次の日の朝、テラスは電話のベルで起こされた。
相手はアイリで朝食のお誘いだ。
快くOKしたテラスは、着替えて髪を整えた。
部屋を出る前に、アンセムにもう一度電話をしてみようかと考えたが…。
「でも、まだ寝てるかもだし、後にしようかな…」
1人言い訳をして、テラスは食堂へ向かった。
「おっはよー!」
食堂に行くと、既にアイリは来ていた。朝から元気いっぱいだ。
それぞれ好きな物を選び、席に着いた。
アイリと食事をするのは1週間ぶりだった。
お互い会わなかった時の出来事を楽しく話しながら食事をした。
特に、シンの追っかけユキの話にアイリは食いついた。
「ねぇ、テラス、なんか元気ない?」
明るく話していたテラスだが、アイリはいつもと様子が違うことに気付いた。
「え?そうかな…」
「うん。何かあった?」
「うん…」
さて、どうやって話せばいいんだろうか。テラスは悩んだ。
別に、これといったことがあったわけじゃない。
しばらく考え込むテラスを待っていたアイリは、質問の仕方を変えることにした。
「アンセムと何かあった?」
「アンセムと、何があったってことでもないのかもしれないけど…」
「うん」
「あのね、『欲情した』って言われちゃった…」
「うん?」
アイリが顔をしかめた。
「え~と、状況が良くわからないんだけど、もっと細かく説明して」
「うん…」
テラスは自分の部屋でアンセムと過ごしていたら急に帰ってしまったこと、次の日の図書館での出来事、その後昼食に誘ったけど断られてしまったこと、だけど気になって部屋へ行ってみたこと、来客があり引き返して、結局実験が重なり、5日間ずっと会っていないことなどをアイリに話した。
「ふ~ん…」
アイリは聞き役に徹しながら、テラスを観察した。
そして、テラスのアンセムに対する感情が随分と変化したと感じた。
「まぁ、アンセムの行動は仕方ないわよね。」
聞き終えて、感想を述べる。
「よくぞ我慢してると思うわよ。鋼の理性よね。それだけ、テラスを大切に想ってるんだと思うよ」
「うん」
テラスは頷いた。
「で、テラスはどうしたいの?」
「この後、会いに行ってみようと思う」
「うん。やっぱりテラスは変わったわ」
「え?何が?」
自覚のないところが、如何にもテラスっぽいとアイリは思う。
「ちゃんと考えるようになったね。前のテラスだったら、わからないってすぐ思考を止めてたわよ」
「そうかも…。でも、わからないって逃げるのは、アンセムにすごく悪いことだと思うんだ」
「うん」
「だから、ちゃんと向き合わないと」
「もし、アンセムの理性の糸が切れて、襲われちゃったらどうする?」
それはないと思いつつも、アイリは確認するようにテラスに聞いた。
「え…」
テラスの顔が強張る。
(こういうところは、相変わらずよね)
言葉に出さず、胸の中だけで呟くアイリ。
「テラスからの誘いを断るくらいだから、アンセムもかなり切羽詰ってると思うのよね~。部屋に行くの、危ないかもよ?」
少し煽ってみる。
「い…いいよ。そうなったらそうなったで仕方ないよ」
「え!?いいの?」
「やっぱり良くない」
「どっちなのよ」
「恐い」
心細そうにアイリを見るテラス。
アイリは大きなため息をついた。
「じゃぁ、部屋じゃなくて外で会えばいいんじゃない?」
「そっか」
「それとも、ここで待ってたら来るかもよ?」
「うん。待ってようかな」
「付き合うね」
「ありがとう、アイリ」
しかし、食堂にはアンセム以外の寮生も来るのである。
「だーかーら!しつけーっつーの!」
「シンと仲良くなるためなら、しつこくするもん!」
騒がしく食堂に入ってきたのは、シンとユキである。
「あ、もしかして、あの女の子がユキ?」
目立つ2人に、アイリはすぐ気付いた。
「そうだよ」
「うわ~、なんか強烈ね~」
「アイリ、完全に面白がってるでしょう?」
「うん」
アイリは大きく頷いた。
「やっぱり私、部屋帰ろうかな」
テラスは食器を重ねた。
「え?どうして?」
「私を見つけると、シンが逃げ込んで来るんだよ…」
「あ~、そりゃ面倒ね」
「部屋戻ったら、もう一度アンセムに電話してみる」
「そうね。じゃぁ、見つかる前に出ようか」
しかし、一足遅かった。
「あ!テラス!いいところにいた!」
シンがテラスを発見した。
「うわ、見つかった」
走って逃げようかと思ったが、食器を返却しなければならない。
早足で片付けようとしたが、シンに追いつかれてしまう。
当然ユキもひっついてくる。
「じゃぁ俺、テラスと実験結果のまとめやることになってるから」
口から出任せを言うシン。
「ええ~!どうしてテラスさんとだけ?テラスさん、私とシンの邪魔しないでください!」
ユキに詰め寄られて、テラスは嫌な顔をした。
不満を込めてシンを睨む。
アイリはあっけにとられていた。
-----------------------
アンセムは朝早くに目が覚めてしまった。
昨日で実験が終わっているはずだから、あさイチでテラスに会いに行こうと思っていたのだが、さすがに時間が早過ぎる。
一度品種改良の畑まで足を運んで時間をつぶし、戻った足でテラスの部屋まで行ってみた。
しかし不在で、そのまま食堂に向かったのだが…。
食堂に入ると、今一番聞きたくない男のうるさい声が聞こえてきた。
目を向けると、そこにはやっぱりシンがいて、その横にはテラスがいた。
どうして久しぶりに見るテラスの横に、あの男がいるんだ!
