アンセムは教育施設に来ていた。
以前から準備を頼まれていたグループディベートが近く、仲間達と打ち合わがあったのだ。
午前中で終わり、仲間達と中央施設の食堂でランチをとることにした。
そこで、アンセムはテラスの姿を見つけた。
「あ、あいつ」
仲間の1人であるエイールが、テラスの方を指して声を出した。
「シンじゃないか?」
「ああ、そうだ」
エイールの言葉に、別の仲間が同意した。
(ああ、あいつが…)
アンセムはテラスの横に立っているシンを見た。
ほかにも男女1人ずついて4人一緒のようだ。
シンは、今年の新入生である。生物学を前代未聞の速度で習得し、今はテラスと同じ薬学の分野に進んでいる。
シンは生物学を専攻している者なら、誰もが知っている程の有名人だった。
シンはラフな紺のTシャツにダボついたジーパンを履き、少し伸び過ぎた明るい茶色の髪を無造作に一本に結んでいた。
あまり身なりにマメなタイプではないようだが、野生的な瞳が独特の雰囲気を醸し出し、魅力的と言えないわけでもない。
「あれ?アンセムだ」
テラスはアンセムに気付き、手をひょこっと上げて合図した。
そんな動作すら可愛く思えるアンセム。笑顔で片手を上げて挨拶に応えた。
お互い生物学の仲間達と打ち合わせ途中の昼食であることは、メンバーを見ればすぐにわかる。
どちらともなく、合流することは避けた。
テラスは薬草分野の研究で新しくチームを組んだメンバーと、初打ち合わせだった。
テラス、シン、テラスと同学年の女の子リリア、テラスの1つ上の学年の青年セイラスの4人。なお、セイラスのみ寮のグループが違う。
今日は自由研究の課題決めの集まりだった。
「あれってアンセムさんよね?」
リリアがテラスに問いかけた。
「そうだよ」
頷くテラス。
「仲がいいって本当だったんだ…」
驚きの表情をするリリア。
「アンセムがテラスにアプローチしてるって本当かい?」
セイラスも会話に参加してくる。寮のグループは違うが、アンセムとは第二寮のときの友人であり、生物学応用までは中央施設で一緒に学んだ仲である。
「ええ!?」
いきなり話題が自分に集中して、テラスは動揺した。
「アンセムって、誰だ?」
シンは話についていけない。
「知らないの?」
とリリア。
「知らね」
興味なさそうに答えるシン。
「シンの2個上の、超人気ある人よ。あの人も生物学専攻よ。分野は品種改良だけど。
テラスに目をつけたって噂があったの」
「あっそ」
「果たして噂は本当だったのか」
セイラスが面白そうにテラスを見た。
「とりあえず、食べ物取ってこようよ」
テラスは無理矢理話題を変えた。
「そーだな。腹へった」
シンが同意する。
「詳しくは、食べながらじっくりね」
「じっくり話すことなんてないよ」
リリアに言われ、テラスはげんなりだ。
テラスたち4人はそれぞれ好きな物を選び、窓際の席に座る。
テラスはサンドイッチとフレッシュオレンジジュースを選んだ。
「で、本当のところ、テラスとアンセムさんってどうなってるの?」
席につくと、早速リリアが追求してきた。
「どうなってるのって、友達だよ」
サンドイッチをぱくつきながら答えるテラス。
「それだけ?」
「アンセムにアプローチされてたって噂は本当かい??」
セイラスまで追求に参加してきた。
「いーじゃん別にどうでも…」
2人から目を逸らして、サンドイッチをモグモグするテラス。
「否定しないんだ!」
またまた驚くリリア。セイラスも無言で驚いている。
「新薬の調合なんだけどさ」
「そんなの今どーでもいいから」
「いつの間にそんなことになったんだい?」
テラスは強引に話題を変えようしたが、リリアとセイラスには通じない。
「まさか、付き合ってるとか!?」
「いや~、テラスにもついに春がきたか」
(勘弁してよー)
テラスは頭を抱えた。
「くっだらね!」
無言でラーメンを啜っていたシンが吐き捨てるように言った。
3人はシンを見る。
「よく恋愛話でそこまで盛り上がれるな」
つまらなそうに言って、シンはラーメンの汁をゴクゴクと飲んだ。
「恋愛話だから盛り上がるんじゃん、ね~」
セイラスに同意を求めるリリア。
「そうだよな」
頷くセイラス。
「少しは女の子に興味持たないと、売れ残るわよ~」
「はぁ?女なんて、何考えてるかわかんねーし、めんどくせ」
テラスはシンの顔を見た。
「強がり?」
リリアがシンをいじる。
「そんなじゃねーよ。だけどろくに話したこともねーのに、やたら馴れ馴れしくされたりするのがめんどくせってだけだ」
「…わかる」
テラスはポツリと呟いた。
ぎょっとして、シンはテラスを見る。
「それ、嫌味か?」
「そんなわけないでしょ。本心。私もそう思ってたこと、あったから」
「そうね~、前のテラスはシンと似てたかも」
リリアが同意した。
「シンは知らないだろうけど、テラスも生物学オタクだったんだ。ってそれは今もか」
