ミユウはテラスが走り去った方向へとにかく走った。
このままにしておくわけにはいかない。
アンセムが避けられている理由を、テラスに確認しなくては。
少し走ると階段のフロアに出た。
テラスの姿は見えない。
自分の部屋に帰ったのだろうか。だとしたらお手上げだ。ミユウはテラスの部屋を知らなかった。
「どうしよう…」
一瞬だけ迷い、ミユウは階段を下りることにした。
1階に出ると、そこから中央施設に続く道がある外出口が見えた。
何となく直感があり、そこから外に出ると、再びミユウは走り出した。
目指す先は図書館だ。
最初の角を曲がると、少し先にテラスの姿が見えた。
ミユウは走る速度を上げて、テラスに追いついた。
「テラス!」
いきなり背後から呼ばれて驚くテラス。
振り向くと、息を切らせたミユウがいて、尚更驚いた。
「ミユウさん、どうしたんですか?」
苦しそうなミユウに駆け寄るテラス。
ミユウはハァハァと肩で息をしながら、テラスをキッと見た。
「あなた、アンセムを避けてるって本当?」
「え…?」
いきなりの話題に戸惑うテラス。
そんなテラスを見つめるミユウ。
「はい…」
何度見ても綺麗な人だな。
テラスは見惚れながらも質問に答えた。
「私とアンセムが別れたこと、知らないの?」
「知ってますよ」
その答えを聞いて、ミユウはテラスの両肩を掴んだ。
「じゃぁどうしてアンセムを避けるの?!」
口調も強くなる。
「どうしてって…、そういう約束じゃないですか」
テラスはなぜミユウが怒っているのかわからない。
「あなたバカなの?」
ミユウは心底呆れてテラスから手を離した。
「バカってなんですか」
さすがにムッとするテラス。
「だってそうでしょう?あの約束は、私がアンセムに選んでほしくてお願いしたことでしょう?別れてしまったんだから、無効になって当然でしょう?
あなたがアンセムに関わらなくても、私は振られてしまったんだから」
なんでこんなことまで説明しなくてはならないんだ。
ミユウは腹が立ってきた。
「ええ!?そうなんですか?」
テラスはまた驚いた。
「どうしてそこで驚くの?」
「だって、約束は約束でしょう?ミユウさんとアンセムがどうなろうが、約束したことには変わりないじゃないですか。
あのとき、ミユウさんは私とアンセムが関わることがイヤだったんでしょ?それは、別れた後も変わらないと思ってました」
ミユウは絶句した。
テラスの思考回路が良くわからない。どうしてそういう発想になるのか。
「私、別れた男を束縛するほどイヤな女じゃないわ」
「イヤな女なんて言ってないですよ。私は約束を守っただけです」
「あなたが理解できないわ」
「はぁ…」
そう言われてもテラスは困ってしまう。
「アンセムのこと好きじゃないの?」
「その問には、以前答えたと思いますけど」
「本当に?異性として、男として見ていないの?」
「だから、私は良くわからないんです!」
自分が恋愛について下手に考えると、誰かを傷つけてしまうと自己嫌悪しているテラスは、しばらく恋愛について考えたくなかった。
「わからないってことは、好きってことじゃないの?」
「なんでそーなるんですか…」
どうして皆は自分にアンセムが好きだと言わせたがるのだろう。煩わしい。
「アンセムと話せなくて、辛くなかった?」
「そりゃしんどかったですよ。会話に応じることができないってのは。
あっちは理由なんて知らないし、誰にも言えないし」
「アンセムはあなたのことが好きなのよ?」
「…知ってます…」
「知ってるの!?」
ミユウは驚愕した。
「本人から聞きましたから…」
「信じられない!それでもまだ避けてたの?」
「だって、ミユウさんとの約束があったから」
「やっぱりあなたバカよ」
ため息とともに言葉を吐き出すミユウ。
「バカバカ言わないでください」
いくらミユウが綺麗でも、バカを連発されればテラスだって面白くない。
「だって事実だもの。アンセムからの告白を受けないだなんて」
「なんですか?ミユウさんは私とアンセムが付き合った方がいいの?」
「そりゃそうよ。私を振ったんだから、アンセムには志貫いてもらわないと納得できないわよ」
ミユウが納得できないからといって、なぜ自分がアンセムと付き合わなければならないのか。
テラスは理解不能だ。
「私、ミユウさんにお願いされたとき、ミユウさんがアンセムを想う気持ちの強さをすごく感じたんです。
アンセムのことは好きですけど、男とか女とかやっぱりわからないし、自分がミユウさんのように、強くアンセムを想うなんて想像もできません」
ミユウはテラスの言いたいことがわからず、続きを待った。
「だから、約束は何としても守ろうって思ったんです。ミユウさんとアンセムがどうなっても、それは別問題です」
ミユウはテラスをまじまじと見つめた。
きっと、好きな気持ちがわからないというのは本当なのだろう。
それにしても、どこまで恋愛に鈍感なのか。やはり、このままにしておくわけにはいかない。
非情にしゃくだけど、自分が懸け橋になるしかない。
「わかったわ…」
ミユウは納得したように頷いた。
「それは誤解よ。あなたの勘違い」
「はぁ…」
「私は、あなたがアンセムに接触しなければ、きっとアンセムはあなたのことを忘れて私を選ぶって思ってた。だからお願いしたのよ。
でも、そうならなかった。私が思っていたよりずっと、アンセムがあなたを思う気持ちは強かったの」
以前なら、この事実を自分の口から言えなかっただろう。
少し時間が経ち、少ないながらも近しい人たちに支えられて、少しずつ立ち直ってきた今だから言えることだ。
「だから、アンセムから別れを切り出されたのよ。あなたがどんな態度をとろうが、アンセムはあなたのことが好きなのよ」
テラスは心細げにミユウを見た。
そんなこと言われても、自分がどうすればいいかなんてわからない。
「だから、あの約束はなかったことにして」
ミユウはキッパリと言った。
「アンセムを避ける理由は私との約束なんでしょう?