さっきまで穏やかさを保っていたのに、シンの顔を見ると、また自分を制することができなくなりそうだった。
一方、テラスはいそいそと食器を返却していた。
その後ろをシンがついてくる。当然ユキも。
「おまえ着いてくんなよ!」
「だって今日は実験ないんでしょう?」
「あんたたち、2人とも着いてこないで」
アイリの言葉など、シンとユキの耳に入らないようだ。
「アイリ、とにかく片付けて行こう」
淡々と食器を片付けながらテラスが言ったときだった。
「あっ」
テラスの発言に頷こうとしたアイリが驚く。
「どうしたの?」
食器を片付け終わったテラスがアイリを振り向いた瞬間、手を握られる。
びっくりしてその相手を見るとアンセムだった。
アンセムはテラスの手を握って無言で走り出す。
「あ!てめ!」
シンが気付いてテラスに手を伸ばすが届かない。
「うわわわ!」
すごい早さで手を引っ張られて、半ばパニックになりながら、テラスは必死にアンセムに付いていった。
「待て!」
追いかけようとしたシンの服を、アイリが掴んで止めた。
「なんだよ!離せ!」
「ダメに決まってるでしょ」
「テラスの貞操の危機だぞ!」
「大丈夫よ。あるとしたらそれはハッピーエンドね」
「あんた、それでもテラスの友達か?」
「大切な友達だからこそ、邪魔者を排除しようと、今努力してるんじゃない」
「なんだとー!」
「シン!私と一緒に食べて」
アイリが引きとめたことを、これ幸いとユキはシンに抱き付いた。
「ま…まぁ、シン君も気の毒だけど」
濃すぎるキャラのユキにまとわりつかれているシンには少し同情したが、テラスとアンセムのために、アイリは見捨てることにした。
相手はアイリで朝食のお誘いだ。
快くOKしたテラスは、着替えて髪を整えた。
部屋を出る前に、アンセムにもう一度電話をしてみようかと考えたが…。
「でも、まだ寝てるかもだし、後にしようかな…」
1人言い訳をして、テラスは食堂へ向かった。
「おっはよー!」
食堂に行くと、既にアイリは来ていた。朝から元気いっぱいだ。
それぞれ好きな物を選び、席に着いた。
アイリと食事をするのは1週間ぶりだった。
お互い会わなかった時の出来事を楽しく話しながら食事をした。
特に、シンの追っかけユキの話にアイリは食いついた。
「ねぇ、テラス、なんか元気ない?」
明るく話していたテラスだが、アイリはいつもと様子が違うことに気付いた。
「え?そうかな…」
「うん。何かあった?」
「うん…」
さて、どうやって話せばいいんだろうか。テラスは悩んだ。
別に、これといったことがあったわけじゃない。
しばらく考え込むテラスを待っていたアイリは、質問の仕方を変えることにした。
「アンセムと何かあった?」
「アンセムと、何があったってことでもないのかもしれないけど…」
「うん」
「あのね、『欲情した』って言われちゃった…」
「うん?」
アイリが顔をしかめた。
「え~と、状況が良くわからないんだけど、もっと細かく説明して」
「うん…」
テラスは自分の部屋でアンセムと過ごしていたら急に帰ってしまったこと、次の日の図書館での出来事、その後昼食に誘ったけど断られてしまったこと、だけど気になって部屋へ行ってみたこと、来客があり引き返して、結局実験が重なり、5日間ずっと会っていないことなどをアイリに話した。
「ふ~ん…」
アイリは聞き役に徹しながら、テラスを観察した。
そして、テラスのアンセムに対する感情が随分と変化したと感じた。
「まぁ、アンセムの行動は仕方ないわよね。」
聞き終えて、感想を述べる。
「よくぞ我慢してると思うわよ。鋼の理性よね。それだけ、テラスを大切に想ってるんだと思うよ」
「うん」
テラスは頷いた。
「で、テラスはどうしたいの?」
「この後、会いに行ってみようと思う」
「うん。やっぱりテラスは変わったわ」
「え?何が?」
自覚のないところが、如何にもテラスっぽいとアイリは思う。
「ちゃんと考えるようになったね。前のテラスだったら、わからないってすぐ思考を止めてたわよ」
「そうかも…。でも、わからないって逃げるのは、アンセムにすごく悪いことだと思うんだ」
「うん」
「だから、ちゃんと向き合わないと」
「もし、アンセムの理性の糸が切れて、襲われちゃったらどうする?」
それはないと思いつつも、アイリは確認するようにテラスに聞いた。
「え…」
テラスの顔が強張る。