セイラスがテラスをからかう。
「今だって、恋愛は良くわからないよ」
テラスは眉間にしわを寄せた。
アンセムから告白され、そして、再び普通に話すようになって1ヶ月が経った。
アンセムからの好意は伝わってくるのだが、未だにどう応えてよいのかわからない。
友達として接する時はとても楽しい。
だけどふいに見つめられたり、抱き寄せられたりすると、どうしたら良いのかわからなくなるのだ。反射的に拒否してしまう。
「なんだ、アンセムに手取り足取り色々教えてもらってるんじゃないのかい?」
柔らかな口調で赤裸々な質問をするセイラス。
「…なにそれ。ないない…」
テラスは脱力した。
「テラスも相当変わってるわね~。アンセムさんでダメなら、それ以上の男なんていないだろうに、どうするの?」
無言になってしまうテラス。
自分でも、あれ程熱心に、そして優しく自分を好きでいてくれる男性が、他にいるとは思えない。
だけど、わからないんだから仕方がない。
「みんなどーやって人を好きになってるの?」
泣きたい気分でテラスは質問を投げかけた。
「なんとなくいいなって思ったら、積極的に話しかけて、親しくなるにつれてやっぱり好きだな~って感じ?」
リリアが答えた。
「なんとなくいいな、がわかんないんだけど…」
「そりゃ重症ね」
リリアはため息をついた。
「そんなことで悩んでるより、実験してる方が楽しいだろ」
「そうだね」
シンの発言に、テラスも同意する。
「あ~あ、テラス少し変わったかと思いきや、やっぱり全然変わってないわ」
リリアは天井を仰いだ。
「テラスはともかく、シンはあっちの方はどうしてるんだい?」
とこれはセイラスだ。
「昼の話題じゃないわね、それ」
リリアがちょっと嫌な顔をする。
テラスは意味がわからない。ついでにシンも意味がわからなかったらしい。
「あっちってなんだ?」
「男の生理のことだよ。女の子に興味ゼロは不健康だ」
「あ、そ。やるだけならいいけど、それまでの過程がめんどくせ。自分でやった方が楽」
意味を理解して、シンはつまらなそうに言った。
「経験はあるんだ」
リリアが突っ込む。
「まぁね」
「でも、それでメンドクサイって、終わってるわね。まだ若いのに…」
「僕もそう思う」
「余計なお世話だ」
テラスはすっかり会話に取り残されたが、とりあえず自分から話題が逸れてホッとした。
その日はランチで解散となり、各自打ち合わせで担当となった分野を掘り下げることが宿題となった。
以前から準備を頼まれていたグループディベートが近く、仲間達と打ち合わがあったのだ。
午前中で終わり、仲間達と中央施設の食堂でランチをとることにした。
そこで、アンセムはテラスの姿を見つけた。
「あ、あいつ」
仲間の1人であるエイールが、テラスの方を指して声を出した。
「シンじゃないか?」
「ああ、そうだ」
エイールの言葉に、別の仲間が同意した。
(ああ、あいつが…)
アンセムはテラスの横に立っているシンを見た。
ほかにも男女1人ずついて4人一緒のようだ。
シンは、今年の新入生である。生物学を前代未聞の速度で習得し、今はテラスと同じ薬学の分野に進んでいる。
シンは生物学を専攻している者なら、誰もが知っている程の有名人だった。
シンはラフな紺のTシャツにダボついたジーパンを履き、少し伸び過ぎた明るい茶色の髪を無造作に一本に結んでいた。
あまり身なりにマメなタイプではないようだが、野生的な瞳が独特の雰囲気を醸し出し、魅力的と言えないわけでもない。
「あれ?アンセムだ」
テラスはアンセムに気付き、手をひょこっと上げて合図した。
そんな動作すら可愛く思えるアンセム。笑顔で片手を上げて挨拶に応えた。
お互い生物学の仲間達と打ち合わせ途中の昼食であることは、メンバーを見ればすぐにわかる。
どちらともなく、合流することは避けた。
テラスは薬草分野の研究で新しくチームを組んだメンバーと、初打ち合わせだった。
テラス、シン、テラスと同学年の女の子リリア、テラスの1つ上の学年の青年セイラスの4人。なお、セイラスのみ寮のグループが違う。
今日は自由研究の課題決めの集まりだった。
「あれってアンセムさんよね?」
リリアがテラスに問いかけた。
「そうだよ」
頷くテラス。
「仲がいいって本当だったんだ…」
驚きの表情をするリリア。
「アンセムがテラスにアプローチしてるって本当かい?」
セイラスも会話に参加してくる。寮のグループは違うが、アンセムとは第二寮のときの友人であり、生物学応用までは中央施設で一緒に学んだ仲である。
「ええ!?」
いきなり話題が自分に集中して、テラスは動揺した。
「アンセムって、誰だ?」
シンは話についていけない。
「知らないの?」
とリリア。
「知らね」
興味なさそうに答えるシン。
「シンの2個上の、超人気ある人よ。あの人も生物学専攻よ。分野は品種改良だけど。
テラスに目をつけたって噂があったの」
「あっそ」
