何となくイライラした日々を過ごすシンに、寮長のリナから呼び出しがあった。
気乗りしないが、さすがに寮長の呼び出しを無視するわけにもいかず渋々応じた。
指定された時間に寮長室へ行く。
ノックすると「どうぞ、お入りなさい」とリナが答えた。
言われたまま戸を開けて部屋に入るシン。一礼して戸を閉めた。
「いらっしゃい。シン」
「どうも」
「とりあえず、座りなさい」
「はい」
これから、また恋愛についての説教が始まるのだろう。
問題児のシンは、月2回は寮長に呼ばれていた。
毎度毎度のことながら、シンは憂鬱だ。
「グループ研究が始まったそうですね」
まずは当たり障りない話題から入るリナ。
「はい」
「進捗はどうですか?随分と難しい課題だと聞いてますが」
「別に、どうってことないです。他の連中は手間取ってるようですが」
「そう、さすがと言うしかないわね」
リナは素直に賞賛する。
そこへ戸がノックされた。リナが「どうぞ」と答えると、事務員がお茶を持ってきて、リナとシンの前に置き、部屋を出て行った。
「そうそう、お茶請けにいいものがあるの」
リナはそう言って立ち上がり、机の引き出しから袋を取り出しソファに戻ってきた。
「これ、私の隠しオヤツなんだけど、良ければ召し上がって」
そう言って、袋から煎餅を出し、シンに渡した。
「はぁ…」
断れず、そのまま受け取るシン。
「私もひとつ、いただくわ」
リナも煎餅を1枚手にして1口食べた。それに習って、シンも食べ始める。
ボリボリバリバリ。
煎餅を噛み砕く音だけになった。
(なんなんだ…この時間は…)
毒気を抜かれたシンだったが…。
「で、シンはまだ気になる女の子はいないのかしら?」
やはり恋愛の話題になり、緩んだ気持ちがとがる。
「いません。俺、恋愛に興味ありませんから」
「そう?」
リナはシンを見た。頑なな表情はいつものことだ。
「研究メンバーにも女の子はいるでしょう?一緒に同じ難題をクリアする仲間として、特別な感情が芽生えたりすることも、これからあるかもしれませんよ」
「まさか」
シンは一笑に伏した。
「俺は恋愛で頭いっぱいになるような女が一番キライですから」
吐き捨てるように言った。
「恋愛で頭がいっぱいって、誰のことを言っているのかしら?」
「同じチームの女2人のことですよ」
「2人?」
リナは訝しく思った。リリアはともかく、なぜテラスが恋愛に夢中なイメージを持たれるのか。
「2人って、リリアとテラスのことよね?」
念のため確認するリナ。
「そうですよ」
「どの辺が、そう思うのかしら?」
「全部ですよ」
「シン、本当に2人のことを良く知ってますか?」
「さぁね。知りたいとも思いませんけど」
取り付く島もないシン。
「シン、相手を良く知ろうともせず、勝手にイメージを固定させるのは、良くありませんよ。相手にとっても、あなたにとっても」
「ほっといてくれよ」
正論を言われて、シンは思わず語気が荒くなる。
「ほっとけないのが寮長の仕事です。…どうしてテラスが恋愛で頭いっぱいになるのかしら…」
後半はリナの呟きになる。
「知らないんですか?テラスはアンセムって色男とよろしくやってますよ」
「え!?」
リナは驚いた。
情報はいろいろと入ってきている。テラスをアンセムに任せたのは大正解だったようだが、まだ2人がまとまったという話は聞いていない。
「それ、何かの間違いじゃないかしら?」
寮長の情報網は確かなものである。だから思わず聞き返していた。
「俺、2人が抱き合っていちゃついてるところ、この目で見てるんスよね」
「あら、そうなの?」
それはきっとアンセムの誠意によるものだろう。リナは即座にそう判断した。
テラスがそれに少しでも応じたのだとしたら、とても大きな進歩だ。
嬉しくなって、つい声のトーンが上がった。
「なんで寮長が嬉しそうなんだよ…」
思ったことがそのまま口に出てしまったシンである。
「シンにだから話すけど、テラスは本当に問題児だったのよ。去年なんか、本気で異性に全く目が向かなくてね。
何度呼び出しても、『良くわかりません』ってケロっとしてたのよ。最近はようやく少しずつ考えてくれるようになったようね。うふふ」
