は、ただアンセムに会いたかったんだよ、私」

そしてテラスは再びアンセムを見つめた。
どうして会いたい人なんだろう。
アンセムは、他の男の人と違う。
アンセムだったら、嫌じゃない。
一緒にいると、嬉しい。
この感情を、なんて言えばいいんだろう。

アンセムもテラスを見つめた。
ゆっくりと顔を近づける。
テラスはアンセムを見つめたまま逃げない。
心臓が激しく鼓動を打つ。
アンセムは、そっとテラスにキスをした。

テラスの唇にアンセムの唇が触れた瞬間、テラスは目を閉じた。
ほんの数秒、2人は唇を重ねる。
アンセムが離れると、テラスは目を開けてアンセムの顔を見た。
アンセムは熱の篭った視線でテラスの様子を伺っていた。
テラスは心臓が痛いくらい胸がドキドキしている。
でも、嫌じゃない。
嫌じゃないどころか…。

「なんか、くすぐったいね。でも、嬉しい…かも」

少し恥ずかしいけど、テラスは今の気持ちを素直に伝えた。

「テラス?」

「なに?」

「もしかして、オレのこと、好きになってくれた?」

「………」

テラスは少し考えてから言った。

「うん。多分、これが好きって気持ち、なのかな」

アンセムは信じられない、という表情でテラスを見た。

「な、なに?そんな意外そうな顔しないでよ」

「いや…、これ、夢じゃないよな」

「どういう意味?」

「それぐらい驚いたって意味だよ!」

そしてアンセムはテラスを抱き締めた。

「うわっ!」

驚くテラス。

「ありがとう。テラス。オレ、今人生で一番喜んでるかもしれない」

ぎゅーっと抱き締められて、テラスは動揺したけど、拒むことなく受け入れた。
自分の手をアンセムの背に添えるように触れる。
あったかい。心地いい。

アンセムは少し力を緩めて、テラスの顔を見つめる。
テラスは緊張した。

「あ…」

と思ったら、再びキスされる。
さっきより強く唇が触れたかと思うと、ふっと離れて、またもう一度。
今度はちゅっと唇を吸われて、そして優しく噛まれる様に、撫でる様に、何度もキスをされた。

(う、うわー…!)

テラスはいっぱいいっぱいである。
逃げずにいるだけで精一杯。
心臓は壊れそうだ。
やっとアンセムの唇が離れたかと思うと、そのままソファに押し倒された。

「え!?」

想定外の出来事に目を開けると、片手で素早く自分のシャツのボタンを外しながら、アンセムが覆いかぶさってくる。

「ちょ!ちょっと待ったー!!!」

「なに?」

アンセムは短く聞き返したのに、テラスが続きを言う暇を与えず、もう一度キスした。

「んん…!」

テラスは首を振ってアンセムのキスから逃れて叫ぶ。

「何する気!!!」

「当然このまま最後まで」

当たり前のように言うアンセムに、テラスは青ざめた。

「ひぃぃっ!勘弁してー!」

両手でぐいっとアンセムの胸を押し、なんとか逃れようと体を捻って、ソファから転げ落ちそうになる。

「おっと」

それをアンセムが支えて抱き起こした。

「お、お手柔らかにお願いします!」

半泣きで焦りまくるテラスを見て、アンセムが噴き出す。

「まぁ、いっか」

本当はこのまま抱いてしまいたかったが、気持ちが通じ合っただけで今日はよしとしよう。
あまり無理をさせるのは可哀想だし、これから2人の時間がたくさんあるのだから、何を急ぐ必要があるだろうか。

「テラス」

「はいぃ!?」

「オレ、朝食まだなんだ。食べに行っていいかな?」

「喜んで!」

テラスはこれ以上がないとわかり、ホッと胸をなでおろすのだった。