超人気美男子に目を付けられた平凡女は平和な寮生活を求めて苦悩する

今日はグループ研究の実験の日だ。これから5日間、毎日行う。
テラスは早めに来て、準備をしていた。

「よう、早いじゃねーか」

シンが来た。予定の時間より15分早い。

「おはよう。シンこそ早いね」

「まーね。天才は努力もするんだよ」

「自分で言っちゃったね」

「いーだろ」

シンはテーブルの上を見る。

「もう全部そろってるじゃねーか。一体何時に来たんだ?」

「8時半くらいかな?朝食おわってそのまま来ちゃった。楽しみで」

「ふ~ん」

シンはテラスをチラっと見た。

「そう言えば、昨日あの後どうなったんだ?」

「え?あの後?」

「あいつと奥の部屋に消えたじゃねーか」

「ああ、別に普通に手伝い片付けただけだよ」

なるべく平静を保って話すテラス。

「大丈夫かよ」

「何が?」

「だってあいつ、テラスを性の対象として見てるんだぜ」

「仕方ないよ…。普通のことだもん」

テラスもそれは理解しているのだ。

「あいつと2人きりになるの、危険じゃねーの?」

「どうして?」

「襲うとか言ってたじゃねーか。危機感ねーのかよ」

「アンセムはそんなことしないよ」

「なんで言い切れるんだよ」

シンは全然理解できない。

「今までのアンセムを見てきたから。それに、もし襲われたら、それは私がいけないんだよ、きっと」

「はぁ!?なんだそりゃ」

「私のことより、シンはあれからどうなったの?」

「話し逸らすなよ」

「私の話はおしまい。シンには関係ないことだよ」

「う…」

なぜか相手がテラスとだと、話題の手綱を取られてしまうシンである。

「なんか、すごいインパクトある女の子だったね」

「うっぜーのなんのって」

シンは思い出してげんなりした。

「逃げることには何も言わないけど、私に避難してこないでね」

「テラスは冷てーな」

「うん。冷たいの。さて…と」

テラスは資料を見ながら、材料が揃っているか確認を始めた。

「なんだよ、テラスが助けてくれないから、昨日は大変だったんだぜ」

「え?なに?」

集中し始めたところだったのでよく聞いておらず、テラスは聞き返した。

「だから、あの女、なんだか知らねーけど、最近付き纏い始めてさ」

「あ、話聞いてほしいの?」

改めて確認されると、素直に認めたくないシンだった。
なんとなくプライドが邪魔をする。
だからそのまま話を続けた。

「この前の談話会からしばらくして『あんな場で本音言えるなんて、すごいですー』とか『シンのこと知りたいのー』とか『デートしようよー』とか、とにかくしつこいんだよ。
邪険に追い払っても食い下がってきてよー。昨日も結局食堂までついてきて、一緒に食べるハメになったんだぜ」

「あはは、割と優しいとこあるじゃん。付き合ってあげたんだ」

シンの意外な一面を知って、テラスは笑顔になった。

「ちっげーよ!あの女が勝手に横に座って、一方的に喋りまくくってただけだよ」

「イヤなら部屋で食べればいいのに」

「ラーメン食いたかったんだよ」

「その程度のイヤなんだ」

テラスの言い方が、なんだか癪に障ったシンである。

「なんで厄介な女避けるために、俺のラーメン諦めなきゃなんねーの?」

「ぶはっ」

テラスは噴き出す。

「食は大事だよねぇ」

「あ、なに笑ってんだよ」

「本気でイヤなら、ラーメン諦めてたと思うよ」

これは経験からの発言である。
リツに付き纏われていたときのテラスは、部屋で食事をとることも多かったし、食堂で食べていても、リツの姿を見つけると食事を中断して即逃げていた。

「ラーメン食ったらすぐ部屋に戻ったよ!」

「うん、それでいんじゃないかな」

「なんだよ、他人事だな。もっと親身になってくれよ」

「だって他人事だもん」

そこへリリアとセイラスがやってきた。約束の時間の5分前だ。

「おはよう~」

テラスは挨拶をする。
リリアとセイラスも挨拶を返す。

「随分早く来た?もしかして」

リリアがテーブルの上を見て驚いた。

「うん。準備万端だよ!」

「やる気満々だね」

セイラスも驚いている。
2人の乱入で話が終了してしまい、シンはなんだか物足りなく感じていた。
もっとテラスに話を聞いてほしかったのに。

-----------------------

アンセムはテラスの部屋を訪れた。
昨日の醜態を晒したままではいたくなかったからだ。
しかし、戸をノックしても反応がない。

(そう言えば、今日から実験だと言っていたな…)

そのことを思い出し、アンセムは諦めて引き返した。
以前テラスに聞いた話だと、今日から5日間実験のはずだった。
スケジュールは午前も午後も丸々使うため、立食会も免除になると言っていた。
テラスはこの実験をとても楽しみにしていて、意欲的に取り組んでた。
邪魔はしたくない。

となると、訪問するなら夜だが、まだ部屋でテラスと2人きりになる自信はなかった。

(5日間我慢するしかないかな…)

本当は、今すぐにでもテラスに会いたいが、堪えることにする。
この5日間で、もう少し冷静さを取り戻そう。
アンセムはそう思うのだった。