テラスを部屋まで送り、アンセムは上機嫌で自室までの道のりを歩いていた。
第三寮は円形になっていて、中央に食堂や談話室、休憩室、娯楽室などがある。
テラスの部屋は、アンセムの部屋の反対側に位置していた。
そのため、普段利用する施設の場所が違ったのだろう。
食堂は1箇所だがとても広く、生活リズムが違えば顔を会わすこともない。
あまり見かけないのも当然だった。
途中一人で歩いていると、何人か女の子から昼食の誘いを受けた。
普段は誘われれば応じるのだが、今日は楽しかった時間の余韻を一人で味わいたい気分だったので丁重に断った。
本当に楽しい時間だった。
寮長や司書のカイに話を聞いていたが、期待以上にテラスは面白い人物だった。
恋愛に興味がないというのは、どうやら事実のようだ。
久しぶりに恋愛の対象ではなく、対等にコミュニケーションを交わしたと思う。
アンセムは第三寮に来てからすぐに、自分が女性から好意を寄せられやすいことを理解した。
第二寮は完全男子のみの生活で、あまり外見を意識したことはなかったが、どうやら自分の容姿は女の子の気を惹くのに充分だとすぐにわかった。
黙っていても女の子が寄って来る。
そして、普通に会話をしているだけなのに好意を持たれる。
それは最初は喜ばしいことだった。
すぐにセックスも経験した。
どんな女の子でも可愛いところがあると思うし、一緒に過ごすことも、相手を喜ばせることも楽しかった。
相手に困ることはなく、たくさんの女の子と時間を過ごした。
たくさんの出会いと経験があれば、人生のパートナーも自然と見つかるだろうと思っていたのだが…。
アンセムは途中食堂に寄り、軽食を持ち帰ることにした。
ここでも誘われたが、課題があるからと丁寧に断った。
自室に着き、鍵を差し込んで開けたが手ごたえがない。
ドアを開き部屋に入ると、ベッドに横たわってスヤスヤと眠るミユウが目に入った。
(来てたのか…)
ミユウはアンセムの部屋の合鍵を持つ唯一の存在である。
第三寮に入寮したときから面識があり、少しずつ距離を縮めてきた。
年はアンセムと同じ20歳。
ふわふわで緩いウェーブのかかった長い金髪の持ち主だ。
愛称はミュウ。
「あ、おかえりなさい」
アンセムがミユウを起こさないように静かにソファに座り、食事をとろうとしたときに目覚めたようだ。
ミユウは体を起こし、大きな目をこすりながらアンセムに声をかけた。
「ただいま」
「今何時?」
長いまつげが影を落とす。
アンセムの美貌にまったく引けを取らない美しい顔をしている。
「1時半。いつからいたんだ?」
「2時間も寝ちゃったみたい」
そう言ってミユウは伸びをする。
細い腕。
豊かな胸が揺れる。
ウエストはほっそりとしていてはかなく折れてしまいそうだ。
「お腹すいた。アンセムとランチしようと思って来たの。
でもなかなか帰ってこなくて、待ちくたびれて寝ちゃった」
「そうか、ごめん。これ、一緒に食べるか?」
持ち帰ったサンドイッチを見せる。
「うん。食べる」
ふわりとベッドから降りて、アンセムの隣にぴったりくっついて座るミユウ。
しかし、サンドイッチには手を伸ばさず、アンセムの首に両手をかけキスをした。
「食べないのか?」
そのキスに応えつつアンセムは聞く。
「うん。でも先にアンセムがいい」
そして、ミユウはもう一度キスをする。
「待ってたんだからね」
そして甘えた瞳で見つめた。
「約束してなかっただろ」
「でも待ってたの」
そしてミユウはきゅっとアンセムに抱きついた。
「仕方ないな」
アンセムはサンドイッチを諦めて、ミユウの腰に手を回した。
そして深くキスをする。
「ん…」
「シャワーは?」
「いいの」
そう言って、更にキスを交わしながら、ミユウの手はアンセムの首から下の方へ降りていく。
アンセムはミユウを抱き上げベッドへ移動した。
アンセムがセックスそのものに夢中になったのは最初の1年だけだった。
とにかく、行為そのもの、快楽に貪欲だった。
誰でも良かった。
しかし、回を重ねるうちに、相手との性格的な相性も考えるようになった。
冷静になると、自分の心が弾むような相手がいないことに気付いた。
一緒に過ごす時間はそれなりに楽しいが、生涯ずっと一緒にいたいという強い感情は誰にも沸かなかった。
そして、どんな状況でも相手の女性は自分を恋愛の対象として見ている事実に気付く。
人気を集めるアンセムは同性から嫉妬心で敵視されることも増えていった。
友人として恋愛抜きで話せる相手はごく限られた。
この頃から、少しずつ誘われても断ることが増えていった。