リナから笑みがこぼれる。
「マジすか?」
シンは疑いの眼差しを向けた。
「嘘ついてどうしますか?あなたは頑なって感じだけど、テラスは本当に興味ゼロだったから、私の大きな悩みの種だったんですよ」
テラスの相手をアンセムに選んでよかった、自分の選択の正しさに満足するリナである。
「どうしてテラスは急に変わったんだ?」
リナの言葉が本当ならば、シンは去年のテラスに会いたかったとシンは思う。
「やっぱり、ああいった男なら、女は誰でも振り向くってことか…」
自虐的に呟くシン。
「ああいった男って、どういうことかしら?」
「はぁ?だから、美形で如何にも女が喜びそうな言葉をバンバン投げかける男ってことですよ」
「ふふっ」
シンの発言に思わず笑ってしまうリナである。
「アンセムを的確に表現しているわね。でも、一つ勘違いをしていますよ」
「勘違いって何がですか」
「テラスはアンセムに振り向いていません」
「はぁ?」
「今はアンセムの片思いの状態でしょうね」
「はぁ!?!?」
意外過ぎる答えに大きな声が出るシン。
「他言無用ですよ」
「意味わかんねー」
シンは混乱した。
てっきりテラスはあの色男に夢中だと思い込んでいたのだ。
それが、実は逆だとリナは言う。
「もし、テラスがアンセムの気持ちに応えることがあるのだとしたら、それはアンセムの容姿や甘い言葉ではなく、彼の真心に動かされたときでしょうね」
「真心?クサ!」
鳥肌が立ってしまいそうだ。
「心動かされるのは、外見よりも中身だと思いますよ」
「俺、苦手ですから」
拒否反応を起こすシンを見て、リナはため息をついた。
「シン、あなたはとても聡明ですから、本当はわかってるはずです。
誰かを好きになれ、とは言いません。だけど、人の感情を自分の物差しだけで測ってはいけません。
自ら遮らず、相手の言葉の意味を考えて、気持ちを汲み取る努力を惜しんではいけませんよ」
(うっせぇ!)
さすがにそれは言葉に出さず、不機嫌に目を逸らす事で、拒否の意を示すシンだった。
気乗りしないが、さすがに寮長の呼び出しを無視するわけにもいかず渋々応じた。
指定された時間に寮長室へ行く。
ノックすると「どうぞ、お入りなさい」とリナが答えた。
言われたまま戸を開けて部屋に入るシン。一礼して戸を閉めた。
「いらっしゃい。シン」
「どうも」
「とりあえず、座りなさい」
「はい」
これから、また恋愛についての説教が始まるのだろう。
問題児のシンは、月2回は寮長に呼ばれていた。
毎度毎度のことながら、シンは憂鬱だ。
「グループ研究が始まったそうですね」
まずは当たり障りない話題から入るリナ。
「はい」
「進捗はどうですか?随分と難しい課題だと聞いてますが」
「別に、どうってことないです。他の連中は手間取ってるようですが」
「そう、さすがと言うしかないわね」
リナは素直に賞賛する。
そこへ戸がノックされた。リナが「どうぞ」と答えると、事務員がお茶を持ってきて、リナとシンの前に置き、部屋を出て行った。
「そうそう、お茶請けにいいものがあるの」
リナはそう言って立ち上がり、机の引き出しから袋を取り出しソファに戻ってきた。
「これ、私の隠しオヤツなんだけど、良ければ召し上がって」
そう言って、袋から煎餅を出し、シンに渡した。
「はぁ…」
断れず、そのまま受け取るシン。
「私もひとつ、いただくわ」
リナも煎餅を1枚手にして1口食べた。それに習って、シンも食べ始める。
ボリボリバリバリ。
煎餅を噛み砕く音だけになった。
(なんなんだ…この時間は…)
毒気を抜かれたシンだったが…。
「で、シンはまだ気になる女の子はいないのかしら?」
やはり恋愛の話題になり、緩んだ気持ちがとがる。
「いません。俺、恋愛に興味ありませんから」
「そう?」
リナはシンを見た。頑なな表情はいつものことだ。
「研究メンバーにも女の子はいるでしょう?一緒に同じ難題をクリアする仲間として、特別な感情が芽生えたりすることも、これからあるかもしれませんよ」
「まさか」
シンは一笑に伏した。
