薬学研究会のレポートの最終チェックが完了。
提出するに相応しいものができた。
レポートの完成である。
テラスはそのまま机に突っ伏した。
「流石に疲れた~」
外出許可という無茶な希望の仕返しのように締め切りが短かったため、この3日間レポートにかかりきりだったのだ。
アイリからの誘いも断って、図書館の個室に篭った。
研究内容は当然寮で勉強するものよりはるかに難しく、レポート作成は大変な仕事であったが、何しろ好きな分野なので楽しみながらできた。
それでも、疲れるものは疲れる。
「とりあえず、寮長の所に持って行かないと」
テラスは片付けて、カイに挨拶をし、職員ブースへ向かった。
リナは現在面談中のため、レポートを他の職員に渡して終了となった。
お見合いが後、テラスはリナから何か言われるだろうと構えていたのだが、レポート提出もあっさり終わったので杞憂だったのかもしれない。
今回の外出許可に関する面倒なことも、これですべて片付いたとテラスは安堵した。
次の日の朝、電話のベルでテラスは起こされた。
第三寮は各個室に1台ずつ電話が常備されている。
「おはよーテラス!」
受話器をとると、やっぱりアイリだった。
「レポート提出したんでしょう?朝ごはん一緒に食べようよ」
「おはよ…今起きた。寝すぎちゃった」
「あ、起こしちゃった?ごめんね」
「いいよ。目が覚めたら、すごいお腹がすいてる」
テラスのお腹がグーと鳴った。
「じゃぁ、30分後に食堂でいい?」
「うん。大丈夫」
「じゃぁ、後でね」
「は~い。じゃねー」
電話をきると、テラスは準備をして食堂に向かった。
広い食堂での待ち合わせは、2人が気に入っているパン類コーナーの前だと決めている。
テラスが到着すると、既にアイリが待っていた。
「ごめん、待たせちゃった?」
「いいのいいの。それより、幻のオレンジクロワッサンがあったから、取っといたよ」
「うわぁ~!やった!」
第三寮は、食事、衣料品など生活に関わる全てのものは無料である。
娯楽品、喫茶代のみ有料で、定額支給されるお金でやりくりする。
2人は他にも好みのものを皿に並べ、テーブルについた。
2人にとっては遅めの時間だが、朝食のピークの8時のため席は混雑している。
「あ」
アイリが何かを見つけた。
「見て。アンセムがいる」
「ふーん」
一応アイリが指差す方向を見るテラス。
そこには、アンセムと他の男性2人、それを取り囲むように女の子たちが群がっていた。
「わーすごい」
素直な感想を言うテラス。
それだけ言って、目線はパンに戻る。
「先月入寮してきた学年の子が多いわね。アンセム以外のメンバーも、人気ある人だもんね~。……あ…」
アイリの動きが止まった。
「どうしたの?」
「今、アンセムと目が合っちゃった」
「そうなんだ」
構わずパンを口に運ぶテラス。
「やっぱりオレンジクロワッサン最高~!アイリ、確保しててくれてありがとう~!」
幸せなひととき。テラスは食べるのが大好きだ。
「テラス!」
幸せを噛み締めるテラスの肩を叩いて焦るアイリ。
「ん?」
「来る!アンセムがこっち来るよ」
「へ?」
アイリの目線の先には、こちらの席に向かって歩くアンセムがいた。
アンセムを周囲の女の子が目で追う。
「おはよう、テラス、アイリ」
彼女達の視線を全く気にすることなく、爽やかに挨拶するアンセム。
「ここ、いいかな?」
返事も聞かずテラスの隣に座った。
「おはようございます」
若干引きつつ、それでも一応挨拶をするテラス。
「あの、超注目されてるんですけど…」
アイリは周囲の好奇の視線に顔をひきつらせた。
「確かに」
言われてテラスも気付く。
あからさまに視線を送る人は少ないが、ちらちらとこちらの様子を気にする人が多い。
「そうかな?」
しらばっくれるアンセム。
いや、彼にとってはこれが日常なのだろう。
「カイさんから聞いたよ。レポート終わったんだって?」
「はい。昨日終わりましたけど、何か用ですか?」
「デートしよう。レポートの締め切りまで待ってたんだ」
