テラスは恐る恐る図書館に足を運んだ。就業教育の課題で、どうしても調べたいものがあったのだ。
図書館の扉を開き、中を見る。とりあえず、アンセムの姿はない。
テラスは中に入ることにした。
「こんにちは、カイさん」
「おお、テラス!久しぶりだなぁ~!」
カイはテラスの顔を見て喜んだ。
「随分と来なかったじゃないか。どうしたんだ?」
「どうもしなかったんですけど、何となく来る機会がなくって…」
テラスは言葉を濁した。
「最近アンセムがよく手伝いをしてくれるんだが、テラスが来ないから寂しそうだったぞ」
「そ、そうですか」
アンセムの名を聞いて、テラスの顔が強張った。
カイはすぐそれに気付く。
「じゃぁ、ちょっと探す本があるので」
テラスはそそくさとカウンターを離れた。
アンセムがよく来ているなら、いないうちに、っさと用を済ませなければ。
しかし、実はアンセムは図書館にいる。今は本を指定の本棚に戻しているところだ。
それをカイはあえてテラスに伝えなかった。
2人の間で何かがあったことは確実だ。
2人がバッタリ会えるかどうか、カイは縁の力に任せようと思っている。
「アンセム頑張れよ~」
カイは小さく激励を送った。
-----------------------
アンセムは本をすべて棚に戻し、台車を押してカウンターまで歩いていた。
ふと顔を上げたとき、歩いているテラスが一瞬見えた。
心臓がドクンと大きく跳ねる。見間違えじゃない。
台車を放置し慌てて移動すると、歩くテラスの後姿が見えた。
行き先は、きっと生物学のコーナーだ。
「テラス!」
思わず呼び止めていた。
声に振り向いたテラスは、アンセムの顔を見ると「あっ!」と言って駆け出した。
アンセムは迷わず追いかける。
闇雲に逃げていたテラスだが、運悪く行き止まりに来てしまう。
(ど、どーしよー!!!)
「テラス」
再び呼ばれて固まるテラス。
振り向かなくてもわかる。アンセムだ。
どうしたら良いのかわからず、テラスは本棚に張り付いてアンセムに背を向けた。
「…酷い嫌われようだな…」
さすがに凹むアンセム。
(ああ、どうすればいいの?)
テラスは苦悩した。
アンセムを傷つけたいわけじゃない。嫌っているわけじゃない。
だけど、関わるわけにもいかない。
八方塞で、どうしたらいいのかわからない。
「テラス」
再びテラスの名を呼ぶアンセム。
「オレ、テラスのことが好きだよ」
そして告白をした。
思わず振り向くテラス。
テラスと目が合い、心臓が高鳴るアンセム。
10日ぶりのテラスだ。
「わかったんだ。自分の気持ち。オレはテラスが好きだ」
噛みしめるように言う。
テラスはアンセムにまっすぐ見つめられて、動悸が激しくなった。
「え?ええ!?」
全快とは違い、断定されてテラスは大混乱。
アンセムはそんなテラスを見て、抱きしめたい衝動に駆られる。
テラスの表情から拒絶や嫌悪は感じなかった。
少しだけ、気持ちが前向きになり、テラスに近づいた。
「ちょ、ちょっと待って!」
近づいてきたアンセムを思わず制するテラス。
アンセムは止まってくれた。
(とにかく、考えをまとめなくっちゃ…)
テラスは自分が今どういう態度をとるべきか、必死で考えた。
考えてるつもりで、考えがまとまらない。
どうしようどうしよう。
一人で混乱しまくっているテラスを見て、アンセムに1つの疑問が生まれる。
テラスは何をそんなに迷っているのか。
何かに葛藤している様子だが、それが何かわからない。
確かめたくて、アンセムは再びテラスに歩み寄る。
下を向いて考え込んでいるテラスはそれに気づけない。
至近距離まで来ると、アンセムはそっとテラスを抱きしめた。いつでもテラスが振りほどける優しさで。
テラスは気がついたらアンセムに抱き寄せられていた。
「はい!?」
テラスにとっては不意打ちのようなもの。
ビックリして気が動転し、体が固まる。
「何をそんなに困っているんだ?」
耳元で囁やくように聞かれる。
「どわっ!」
思わずアンセムを跳ね除けるテラス。
「オレはテラスに嫌われているわけじゃないのか?」
テラスの反応に苦笑する余裕が出てきたアンセムである。
「べ、別にアンセムのこと嫌ってなんてないよっ。アンセムのことは好きだよ」
動転して本音をそのまま伝えてしまうテラス。
(あ~!口きいちゃだめじゃん自分は!)