そんなことに縛られなくていいから、テラスはテラスのしたいようにして。そして、特別な人を探せばいいわ」
「ミユウさん…」
「私との一方的な約束を一生懸命守ってくれていたのに、そのままにしてしまってごめんなさい」
ミユウは頭を下げた。
テラスへの怒りはすっかり消えていた。ただ、手がかかると思った。だから助けたくなる。そこがテラスの魅力なのだろうか。
「そんな、顔を上げてください」
テラスは慌てた。
「もうアンセムを避けないでくれる?」
「ええ!?でも今更」
今さらどんな顔でアンセムに接しろというのか。
「お願い」
更に深く頭を下げるミユウ。
「わかりました、わかりましたから頭下げないでくださいっ」
テラスは居たたまれない。
「ええ」
そう言って顔を上げたミユウは真剣な表情をしていた。
綺麗な目に強い気持ちが秘められている。
その眼差しを見て、テラスは動揺した。
自分はこれから同じステージに立たなければならないのか。
「テラス、私が言うのもおかしいかもしれないけど、アンセムはあなたのことが本当に好きなんだと思う。だから、わからなくても、頑張って向き合ってあげてね」
「そんなこと言われても…」
困ってしまうのある。
「私、あなたのことキライじゃないわ」
ミユウはそう言うと、とても綺麗な笑顔を見せた。
同性なのに、その笑顔を見てドキドキしてしまうテラスである。
「私はミユウさんのこと好きです」
アンセムはなぜこんなに素敵な人より自分を好きになってしまったのか。
恋愛は本当に良くわからない。
「ありがとう」
そして、ミユウは華麗に立ち去った。
このままにしておくわけにはいかない。
アンセムが避けられている理由を、テラスに確認しなくては。
少し走ると階段のフロアに出た。
テラスの姿は見えない。
自分の部屋に帰ったのだろうか。だとしたらお手上げだ。ミユウはテラスの部屋を知らなかった。
「どうしよう…」
一瞬だけ迷い、ミユウは階段を下りることにした。
1階に出ると、そこから中央施設に続く道がある外出口が見えた。
何となく直感があり、そこから外に出ると、再びミユウは走り出した。
目指す先は図書館だ。
最初の角を曲がると、少し先にテラスの姿が見えた。
ミユウは走る速度を上げて、テラスに追いついた。
「テラス!」
いきなり背後から呼ばれて驚くテラス。
振り向くと、息を切らせたミユウがいて、尚更驚いた。
「ミユウさん、どうしたんですか?」
苦しそうなミユウに駆け寄るテラス。
ミユウはハァハァと肩で息をしながら、テラスをキッと見た。
「あなた、アンセムを避けてるって本当?」
「え…?」
いきなりの話題に戸惑うテラス。
そんなテラスを見つめるミユウ。
「はい…」
何度見ても綺麗な人だな。
テラスは見惚れながらも質問に答えた。
「私とアンセムが別れたこと、知らないの?」
「知ってますよ」
その答えを聞いて、ミユウはテラスの両肩を掴んだ。
「じゃぁどうしてアンセムを避けるの?!」
口調も強くなる。
「どうしてって…、そういう約束じゃないですか」
テラスはなぜミユウが怒っているのかわからない。
「あなたバカなの?」
ミユウは心底呆れてテラスから手を離した。
「バカってなんですか」
さすがにムッとするテラス。
「だってそうでしょう?あの約束は、私がアンセムに選んでほしくてお願いしたことでしょう?別れてしまったんだから、無効になって当然でしょう?
