「アンセムさん、振られたんですか?」
図書館でカイに頼まれて受付をしてたアンセムは、やってきなナミルにズバッと質問されて少し驚いた。
あの件以来、ナミルは図書館に来る頻度が激減し、アンセムに話しかけることもなかった。
たまに顔を合わせても、目を伏せて逃げるように立ち去っていた。
自分が酷いことをしたのだから当然だとアンセムは思っていたのだが…。
そのナミルが唐突に話しかけてきたのだ。
手には本を持っている。生物学の授業で必要なのだろう。
アンセムはナミルを見上げた。
「これ、お願いします」
ナミルは本を差し出す。
「ああ…」
受け取って処理するアンセム。
「で、アンセムさん、あの人に振られたんですか?」
もう一度、ナミルはアンセムに聞いた。
「どういうことかな?」
「私、見ちゃったんですよね」
「何を」
「あの人が、別の男の人とキスしてるところ」
アンセムの動きが止まった。
「あの人って、誰のことを言っているんだ?」
念の為、確認する。
「テラスって人のことですよ」
「それ、本当にテラスだったのか?」
疑いの眼差しを向けるアンセム。
「間違いないですよ」
ナミルは自信を持って頷いた。
アンセムは手続きして本をナミルに渡す。信じられない。
「なぜそれをオレに言うのかな?」
「単なる確認ですよ」
涼しい顔でナミルは答えた。
「気になるじゃないですか。あんな場面見せられて。
どうせもうカンペキに嫌われてるんですから、これ以上嫌われる心配もないですし。一応聞いとこうかなって思っただけです」
「キャラ、変わったね」
アンセムはナミルを改めて見た。
「これが地ですよ。今までのはブリッコです。男ウケいいから」
完全に開き直ったナミルである。
「ふ~ん」
アンセムは笑顔になった。
「そっちの方がいいよ」
そして、さりげなく褒めた。
「…なっ!!」
絶句するナミル。みるみる顔が赤くなる。
「何言ってるんですか!」
そしてプイっとそっぽを向いた。
「正直な感想」
アンセムは優しく笑う。
「アンセムさんって本当にすごい人ですね…。なんというか、生まれながらの王子様気質?女の喜ぶツボを本能で理解しているというか…」
しみじみと言うナミル。
「私、こんな人落とそうと思ってたんですね。今、無理ってわかりました。私にはアンセムさん無理」
これは本音である。
「はは」
アンセムは思わず笑ってしまった。
初めてアンセムに笑顔を向けられた気がして、ナミルはドキリとした。
「で、振られたんですか?」
話を無理やり元に戻す。
「どうかな」
アンセムは曖昧に答えた。
「ミユウさんと別れたって噂は本当ですか?」
「本当だよ」
この問には正直に答える。
「それって、あの人のため?」
「というより、自分のため…かな」
呟きのように言葉がこぼれた。
以前のブリッコを装っていたナミルだったら、会話に応じなかっただろう。
今までのナミルとは別人だが、今までよりもずっと話しやすい。
「いいんですか?他の男の人とキスしてたんですよ」
「実際に自分で見たわけじゃないから」
「私ウソついていません!」
「別に、君を疑っているわけじゃないよ」
「焦らないんですか?」
「焦ってもね…。テラスのペースに合わせないと、意味ないからな」
「…はぁ~」
ナミルは大きなため息をついた。
「どうしたんだ?」
「あの人も、凄い人なんですね、きっと」
「何が?」
「アンセムさんにそこまで言わせるんですから」
「そうだな、オレにとってはすごい女の子かな」
テラスの話になると、自然と笑顔になるアンセム。
ナミルは少し苦しくなる。
「平気なんですか?別の人とキスしてたんですよ」
「平気なわけないよ」
一瞬アンセムの表情が厳しくなって、ナミルは言葉を失った。
「だけど、気持ちを押し付けるようなことはしたくないから」
表情が厳しくなったのは一瞬だけで、アンセムはすぐに穏やかさを取り戻す。
「その優しさ、少しは私にも向けてくれません?」
ダメもとで言ってみたが…。
「今の君ならいいよ」
「え!?」
思いもよらない答えにうろたえるナミル。
「からかわないでください!じゃぁ、私、もう行きますから!」
ナミルは怒ったような顔をして図書館を出ていった。
気が動転して、本を借りきたことをすっかり忘れている。
テラスという女は、ここまでアンセムに愛されているのか。羨ましくてたまらない。
テラスが別の男とキスをしているのを目撃して、もしかしたらまだ可能性があるかもしれないと一瞬思ったが、今日のアンセムを見て完全に張り合う気はなくなっていた。
(テラスって一体どんな女なの?)
テラスにはこれといって特徴があるわけでもなく、容姿がとりわけ秀でているわけでもないのに、アンセムはどうして惹かれているのだろう。
わからないけど、アンセムにとってテラスの代わりになる存在はないのだろう。
しかし、そうなると、テラスという女に怒りを感じる。
ここまでアンセムの愛情を受けておきながら、他の男を選ぶなんてどういうことだ?