(こういうところは、相変わらずよね)
言葉に出さず、胸の中だけで呟くアイリ。
「テラスからの誘いを断るくらいだから、アンセムもかなり切羽詰ってると思うのよね~。部屋に行くの、危ないかもよ?」
少し煽ってみる。
「い…いいよ。そうなったらそうなったで仕方ないよ」
「え!?いいの?」
「やっぱり良くない」
「どっちなのよ」
「恐い」
心細そうにアイリを見るテラス。
アイリは大きなため息をついた。
「じゃぁ、部屋じゃなくて外で会えばいいんじゃない?」
「そっか」
「それとも、ここで待ってたら来るかもよ?」
「うん。待ってようかな」
「付き合うね」
「ありがとう、アイリ」
しかし、食堂にはアンセム以外の寮生も来るのである。
「だーかーら!しつけーっつーの!」
「シンと仲良くなるためなら、しつこくするもん!」
騒がしく食堂に入ってきたのは、シンとユキである。
「あ、もしかして、あの女の子がユキ?」
目立つ2人に、アイリはすぐ気付いた。
「そうだよ」
「うわ~、なんか強烈ね~」
「アイリ、完全に面白がってるでしょう?」
「うん」
アイリは大きく頷いた。
「やっぱり私、部屋帰ろうかな」
テラスは食器を重ねた。
「え?どうして?」
「私を見つけると、シンが逃げ込んで来るんだよ…」
「あ~、そりゃ面倒ね」
「部屋戻ったら、もう一度アンセムに電話してみる」
「そうね。じゃぁ、見つかる前に出ようか」
しかし、一足遅かった。
「あ!テラス!いいところにいた!」
シンがテラスを発見した。
「うわ、見つかった」
走って逃げようかと思ったが、食器を返却しなければならない。
早足で片付けようとしたが、シンに追いつかれてしまう。
当然ユキもひっついてくる。
「じゃぁ俺、テラスと実験結果のまとめやることになってるから」
口から出任せを言うシン。
「ええ~!どうしてテラスさんとだけ?テラスさん、私とシンの邪魔しないでください!」
ユキに詰め寄られて、テラスは嫌な顔をした。
不満を込めてシンを睨む。
アイリはあっけにとられていた。
-----------------------
アンセムは朝早くに目が覚めてしまった。
昨日で実験が終わっているはずだから、あさイチでテラスに会いに行こうと思っていたのだが、さすがに時間が早過ぎる。
一度品種改良の畑まで足を運んで時間をつぶし、戻った足でテラスの部屋まで行ってみた。
しかし不在で、そのまま食堂に向かったのだが…。
食堂に入ると、今一番聞きたくない男のうるさい声が聞こえてきた。
目を向けると、そこにはやっぱりシンがいて、その横にはテラスがいた。
どうして久しぶりに見るテラスの横に、あの男がいるんだ!
さっきまで穏やかさを保っていたのに、シンの顔を見ると、また自分を制することができなくなりそうだった。
一方、テラスはいそいそと食器を返却していた。
その後ろをシンがついてくる。当然ユキも。
「おまえ着いてくんなよ!」
「だって今日は実験ないんでしょう?」
「あんたたち、2人とも着いてこないで」
アイリの言葉など、シンとユキの耳に入らないようだ。
「アイリ、とにかく片付けて行こう」
淡々と食器を片付けながらテラスが言ったときだった。
「あっ」
テラスの発言に頷こうとしたアイリが驚く。
「どうしたの?」
食器を片付け終わったテラスがアイリを振り向いた瞬間、手を握られる。
びっくりしてその相手を見るとアンセムだった。
アンセムはテラスの手を握って無言で走り出す。
「あ!てめ!」
シンが気付いてテラスに手を伸ばすが届かない。
「うわわわ!」
すごい早さで手を引っ張られて、半ばパニックになりながら、テラスは必死にアンセムに付いていった。
「待て!」
追いかけようとしたシンの服を、アイリが掴んで止めた。
「なんだよ!離せ!」
「ダメに決まってるでしょ」
「テラスの貞操の危機だぞ!」
「大丈夫よ。あるとしたらそれはハッピーエンドね」
「あんた、それでもテラスの友達か?」
「大切な友達だからこそ、邪魔者を排除しようと、今努力してるんじゃない」
「なんだとー!」
「シン!私と一緒に食べて」
アイリが引きとめたことを、これ幸いとユキはシンに抱き付いた。
「ま…まぁ、シン君も気の毒だけど」
濃すぎるキャラのユキにまとわりつかれているシンには少し同情したが、テラスとアンセムのために、アイリは見捨てることにした。