頬杖をついて、アンセムはにっこりと笑った。
少し離れたところから、女の子の歓声が聞こえてきた。
「はぁ?」
さすがに食べる手を止めて、テラスは怪訝な声を出した。
「あのー、3日間待ってたのは私も同じなんだけど」
ジロっとアンセムを睨むアイリ。
「私だってレポートあるからずっと遠慮してたんだからね」
「テラス、モテてるなぁ」
「私とテラスは相思相愛なの!ね~」
「そうだよね~」
アイリに合わせるテラス。
「オレは邪魔者?」
「そうよ!」
プン、とアイリはそっぽを向く。
アンセムみたいな有名人が興味本位でテラスに近づくのが腹立たしかった。
アンセムはテラスに目だけで問いかけた。
「とりあえず…この状況はさすがに食べ辛いです…」
周囲の視線を感じながら、普通に食事を楽しめるほど図太い神経ではないのだ。
「それもそうか」
アンセムは肩をすくめた。
「じゃぁ、いつなら空いてるかだけ教えてくれる?」
「えーと、えーっと…」
急に聞かれて戸惑うテラス。
これは応じなければいけないのだろうか。
アイリは睨んで牽制している。
「明日は?見せたいものがある」
「えーと、お昼過ぎなら」
具体的日時を言われて、反射的に答えてしまうテラス。
しまったと思っても後の祭りである。
「それなら1時ごろ部屋まで迎えに行くから」
「え?確定?」
戸惑うテラス。
「だめ!」
拒絶のアイリ。
「そう。確定」
笑顔のアンセムはさっと席を立ち「じゃぁ明日」と颯爽と去っていった。
「なんというマイペース」
「アンセムもテラスに言われちゃおしまいね~」
「これってやっぱり約束したことになるの?」
「一方的だから、反故していいんじゃない?」
「う~ん」
テラスは約束を破ったり時間を守らないことはキライなのだ。
「とりあえず、どっちかの部屋に行かない?」
アイリが提案した。
アンセムがいなくなっても周囲の視線は2人に集まったままで、非常に居心地が悪い。
「うん。そうしよう」
そして2人は席を立ったのだった。
提出するに相応しいものができた。
レポートの完成である。
テラスはそのまま机に突っ伏した。
「流石に疲れた~」
外出許可という無茶な希望の仕返しのように締め切りが短かったため、この3日間レポートにかかりきりだったのだ。
アイリからの誘いも断って、図書館の個室に篭った。
研究内容は当然寮で勉強するものよりはるかに難しく、レポート作成は大変な仕事であったが、何しろ好きな分野なので楽しみながらできた。
それでも、疲れるものは疲れる。
「とりあえず、寮長の所に持って行かないと」
テラスは片付けて、カイに挨拶をし、職員ブースへ向かった。
リナは現在面談中のため、レポートを他の職員に渡して終了となった。
お見合いが後、テラスはリナから何か言われるだろうと構えていたのだが、レポート提出もあっさり終わったので杞憂だったのかもしれない。
今回の外出許可に関する面倒なことも、これですべて片付いたとテラスは安堵した。
次の日の朝、電話のベルでテラスは起こされた。
第三寮は各個室に1台ずつ電話が常備されている。
「おはよーテラス!」
受話器をとると、やっぱりアイリだった。
「レポート提出したんでしょう?朝ごはん一緒に食べようよ」
「おはよ…今起きた。寝すぎちゃった」
「あ、起こしちゃった?ごめんね」
「いいよ。目が覚めたら、すごいお腹がすいてる」
テラスのお腹がグーと鳴った。
「じゃぁ、30分後に食堂でいい?」
「うん。大丈夫」
「じゃぁ、後でね」
「は~い。じゃねー」
電話をきると、テラスは準備をして食堂に向かった。
広い食堂での待ち合わせは、2人が気に入っているパン類コーナーの前だと決めている。
テラスが到着すると、既にアイリが待っていた。
「ごめん、待たせちゃった?」
「いいのいいの。それより、幻のオレンジクロワッサンがあったから、取っといたよ」
「うわぁ~!やった!」
第三寮は、食事、衣料品など生活に関わる全てのものは無料である。