激しい嫉妬、羨望、怒りと同時に、テラスという女に強い興味を持った。
図書館でカイに頼まれて受付をしてたアンセムは、やってきなナミルにズバッと質問されて少し驚いた。
あの件以来、ナミルは図書館に来る頻度が激減し、アンセムに話しかけることもなかった。
たまに顔を合わせても、目を伏せて逃げるように立ち去っていた。
自分が酷いことをしたのだから当然だとアンセムは思っていたのだが…。
そのナミルが唐突に話しかけてきたのだ。
手には本を持っている。生物学の授業で必要なのだろう。
アンセムはナミルを見上げた。
「これ、お願いします」
ナミルは本を差し出す。
「ああ…」
受け取って処理するアンセム。
「で、アンセムさん、あの人に振られたんですか?」
もう一度、ナミルはアンセムに聞いた。
「どういうことかな?」
「私、見ちゃったんですよね」
「何を」
「あの人が、別の男の人とキスしてるところ」
アンセムの動きが止まった。
「あの人って、誰のことを言っているんだ?」
念の為、確認する。
「テラスって人のことですよ」
「それ、本当にテラスだったのか?」
疑いの眼差しを向けるアンセム。
「間違いないですよ」
ナミルは自信を持って頷いた。
アンセムは手続きして本をナミルに渡す。信じられない。
「なぜそれをオレに言うのかな?」
「単なる確認ですよ」
涼しい顔でナミルは答えた。
「気になるじゃないですか。あんな場面見せられて。
どうせもうカンペキに嫌われてるんですから、これ以上嫌われる心配もないですし。一応聞いとこうかなって思っただけです」
「キャラ、変わったね」
アンセムはナミルを改めて見た。
「これが地ですよ。今までのはブリッコです。男ウケいいから」
完全に開き直ったナミルである。
「ふ~ん」
アンセムは笑顔になった。
「そっちの方がいいよ」
そして、さりげなく褒めた。
「…なっ!!」
絶句するナミル。みるみる顔が赤くなる。
「何言ってるんですか!」
そしてプイっとそっぽを向いた。
「正直な感想」
アンセムは優しく笑う。
「アンセムさんって本当にすごい人ですね…。なんというか、生まれながらの王子様気質?女の喜ぶツボを本能で理解しているというか…」
しみじみと言うナミル。
「私、こんな人落とそうと思ってたんですね。今、無理ってわかりました。私にはアンセムさん無理」
これは本音である。
「はは」
アンセムは思わず笑ってしまった。
初めてアンセムに笑顔を向けられた気がして、ナミルはドキリとした。
「で、振られたんですか?」
話を無理やり元に戻す。
「どうかな」
アンセムは曖昧に答えた。
「ミユウさんと別れたって噂は本当ですか?」
「本当だよ」
この問には正直に答える。
「それって、あの人のため?」
「というより、自分のため…かな」
呟きのように言葉がこぼれた。
以前のブリッコを装っていたナミルだったら、会話に応じなかっただろう。
今までのナミルとは別人だが、今までよりもずっと話しやすい。
「いいんですか?他の男の人とキスしてたんですよ」
「実際に自分で見たわけじゃないから」
「私ウソついていません!」
「別に、君を疑っているわけじゃないよ」
「焦らないんですか?」
「焦ってもね…。テラスのペースに合わせないと、意味ないからな」
「…はぁ~」
ナミルは大きなため息をついた。
「どうしたんだ?」
「あの人も、凄い人なんですね、きっと」
「何が?」
「アンセムさんにそこまで言わせるんですから」
「そうだな、オレにとってはすごい女の子かな」
テラスの話になると、自然と笑顔になるアンセム。
ナミルは少し苦しくなる。
「平気なんですか?別の人とキスしてたんですよ」
「平気なわけないよ」
一瞬アンセムの表情が厳しくなって、ナミルは言葉を失った。
「だけど、気持ちを押し付けるようなことはしたくないから」
表情が厳しくなったのは一瞬だけで、アンセムはすぐに穏やかさを取り戻す。
「その優しさ、少しは私にも向けてくれません?」
ダメもとで言ってみたが…。
「今の君ならいいよ」
「え!?」
思いもよらない答えにうろたえるナミル。
「からかわないでください!じゃぁ、私、もう行きますから!」
ナミルは怒ったような顔をして図書館を出ていった。
気が動転して、本を借りきたことをすっかり忘れている。
テラスという女は、ここまでアンセムに愛されているのか。羨ましくてたまらない。
テラスが別の男とキスをしているのを目撃して、もしかしたらまだ可能性があるかもしれないと一瞬思ったが、今日のアンセムを見て完全に張り合う気はなくなっていた。
(テラスって一体どんな女なの?)
テラスにはこれといって特徴があるわけでもなく、容姿がとりわけ秀でているわけでもないのに、アンセムはどうして惹かれているのだろう。
わからないけど、アンセムにとってテラスの代わりになる存在はないのだろう。
しかし、そうなると、テラスという女に怒りを感じる。
ここまでアンセムの愛情を受けておきながら、他の男を選ぶなんてどういうことだ?
激しい嫉妬、羨望、怒りと同時に、テラスという女に強い興味を持った。