「俺は恋愛で頭いっぱいになるような女が一番キライですから」
吐き捨てるように言った。
「恋愛で頭がいっぱいって、誰のことを言っているのかしら?」
「同じチームの女2人のことですよ」
「2人?」
リナは訝しく思った。リリアはともかく、なぜテラスが恋愛に夢中なイメージを持たれるのか。
「2人って、リリアとテラスのことよね?」
念のため確認するリナ。
「そうですよ」
「どの辺が、そう思うのかしら?」
「全部ですよ」
「シン、本当に2人のことを良く知ってますか?」
「さぁね。知りたいとも思いませんけど」
取り付く島もないシン。
「シン、相手を良く知ろうともせず、勝手にイメージを固定させるのは、良くありませんよ。相手にとっても、あなたにとっても」
「ほっといてくれよ」
正論を言われて、シンは思わず語気が荒くなる。
「ほっとけないのが寮長の仕事です。…どうしてテラスが恋愛で頭いっぱいになるのかしら…」
後半はリナの呟きになる。
「知らないんですか?テラスはアンセムって色男とよろしくやってますよ」
「え!?」
リナは驚いた。
情報はいろいろと入ってきている。テラスをアンセムに任せたのは大正解だったようだが、まだ2人がまとまったという話は聞いていない。
「それ、何かの間違いじゃないかしら?」
寮長の情報網は確かなものである。だから思わず聞き返していた。
「俺、2人が抱き合っていちゃついてるところ、この目で見てるんスよね」
「あら、そうなの?」
それはきっとアンセムの誠意によるものだろう。リナは即座にそう判断した。
テラスがそれに少しでも応じたのだとしたら、とても大きな進歩だ。
嬉しくなって、つい声のトーンが上がった。
「なんで寮長が嬉しそうなんだよ…」
思ったことがそのまま口に出てしまったシンである。
「シンにだから話すけど、テラスは本当に問題児だったのよ。去年なんか、本気で異性に全く目が向かなくてね。
何度呼び出しても、『良くわかりません』ってケロっとしてたのよ。最近はようやく少しずつ考えてくれるようになったようね。うふふ」
リナから笑みがこぼれる。
「マジすか?」
シンは疑いの眼差しを向けた。
「嘘ついてどうしますか?あなたは頑なって感じだけど、テラスは本当に興味ゼロだったから、私の大きな悩みの種だったんですよ」
テラスの相手をアンセムに選んでよかった、自分の選択の正しさに満足するリナである。
「どうしてテラスは急に変わったんだ?」
リナの言葉が本当ならば、シンは去年のテラスに会いたかったとシンは思う。
「やっぱり、ああいった男なら、女は誰でも振り向くってことか…」
自虐的に呟くシン。
「ああいった男って、どういうことかしら?」
「はぁ?だから、美形で如何にも女が喜びそうな言葉をバンバン投げかける男ってことですよ」
「ふふっ」
シンの発言に思わず笑ってしまうリナである。
「アンセムを的確に表現しているわね。でも、一つ勘違いをしていますよ」
「勘違いって何がですか」
「テラスはアンセムに振り向いていません」
「はぁ?」
「今はアンセムの片思いの状態でしょうね」
「はぁ!?!?」
意外過ぎる答えに大きな声が出るシン。
「他言無用ですよ」
「意味わかんねー」
シンは混乱した。
てっきりテラスはあの色男に夢中だと思い込んでいたのだ。
それが、実は逆だとリナは言う。
「もし、テラスがアンセムの気持ちに応えることがあるのだとしたら、それはアンセムの容姿や甘い言葉ではなく、彼の真心に動かされたときでしょうね」
「真心?クサ!」
鳥肌が立ってしまいそうだ。
「心動かされるのは、外見よりも中身だと思いますよ」
「俺、苦手ですから」
拒否反応を起こすシンを見て、リナはため息をついた。
「シン、あなたはとても聡明ですから、本当はわかってるはずです。
誰かを好きになれ、とは言いません。だけど、人の感情を自分の物差しだけで測ってはいけません。
自ら遮らず、相手の言葉の意味を考えて、気持ちを汲み取る努力を惜しんではいけませんよ」
(うっせぇ!)
さすがにそれは言葉に出さず、不機嫌に目を逸らす事で、拒否の意を示すシンだった。