言ってから自分を責めた。
「なら、どうしてオレを避けるんだ?」
(だから、その質問は一番困る…)
答えようのない問なのである。
「理由もわからず避けられるのは辛いよ…」
(そりゃそうかもしれないけど…)
会話禁止を自分に念押しし、アンセムの問には心の中でしか返答しないテラスである。
(なにか、何か良い逃げ道はないかな…そうだ!)
「あのね!」
そしてテラスはやっと声を出した。
「私、タキノリと付き合うことになったの」
苦渋の言い訳だった。
「え?」
アンセムはテラスの言葉に耳を疑った。
「だから、こういうの困るんだ」
「それ、本当なのか?」
「うん…」
嘘ではない。昨日タキノリとデートした。
と言っても、今まで通り2人で遊んだだけだが。
そして、今までと変わりなく楽しい時間を過ごしただけだが。
一応お試しで付き合い始めたものの、テラスの中でタキノリに対する気持ちが急変するわけもなく、タキノリは気の合う男友達なのである。
「タキノリは、テラスの特別になったのか?」
だから、こう聞かれると即答できない。
「そうじゃないなら、オレは諦めないよ」
言われて絶句するテラス。
アンセムはムカムカと怒りを感じた。
誰に?テラスに?タキノリに?わからない。
「もうキスはした?セックスは?」
「するわけないじゃん!」
その答えを聞いて、アンセムは安堵した。
テラスは限界だ。これ以上アンセムと2人きりは恐い。
「とにかく、そういうことで、アンセムとは喋れないからっ!」
テラスは言い捨てて、ダッシュで逃げようとした。
しかし、アンセムの横を通り過ぎようとして、腕を掴まれる。
あっと思ったときには引き寄せられ、頬にキスされてしまった。
触れるような、一瞬だけの優しいキス。
同時に腕も離される。
「ひえーーー!!!」
奇声を上げてテラスは飛び退き、そのままダッシュで逃げていった。
1人残されるアンセム。
結局なぜテラスがアンセムを避けるのか、本当の理由はわからなかった。
だけど、嫌われていないことはわかった。
タキノリと付き合っているというのは本当だろうか。
以前とテラスと違い、今のテラスは少し不安定で、流されそうな危うさがある。
落ち込んでいる場合ではない。テラスを諦めるなんて、考えられない。
アンセムはそう思った。
顔を真っ赤にして、走って逃げるように図書館を出て行くテラスを見て、カイはアンセムとテラスが出会えたことを確信する。
しばらくして戻ってきたアンセムは、さっきまでの沈鬱な表情から一変、力の漲った表情をしていた。
「テラスに何したんだ?」
ニヤニヤしながらカイはアンセムに聞いた。
「告白ですよ」
「ほう~、それはそれは」
「前途多難ですけどね」
「アンセム、おまえ今いい顔してるぞ」
「そうですか?それはテラスのお陰かな」
そしてアンセムは笑った。
-----------------------
テラスは図書館から出てしばらく走り、そして後ろを振り返った。
どうやら、アンセムは追いかけてこないみたいだ。
ホッとするテラス。
「あ!でも、本どうしよう…」
今日中に欲しい。
閉館ギリギリにもう一度来てみようか。
(今度はきちんとカイさんにアンセムがいるかどうか聞いて、もしアンセムがいたら閉館後に入れてもらうしかないかな…)
テラスはとりあえず部屋へ帰ることにした。
なんだか思考がボーっとしている。
今日のは、本当の告白だった。アンセムが、自分を好きだという。
出会ってから3ヶ月が過ぎ、アンセムが周囲からどれだけ評価されているかは充分知っていた。
そんなアンセムが自分を好きだなんて、まるで冗談のようだ。
けれど、目の前のアンセムからは本気であることがヒシヒシと伝わってきた。
「どーしよー…」
テラスは部屋の真ん中でしゃがみこんだ。
なんだかどっと疲れてしまった。
図書館の扉を開き、中を見る。とりあえず、アンセムの姿はない。
テラスは中に入ることにした。
「こんにちは、カイさん」
「おお、テラス!久しぶりだなぁ~!」
カイはテラスの顔を見て喜んだ。
「随分と来なかったじゃないか。どうしたんだ?」
「どうもしなかったんですけど、何となく来る機会がなくって…」