「果たして噂は本当だったのか」
セイラスが面白そうにテラスを見た。
「とりあえず、食べ物取ってこようよ」
テラスは無理矢理話題を変えた。
「そーだな。腹へった」
シンが同意する。
「詳しくは、食べながらじっくりね」
「じっくり話すことなんてないよ」
リリアに言われ、テラスはげんなりだ。
テラスたち4人はそれぞれ好きな物を選び、窓際の席に座る。
テラスはサンドイッチとフレッシュオレンジジュースを選んだ。
「で、本当のところ、テラスとアンセムさんってどうなってるの?」
席につくと、早速リリアが追求してきた。
「どうなってるのって、友達だよ」
サンドイッチをぱくつきながら答えるテラス。
「それだけ?」
「アンセムにアプローチされてたって噂は本当かい??」
セイラスまで追求に参加してきた。
「いーじゃん別にどうでも…」
2人から目を逸らして、サンドイッチをモグモグするテラス。
「否定しないんだ!」
またまた驚くリリア。セイラスも無言で驚いている。
「新薬の調合なんだけどさ」
「そんなの今どーでもいいから」
「いつの間にそんなことになったんだい?」
テラスは強引に話題を変えようしたが、リリアとセイラスには通じない。
「まさか、付き合ってるとか!?」
「いや~、テラスにもついに春がきたか」
(勘弁してよー)
テラスは頭を抱えた。
「くっだらね!」
無言でラーメンを啜っていたシンが吐き捨てるように言った。
3人はシンを見る。
「よく恋愛話でそこまで盛り上がれるな」
つまらなそうに言って、シンはラーメンの汁をゴクゴクと飲んだ。
「恋愛話だから盛り上がるんじゃん、ね~」
セイラスに同意を求めるリリア。
「そうだよな」
頷くセイラス。
「少しは女の子に興味持たないと、売れ残るわよ~」
「はぁ?女なんて、何考えてるかわかんねーし、めんどくせ」
テラスはシンの顔を見た。
「強がり?」
リリアがシンをいじる。
「そんなじゃねーよ。だけどろくに話したこともねーのに、やたら馴れ馴れしくされたりするのがめんどくせってだけだ」
「…わかる」
テラスはポツリと呟いた。
ぎょっとして、シンはテラスを見る。
「それ、嫌味か?」
「そんなわけないでしょ。本心。私もそう思ってたこと、あったから」
「そうね~、前のテラスはシンと似てたかも」
リリアが同意した。
「シンは知らないだろうけど、テラスも生物学オタクだったんだ。ってそれは今もか」
セイラスがテラスをからかう。
「今だって、恋愛は良くわからないよ」
テラスは眉間にしわを寄せた。
アンセムから告白され、そして、再び普通に話すようになって1ヶ月が経った。
アンセムからの好意は伝わってくるのだが、未だにどう応えてよいのかわからない。
友達として接する時はとても楽しい。
だけどふいに見つめられたり、抱き寄せられたりすると、どうしたら良いのかわからなくなるのだ。反射的に拒否してしまう。
「なんだ、アンセムに手取り足取り色々教えてもらってるんじゃないのかい?」
柔らかな口調で赤裸々な質問をするセイラス。
「…なにそれ。ないない…」
テラスは脱力した。
「テラスも相当変わってるわね~。アンセムさんでダメなら、それ以上の男なんていないだろうに、どうするの?」
無言になってしまうテラス。
自分でも、あれ程熱心に、そして優しく自分を好きでいてくれる男性が、他にいるとは思えない。
だけど、わからないんだから仕方がない。
「みんなどーやって人を好きになってるの?」
泣きたい気分でテラスは質問を投げかけた。
「なんとなくいいなって思ったら、積極的に話しかけて、親しくなるにつれてやっぱり好きだな~って感じ?」
リリアが答えた。
「なんとなくいいな、がわかんないんだけど…」
「そりゃ重症ね」
リリアはため息をついた。
「そんなことで悩んでるより、実験してる方が楽しいだろ」
「そうだね」
シンの発言に、テラスも同意する。
「あ~あ、テラス少し変わったかと思いきや、やっぱり全然変わってないわ」
リリアは天井を仰いだ。
「テラスはともかく、シンはあっちの方はどうしてるんだい?」
とこれはセイラスだ。
「昼の話題じゃないわね、それ」
リリアがちょっと嫌な顔をする。
テラスは意味がわからない。ついでにシンも意味がわからなかったらしい。
「あっちってなんだ?」
「男の生理のことだよ。女の子に興味ゼロは不健康だ」
「あ、そ。やるだけならいいけど、それまでの過程がめんどくせ。自分でやった方が楽」
意味を理解して、シンはつまらなそうに言った。
「経験はあるんだ」
リリアが突っ込む。
「まぁね」
「でも、それでメンドクサイって、終わってるわね。まだ若いのに…」
「僕もそう思う」
「余計なお世話だ」
テラスはすっかり会話に取り残されたが、とりあえず自分から話題が逸れてホッとした。
その日はランチで解散となり、各自打ち合わせで担当となった分野を掘り下げることが宿題となった。