娯楽品、喫茶代のみ有料で、定額支給されるお金でやりくりする。
2人は他にも好みのものを皿に並べ、テーブルについた。
2人にとっては遅めの時間だが、朝食のピークの8時のため席は混雑している。
「あ」
アイリが何かを見つけた。
「見て。アンセムがいる」
「ふーん」
一応アイリが指差す方向を見るテラス。
そこには、アンセムと他の男性2人、それを取り囲むように女の子たちが群がっていた。
「わーすごい」
素直な感想を言うテラス。
それだけ言って、目線はパンに戻る。
「先月入寮してきた学年の子が多いわね。アンセム以外のメンバーも、人気ある人だもんね~。……あ…」
アイリの動きが止まった。
「どうしたの?」
「今、アンセムと目が合っちゃった」
「そうなんだ」
構わずパンを口に運ぶテラス。
「やっぱりオレンジクロワッサン最高~!アイリ、確保しててくれてありがとう~!」
幸せなひととき。テラスは食べるのが大好きだ。
「テラス!」
幸せを噛み締めるテラスの肩を叩いて焦るアイリ。
「ん?」
「来る!アンセムがこっち来るよ」
「へ?」
アイリの目線の先には、こちらの席に向かって歩くアンセムがいた。
アンセムを周囲の女の子が目で追う。
「おはよう、テラス、アイリ」
彼女達の視線を全く気にすることなく、爽やかに挨拶するアンセム。
「ここ、いいかな?」
返事も聞かずテラスの隣に座った。
「おはようございます」
若干引きつつ、それでも一応挨拶をするテラス。
「あの、超注目されてるんですけど…」
アイリは周囲の好奇の視線に顔をひきつらせた。
「確かに」
言われてテラスも気付く。
あからさまに視線を送る人は少ないが、ちらちらとこちらの様子を気にする人が多い。
「そうかな?」
しらばっくれるアンセム。
いや、彼にとってはこれが日常なのだろう。
「カイさんから聞いたよ。レポート終わったんだって?」
「はい。昨日終わりましたけど、何か用ですか?」
「デートしよう。レポートの締め切りまで待ってたんだ」
頬杖をついて、アンセムはにっこりと笑った。
少し離れたところから、女の子の歓声が聞こえてきた。
「はぁ?」
さすがに食べる手を止めて、テラスは怪訝な声を出した。
「あのー、3日間待ってたのは私も同じなんだけど」
ジロっとアンセムを睨むアイリ。
「私だってレポートあるからずっと遠慮してたんだからね」
「テラス、モテてるなぁ」
「私とテラスは相思相愛なの!ね~」
「そうだよね~」
アイリに合わせるテラス。
「オレは邪魔者?」
「そうよ!」
プン、とアイリはそっぽを向く。
アンセムみたいな有名人が興味本位でテラスに近づくのが腹立たしかった。
アンセムはテラスに目だけで問いかけた。
「とりあえず…この状況はさすがに食べ辛いです…」
周囲の視線を感じながら、普通に食事を楽しめるほど図太い神経ではないのだ。
「それもそうか」
アンセムは肩をすくめた。
「じゃぁ、いつなら空いてるかだけ教えてくれる?」
「えーと、えーっと…」
急に聞かれて戸惑うテラス。
これは応じなければいけないのだろうか。
アイリは睨んで牽制している。
「明日は?見せたいものがある」
「えーと、お昼過ぎなら」
具体的日時を言われて、反射的に答えてしまうテラス。
しまったと思っても後の祭りである。
「それなら1時ごろ部屋まで迎えに行くから」
「え?確定?」
戸惑うテラス。
「だめ!」
拒絶のアイリ。
「そう。確定」
笑顔のアンセムはさっと席を立ち「じゃぁ明日」と颯爽と去っていった。
「なんというマイペース」
「アンセムもテラスに言われちゃおしまいね~」
「これってやっぱり約束したことになるの?」
「一方的だから、反故していいんじゃない?」
「う~ん」
テラスは約束を破ったり時間を守らないことはキライなのだ。
「とりあえず、どっちかの部屋に行かない?」
アイリが提案した。
アンセムがいなくなっても周囲の視線は2人に集まったままで、非常に居心地が悪い。
「うん。そうしよう」
そして2人は席を立ったのだった。