本気で生涯のパートナーを探しているのに、こんなにたくさんの経験しても、自分に好意を持つ異性が多くても、アンセムが思う唯一の存在が見つからなないことに、いらだちを感じ始めたのだ。
そんな中、ミユウだけは少し特別な存在だった。
ミユウもその美貌から、頻繁に男性陣のアプローチを受けている。
しかし、流されることなく自分の意見を毅然と通していた。
アンセムに依存せず、自立した女性。
求められる側の気持ちを理解してくれるのはミユウだけだった。
だから、他の人には言えない本音を口にできた。
気まぐれでいて、まっすぐなミユウ。
一緒にいて一番寛げた。
また、ミユウとのセックスは何度しても良かった。
身体の相性が良い、というのは、こういうことなのかもしれない。
ある日、ミユウに合鍵を催促された。
会いたくなったとき、部屋にいないと待つのが億劫だからと。
最初は断った。
プライベートが侵害されるし、何よりミユウに変な誤解をさせたくなかったから。
彼女は今いる女の子の中では少し特別だが、生涯のパートナーとしての感情はまだないのだ。
そんなアンセムの気持ちなど、ミユウは手に取るようにわかっていたのだろう。
「そう。じゃあ、私もアンセムの部屋に来るのは控える。いなかったら時間の損だもの」
簡単に引き下がるミユウにアンセムは拍子抜けし、だからこそ合鍵を渡す気になった。
もしかしたら、これがきっかけで、ミユウが自分にとって本当に特別な存在になるかもしれないという、淡い期待を抱きつつ…。
ところが、目の前にいるミユウの相手をしながら、アンセムが考えるのはテラスのことだった。
あそこまで恋愛に無頓着なのはかなりの驚きだった。
テラスはまず男か女かではなく、人として相手を見るのだろう。
それは、今のアンセムにはとても新鮮なことだった。
最初はかなり警戒していたテラスだが、話す内に少し心を開いてくれたことがわかった。
最後まで敬語、アンセムさん、だったけど。
共通の話題も多く、2時間ではとても足りなかった。
さて、次はどこに誘おうか。
アンセムは久しぶりにワクワクしていた。
「アンセム、集中して」
そう言って、ミユウはくるりとアンセムの上になり、広い胸に舌を這わす。
(とりあえず、今はこっちか)
アンセムは思考を止め、改めてミユウと向き合った。
第三寮は円形になっていて、中央に食堂や談話室、休憩室、娯楽室などがある。
テラスの部屋は、アンセムの部屋の反対側に位置していた。
そのため、普段利用する施設の場所が違ったのだろう。
食堂は1箇所だがとても広く、生活リズムが違えば顔を会わすこともない。
あまり見かけないのも当然だった。
途中一人で歩いていると、何人か女の子から昼食の誘いを受けた。
普段は誘われれば応じるのだが、今日は楽しかった時間の余韻を一人で味わいたい気分だったので丁重に断った。
本当に楽しい時間だった。
寮長や司書のカイに話を聞いていたが、期待以上にテラスは面白い人物だった。
恋愛に興味がないというのは、どうやら事実のようだ。
久しぶりに恋愛の対象ではなく、対等にコミュニケーションを交わしたと思う。
アンセムは第三寮に来てからすぐに、自分が女性から好意を寄せられやすいことを理解した。
第二寮は完全男子のみの生活で、あまり外見を意識したことはなかったが、どうやら自分の容姿は女の子の気を惹くのに充分だとすぐにわかった。
黙っていても女の子が寄って来る。
そして、普通に会話をしているだけなのに好意を持たれる。
それは最初は喜ばしいことだった。
すぐにセックスも経験した。
どんな女の子でも可愛いところがあると思うし、一緒に過ごすことも、相手を喜ばせることも楽しかった。
相手に困ることはなく、たくさんの女の子と時間を過ごした。
たくさんの出会いと経験があれば、人生のパートナーも自然と見つかるだろうと思っていたのだが…。
アンセムは途中食堂に寄り、軽食を持ち帰ることにした。
ここでも誘われたが、課題があるからと丁寧に断った。
自室に着き、鍵を差し込んで開けたが手ごたえがない。
ドアを開き部屋に入ると、ベッドに横たわってスヤスヤと眠るミユウが目に入った。
(来てたのか…)
ミユウはアンセムの部屋の合鍵を持つ唯一の存在である。
第三寮に入寮したときから面識があり、少しずつ距離を縮めてきた。
年はアンセムと同じ20歳。
ふわふわで緩いウェーブのかかった長い金髪の持ち主だ。
愛称はミュウ。
「あ、おかえりなさい」
アンセムがミユウを起こさないように静かにソファに座り、食事をとろうとしたときに目覚めたようだ。