あなたがアンセムに関わらなくても、私は振られてしまったんだから」
なんでこんなことまで説明しなくてはならないんだ。
ミユウは腹が立ってきた。
「ええ!?そうなんですか?」
テラスはまた驚いた。
「どうしてそこで驚くの?」
「だって、約束は約束でしょう?ミユウさんとアンセムがどうなろうが、約束したことには変わりないじゃないですか。
あのとき、ミユウさんは私とアンセムが関わることがイヤだったんでしょ?それは、別れた後も変わらないと思ってました」
ミユウは絶句した。
テラスの思考回路が良くわからない。どうしてそういう発想になるのか。
「私、別れた男を束縛するほどイヤな女じゃないわ」
「イヤな女なんて言ってないですよ。私は約束を守っただけです」
「あなたが理解できないわ」
「はぁ…」
そう言われてもテラスは困ってしまう。
「アンセムのこと好きじゃないの?」
「その問には、以前答えたと思いますけど」
「本当に?異性として、男として見ていないの?」
「だから、私は良くわからないんです!」
自分が恋愛について下手に考えると、誰かを傷つけてしまうと自己嫌悪しているテラスは、しばらく恋愛について考えたくなかった。
「わからないってことは、好きってことじゃないの?」
「なんでそーなるんですか…」
どうして皆は自分にアンセムが好きだと言わせたがるのだろう。煩わしい。
「アンセムと話せなくて、辛くなかった?」
「そりゃしんどかったですよ。会話に応じることができないってのは。
あっちは理由なんて知らないし、誰にも言えないし」
「アンセムはあなたのことが好きなのよ?」
「…知ってます…」
「知ってるの!?」
ミユウは驚愕した。
「本人から聞きましたから…」
「信じられない!それでもまだ避けてたの?」
「だって、ミユウさんとの約束があったから」
「やっぱりあなたバカよ」
ため息とともに言葉を吐き出すミユウ。
「バカバカ言わないでください」
いくらミユウが綺麗でも、バカを連発されればテラスだって面白くない。
「だって事実だもの。アンセムからの告白を受けないだなんて」
「なんですか?ミユウさんは私とアンセムが付き合った方がいいの?」
「そりゃそうよ。私を振ったんだから、アンセムには志貫いてもらわないと納得できないわよ」
ミユウが納得できないからといって、なぜ自分がアンセムと付き合わなければならないのか。
テラスは理解不能だ。
「私、ミユウさんにお願いされたとき、ミユウさんがアンセムを想う気持ちの強さをすごく感じたんです。
アンセムのことは好きですけど、男とか女とかやっぱりわからないし、自分がミユウさんのように、強くアンセムを想うなんて想像もできません」
ミユウはテラスの言いたいことがわからず、続きを待った。
「だから、約束は何としても守ろうって思ったんです。ミユウさんとアンセムがどうなっても、それは別問題です」
ミユウはテラスをまじまじと見つめた。
きっと、好きな気持ちがわからないというのは本当なのだろう。
それにしても、どこまで恋愛に鈍感なのか。やはり、このままにしておくわけにはいかない。
非情にしゃくだけど、自分が懸け橋になるしかない。
「わかったわ…」
ミユウは納得したように頷いた。
「それは誤解よ。あなたの勘違い」
「はぁ…」
「私は、あなたがアンセムに接触しなければ、きっとアンセムはあなたのことを忘れて私を選ぶって思ってた。だからお願いしたのよ。
でも、そうならなかった。私が思っていたよりずっと、アンセムがあなたを思う気持ちは強かったの」
以前なら、この事実を自分の口から言えなかっただろう。
少し時間が経ち、少ないながらも近しい人たちに支えられて、少しずつ立ち直ってきた今だから言えることだ。
「だから、アンセムから別れを切り出されたのよ。あなたがどんな態度をとろうが、アンセムはあなたのことが好きなのよ」
テラスは心細げにミユウを見た。
そんなこと言われても、自分がどうすればいいかなんてわからない。
「だから、あの約束はなかったことにして」
ミユウはキッパリと言った。
「アンセムを避ける理由は私との約束なんでしょう?
そんなことに縛られなくていいから、テラスはテラスのしたいようにして。そして、特別な人を探せばいいわ」
「ミユウさん…」
「私との一方的な約束を一生懸命守ってくれていたのに、そのままにしてしまってごめんなさい」
ミユウは頭を下げた。
テラスへの怒りはすっかり消えていた。ただ、手がかかると思った。だから助けたくなる。そこがテラスの魅力なのだろうか。
「そんな、顔を上げてください」
テラスは慌てた。
「もうアンセムを避けないでくれる?」
「ええ!?でも今更」
今さらどんな顔でアンセムに接しろというのか。
「お願い」
更に深く頭を下げるミユウ。
「わかりました、わかりましたから頭下げないでくださいっ」
テラスは居たたまれない。
「ええ」
そう言って顔を上げたミユウは真剣な表情をしていた。
綺麗な目に強い気持ちが秘められている。
その眼差しを見て、テラスは動揺した。
自分はこれから同じステージに立たなければならないのか。
「テラス、私が言うのもおかしいかもしれないけど、アンセムはあなたのことが本当に好きなんだと思う。だから、わからなくても、頑張って向き合ってあげてね」
「そんなこと言われても…」
困ってしまうのある。
「私、あなたのことキライじゃないわ」
ミユウはそう言うと、とても綺麗な笑顔を見せた。
同性なのに、その笑顔を見てドキドキしてしまうテラスである。
「私はミユウさんのこと好きです」
アンセムはなぜこんなに素敵な人より自分を好きになってしまったのか。
恋愛は本当に良くわからない。
「ありがとう」
そして、ミユウは華麗に立ち去った。



