超人気美男子に目を付けられた平凡女は平和な寮生活を求めて苦悩する

「談話会なんか大嫌いだ。めんどくせーったらありゃしねー!」

食堂でテラスを見つけたシンは、昨日の談話会の愚痴を盛大にこぼした。
テラスはアイリと昼食中である。
アイリはテラスからシンのことを聞いていた。愚痴に関して言いたいことは山ほどあるが、厄介事はイヤなので我慢して黙っている。

「そりゃ、シンが悪いよ…」

テラスはさすがに意見した。

「だって白々しいと思わねーか?みんな無理して会話盛り上げてよ。苦痛だ」

「でも、そうやってお互い気遣うから、楽しい時間を過ごせるんじゃないかな?」

「全然楽しくねぇ!テラスは談話会好きだったのかよ?」

「いや、苦手だったけど、でもそのときは一応みんなに合わせたよ」

「偽っても意味ねーじゃん」

「ちょっと、テラスと君を一緒にしないでくれる?」

あまりにもシンがテラスを同類扱いするので、アイリは思わず口を出した。

「は~?」

「テラスは恋愛音痴だけど、人を思いやる気持ちはちゃんとあるわ。気遣いもね」

「恋愛音痴って…」

テラスが小さく突っ込みを入れる。

「部外者は引っ込んでてくれるか?」

「部外者は君でしょうが。私とテラスが楽しいランチしてたところ割り込んできたの、そっちでしょ」

「けっ!女同士ベタベタして気持ちわり」

「シン、私の友達悪く言うなら話はもうおしまいにしよう」

「う…」

テラスに言われて口篭るシン。

「あ、あの女だよ」

めげずに食堂の先にナミルを見つけて指を指す。
今までナミルのことは「女」と言っていたのだ。
指された方を見ると、アンセムがいた。

「あ、アンセムだ」

テラスが言った。

「そうだ、あの男の横にいる女だよ」

「ああ、ナミルさん?」

アンセムは友人数名と一緒にいて、そこにナミルが話しかけている様子だった。

「え?テラス知ってんの?」

「うん、図書館でたまに話したりするよ」

そういえば、ナミルとアンセムがキスしていたところを目撃したんだったな。
テラスふと思い出した。アンセムとナミルはどんな関係なのだろう?

「あの男に付きまとってんじゃねーの?いかにも美男子が好きそうだよな」

アンセムと話すナミルの表情を見て、シンは吐き捨てた。
自分に向けられた眼差しとは真逆だ。

「さぁ」

テラスは首を傾げた。

「来なくていいから!」

アイリが急に小声でそう言って、激しく手を振り出した。

「どうしたの?」

「テラス、行こう」

アイリは席を立った。

「なんだよいきなり」

不満の声を漏らすシン。

「アンセムが来るっ」

「え?」

言われてその方向を見ると、アンセムがこちらに歩いてくるところだった。
ナミルも横についてきている。

「あれ?珍しいな。何か用でもあるのかな?」

テラスはのんびり構えていた。
テラスが嫌がらせを受けて以来、よっぽどのことがない限り、アンセムは人の多い場所でテラスに話しかけなくなっていたからだ。
食堂でアンセムがテラスに接近すると厄介事が起きると思い込んでいるアイリは、早くこの場から立ち去りたい。

「とりあえず、食堂出よう」

「うん」

用があるなら食堂の外に出ても追いかけてくるだろうとテラスは思い、アイリに続く。

「あ、待てよ!」

シンも慌てて後を追った。
アイリとテラス、シンはとりあえず食堂の外に出た。

「何?君も着いてきたの?」

不満そうなアイリ。

「別にいいだろ」

フンっとそっぽを向くシン。

「私の部屋行こうか?もちろん君はダメよ」

アイリが提案した。

「はぁ?俺まだテラスと話すことあるんだけど」

「テラスに何の用かな?」

声をかけてきたのはアンセムだ。
ナミルも結局ここまで着いてきている。

「アンセム、ナミルさん、こんにちは~」

テラスがにこやかに挨拶する。
「は~い」と片手を上げるアイリ。

「こんにちは、テラス、アイリ」

アンセムも穏やかに挨拶を返す。
ナミルもぺこりと頭を下げた。

「割り込むなよ!」

シンは不機嫌を隠さなかった。

「相変わらず性格悪」

ナミルが呟いた。

「は?」

「そんなだと、変わり者同士のテラスさんからも嫌われるわよ」

「変わり者って…」

テラスが地味に抗議する。

「おまえ、キャラ違くねーか?」

談話会でのブリッコなナミルしか知らないシンは、思わず突っ込んだ。

「おまえって言わないでくれる?超不愉快」

「なんだと?」

「アンセムさん、行きましょうよ。テラスさんも、え~と…アイリさん、でしたっけ?も。シン相手にしても時間の無駄ですよ」

「なんなんだよ!」

怒ってナミルに詰め寄ろうとするシン。
ナミルはさっとアンセムの後ろに隠れた。
アンセムはそんなナミルを体で庇う。
テラスはただビックリして事の成行を見ているしかなかった。

「ちっ!おまえみたいに男に色目使うことばっかり考えている女は嫌いだ」

「それはこっちの台詞よ。昨日のシン、本当に酷かった。最低限のマナーも守れない人が、人の非難しないで」

ナミルはアンセムの後ろから言葉を投げつける。

「うるせぇ!おまえみたいな馬鹿女に言われる筋合いないんだよ!」

「女の子に使う言葉じゃないな…」

シンが背後に回り込もうとするのを手で阻むアンセム。

「シン、やめなよ」

テラスも制止した。

「あ~あ~、結局注目されちゃう宿命?」

嘆くアイリ。
食堂から出たとはいえ、大声でやりあうシンとナミル、ナミルを庇うアンセム、そしてシンを止めようとするテラス。
当然ながら周囲の目線を集めていた。

「あんたはいいよなぁ。その見た目、女に苦労しないだろう?」

シンの矛先がアンセムに変わった。

「どうかな」

静かに流すアンセム。
とにかくこの場を離れようと考えていた。

「見た目だけじゃないわよ。中身もシンと違って優しくて大人よ」

冷たくナミルは突っ込んだ。

「は~、そうかよ。でもテラスには相手にされてないんだろ。いい気味!」

「げげ!」

なんてことを言うんだ。
周囲の注目がテラスに集まった。

「逃げちゃおう…」

テラスはアンセムを見る。
アンセムは目だけで頷いた。

「アイリ、行こ」

そしてシンに背を向け、アイリと一緒にダッシュした。

「あ!こ、こらっ!」

慌てるシン。

「オレたちも行こう」

アンセムはナミルの手を引いて、テラスとは逆方向に走り出した。
取り残されたシン。
周囲の野次馬の目線が痛い。

「くそっ!」

さすがに耐えられず、シンもその場を離れた。