ミユウは体を起こし、大きな目をこすりながらアンセムに声をかけた。
「ただいま」
「今何時?」
長いまつげが影を落とす。
アンセムの美貌にまったく引けを取らない美しい顔をしている。
「1時半。いつからいたんだ?」
「2時間も寝ちゃったみたい」
そう言ってミユウは伸びをする。
細い腕。
豊かな胸が揺れる。
ウエストはほっそりとしていてはかなく折れてしまいそうだ。
「お腹すいた。アンセムとランチしようと思って来たの。
でもなかなか帰ってこなくて、待ちくたびれて寝ちゃった」
「そうか、ごめん。これ、一緒に食べるか?」
持ち帰ったサンドイッチを見せる。
「うん。食べる」
ふわりとベッドから降りて、アンセムの隣にぴったりくっついて座るミユウ。
しかし、サンドイッチには手を伸ばさず、アンセムの首に両手をかけキスをした。
「食べないのか?」
そのキスに応えつつアンセムは聞く。
「うん。でも先にアンセムがいい」
そして、ミユウはもう一度キスをする。
「待ってたんだからね」
そして甘えた瞳で見つめた。
「約束してなかっただろ」
「でも待ってたの」
そしてミユウはきゅっとアンセムに抱きついた。
「仕方ないな」
アンセムはサンドイッチを諦めて、ミユウの腰に手を回した。
そして深くキスをする。
「ん…」
「シャワーは?」
「いいの」
そう言って、更にキスを交わしながら、ミユウの手はアンセムの首から下の方へ降りていく。
アンセムはミユウを抱き上げベッドへ移動した。
アンセムがセックスそのものに夢中になったのは最初の1年だけだった。
とにかく、行為そのもの、快楽に貪欲だった。
誰でも良かった。
しかし、回を重ねるうちに、相手との性格的な相性も考えるようになった。
冷静になると、自分の心が弾むような相手がいないことに気付いた。
一緒に過ごす時間はそれなりに楽しいが、生涯ずっと一緒にいたいという強い感情は誰にも沸かなかった。
そして、どんな状況でも相手の女性は自分を恋愛の対象として見ている事実に気付く。
人気を集めるアンセムは同性から嫉妬心で敵視されることも増えていった。
友人として恋愛抜きで話せる相手はごく限られた。
この頃から、少しずつ誘われても断ることが増えていった。
本気で生涯のパートナーを探しているのに、こんなにたくさんの経験しても、自分に好意を持つ異性が多くても、アンセムが思う唯一の存在が見つからなないことに、いらだちを感じ始めたのだ。
そんな中、ミユウだけは少し特別な存在だった。
ミユウもその美貌から、頻繁に男性陣のアプローチを受けている。
しかし、流されることなく自分の意見を毅然と通していた。
アンセムに依存せず、自立した女性。
求められる側の気持ちを理解してくれるのはミユウだけだった。
だから、他の人には言えない本音を口にできた。
気まぐれでいて、まっすぐなミユウ。
一緒にいて一番寛げた。
また、ミユウとのセックスは何度しても良かった。
身体の相性が良い、というのは、こういうことなのかもしれない。
ある日、ミユウに合鍵を催促された。
会いたくなったとき、部屋にいないと待つのが億劫だからと。
最初は断った。
プライベートが侵害されるし、何よりミユウに変な誤解をさせたくなかったから。
彼女は今いる女の子の中では少し特別だが、生涯のパートナーとしての感情はまだないのだ。
そんなアンセムの気持ちなど、ミユウは手に取るようにわかっていたのだろう。
「そう。じゃあ、私もアンセムの部屋に来るのは控える。いなかったら時間の損だもの」
簡単に引き下がるミユウにアンセムは拍子抜けし、だからこそ合鍵を渡す気になった。
もしかしたら、これがきっかけで、ミユウが自分にとって本当に特別な存在になるかもしれないという、淡い期待を抱きつつ…。
ところが、目の前にいるミユウの相手をしながら、アンセムが考えるのはテラスのことだった。
あそこまで恋愛に無頓着なのはかなりの驚きだった。
テラスはまず男か女かではなく、人として相手を見るのだろう。
それは、今のアンセムにはとても新鮮なことだった。
最初はかなり警戒していたテラスだが、話す内に少し心を開いてくれたことがわかった。
最後まで敬語、アンセムさん、だったけど。
共通の話題も多く、2時間ではとても足りなかった。
さて、次はどこに誘おうか。
アンセムは久しぶりにワクワクしていた。
「アンセム、集中して」
そう言って、ミユウはくるりとアンセムの上になり、広い胸に舌を這わす。
(とりあえず、今はこっちか)
アンセムは思考を止め、改めてミユウと向き合った。



