超人気美男子に目を付けられた平凡女は平和な寮生活を求めて苦悩する

次の日、テラスは図書館を訪れた。

「カイさん、おはようございます」

「ああ、テラスか。おはよう」

カイが笑顔で挨拶を返す。

「あの、アンセム来てますか?」

「いや、まだだな。今日は手伝いを頼んでいるから、もうすぐ来ると思うが」

「そうですか。じゃぁ待ってようかな」

「なんだ、アンセムに用があるのか」

「用じゃないですけど、ちょっと気になって」

「ほう~」

カイはまじまじとテラスを見た。

「どうせ待つなら、テラスも手伝ってくれ」

「いいですよ」

カイからいきなり手伝いを頼まれるのは、いつものことである。
カイはカウンターから本などが乗った台車を外に出した。

「前にも頼んだことがあったよな。新しい本のラベル作りだ。
ここにリスト一覧がある。必要な道具もこの箱にまとめてあるから、よろしくな」

「うわ~、結構ありますね」

「これがアンセムに頼んでいた仕事だ。テラスが加わったから、2人でやれば午前中には終わるだろう」

「あ、そうなんですか。わかりました。場所は、あそこに広げて大丈夫ですか?」

テラスは一番隅のテーブルを指した。

「ああ、構わない。じゃぁ、よろしく頼むぞ」

「はい」

テラスは台車を押して移動し、テーブルにリストとテープに印字する機械をセットした。

「さて、とりあえず打ち込んじゃおうかな」

まずは機械にテープのサイズを設定して、リストを見ながらタイピングしていく。
しばらく作業に没頭していると、図書館の扉がバンと開いた。

「だからついてくるなよ!」

「どうしてダメなの?私シンのこと、もっと知りたいだけなのに」

騒がしく入ってきたのは、シンと1人の少女だ。
シンはテラスを見つけた。

「あ!テラス!助けてくれよー!」

カウンターを素通りし、テラスのいるテーブルまで走ってくるシン。
そしてそれを追いかける少女。

「あ、カイさん怒ってる…」

無言で2人を睨むカイにテラスだけ気づいた。

「俺テラスに用あるから、帰れ」

テラスの横にきて、少女を追い払おうとするシン。

「どうして?ユキは待ってるもん」

少女はユキという名前のようだ。小柄で華奢であった。
ツヤツヤとした黒髪のボブカットで、大きめの半そでTシャツにショートパンツを合わせている。
くりくりとした瞳が愛らしいが、第三寮生とは思えないほど童顔だ。

「俺に付きまとうな!」

「だって、そうしないとシンと仲良くなれないじゃん!」

「仲良くなんかなりたくねーんだよ」

「酷い酷い!でも、思ったことストレートに言うシンが好き」

「気持ちわりぃ」

「ねぇ、終わったらでいいからユキとデートしてよ」

「いやなこった」

最初はどうなることかと2人のやり取りを見ていたテラスは、ざっくりと事態を理解した。
どうやらユキがシンを気に入り、一方的に追いかけているようだ。
問題なしと判断したテラスは、作業を再開した。

「テラス、無視すんなよ!」

「私、関係なさそうだし」

「おまえ、とにかく帰れ!」

「おまえじゃなくて、ユキって呼んで」

「イヤだね」

「どうしてよ~!」

やかましい2人である。
さすがに集中できず、テラスは作業を止めてテーブルの上に乗せたものを再び台車に乗せた。カウンターの中に避難しようと思ったのだ。
席を立つテラスをシンが見咎める。

「あ!なに逃げようとしてるんだよ!」

「いや、捗らないから…」

「テラス、助けてくれよ」

「助けてって何を?」

「そうよ。どういうことよシン。ユキが悪者みたいに言わないで。シンのこと知りたいだけなんだから」

「それが迷惑なんだよ!…って、テラス逃げるなー!」

構わずカウンターへ移動しようとしたテラスを、シンは台車ごと引き留めた。

「勘弁してよ」

困り果てるテラス。
そこへ、アンセムが図書館にやってきた。
入ると同時に騒がしい声が聞こえて目を向けると、そこにはシンと見知らぬ女の子、そしてテラスがいた。
シンはテラスが押す台車を掴み、至近距離で話しかけている。
アンセムは一瞬で感情が掻き乱された。

(テラスに近寄るな!)

シンに対する強い怒りを感じた。

「どうした、アンセム。随分とおっかない顔してるな」

のんびりとしたカイの声かけに、アンセムは自分を取り戻す。

「おはようございます。あれはどういう状況ですか?」

カイが止めようとしないのだ。
テラスに害のある状況ではないのだろう。

「良くわからんが、多分シンの追っかけができたみたいだな」

「はぁ…」

「今日の作業、テラスにも頼んだからな。2人でやればすぐに終わるだろう。
あの台車に乗っているのがそうだ」

「はい。わかりました」

アンセムはテラスのもとへ向かった。
そこへ、アンセムに続くようにナミルが図書館を訪れた。

「どうやら役者が揃ったようだな」

面白そうに呟くカイ。

「おはようございます」

それに気付かず、ナミルはカイに挨拶をする。

「おはよう」

「なにか、また揉めてます?」

テラス達の方を見てナミルは聞いた。

「さぁ?」

カイはニヤニヤしながら、首を傾げるだけだった。