テラスは言葉を濁した。
「最近アンセムがよく手伝いをしてくれるんだが、テラスが来ないから寂しそうだったぞ」
「そ、そうですか」
アンセムの名を聞いて、テラスの顔が強張った。
カイはすぐそれに気付く。
「じゃぁ、ちょっと探す本があるので」
テラスはそそくさとカウンターを離れた。
アンセムがよく来ているなら、いないうちに、っさと用を済ませなければ。
しかし、実はアンセムは図書館にいる。今は本を指定の本棚に戻しているところだ。
それをカイはあえてテラスに伝えなかった。
2人の間で何かがあったことは確実だ。
2人がバッタリ会えるかどうか、カイは縁の力に任せようと思っている。
「アンセム頑張れよ~」
カイは小さく激励を送った。
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アンセムは本をすべて棚に戻し、台車を押してカウンターまで歩いていた。
ふと顔を上げたとき、歩いているテラスが一瞬見えた。
心臓がドクンと大きく跳ねる。見間違えじゃない。
台車を放置し慌てて移動すると、歩くテラスの後姿が見えた。
行き先は、きっと生物学のコーナーだ。
「テラス!」
思わず呼び止めていた。
声に振り向いたテラスは、アンセムの顔を見ると「あっ!」と言って駆け出した。
アンセムは迷わず追いかける。
闇雲に逃げていたテラスだが、運悪く行き止まりに来てしまう。
(ど、どーしよー!!!)
「テラス」
再び呼ばれて固まるテラス。
振り向かなくてもわかる。アンセムだ。
どうしたら良いのかわからず、テラスは本棚に張り付いてアンセムに背を向けた。
「…酷い嫌われようだな…」
さすがに凹むアンセム。
(ああ、どうすればいいの?)
テラスは苦悩した。
アンセムを傷つけたいわけじゃない。嫌っているわけじゃない。
だけど、関わるわけにもいかない。
八方塞で、どうしたらいいのかわからない。
「テラス」
再びテラスの名を呼ぶアンセム。
「オレ、テラスのことが好きだよ」
そして告白をした。
思わず振り向くテラス。
テラスと目が合い、心臓が高鳴るアンセム。
10日ぶりのテラスだ。
「わかったんだ。自分の気持ち。オレはテラスが好きだ」
噛みしめるように言う。
テラスはアンセムにまっすぐ見つめられて、動悸が激しくなった。
「え?ええ!?」
全快とは違い、断定されてテラスは大混乱。
アンセムはそんなテラスを見て、抱きしめたい衝動に駆られる。
テラスの表情から拒絶や嫌悪は感じなかった。
少しだけ、気持ちが前向きになり、テラスに近づいた。
「ちょ、ちょっと待って!」
近づいてきたアンセムを思わず制するテラス。
アンセムは止まってくれた。
(とにかく、考えをまとめなくっちゃ…)
テラスは自分が今どういう態度をとるべきか、必死で考えた。
考えてるつもりで、考えがまとまらない。
どうしようどうしよう。
一人で混乱しまくっているテラスを見て、アンセムに1つの疑問が生まれる。
テラスは何をそんなに迷っているのか。
何かに葛藤している様子だが、それが何かわからない。
確かめたくて、アンセムは再びテラスに歩み寄る。
下を向いて考え込んでいるテラスはそれに気づけない。
至近距離まで来ると、アンセムはそっとテラスを抱きしめた。いつでもテラスが振りほどける優しさで。
テラスは気がついたらアンセムに抱き寄せられていた。
「はい!?」
テラスにとっては不意打ちのようなもの。
ビックリして気が動転し、体が固まる。
「何をそんなに困っているんだ?」
耳元で囁やくように聞かれる。
「どわっ!」
思わずアンセムを跳ね除けるテラス。
「オレはテラスに嫌われているわけじゃないのか?」
テラスの反応に苦笑する余裕が出てきたアンセムである。
「べ、別にアンセムのこと嫌ってなんてないよっ。アンセムのことは好きだよ」
動転して本音をそのまま伝えてしまうテラス。
(あ~!口きいちゃだめじゃん自分は!)
言ってから自分を責めた。
「なら、どうしてオレを避けるんだ?」
(だから、その質問は一番困る…)
答えようのない問なのである。
「理由もわからず避けられるのは辛いよ…」
(そりゃそうかもしれないけど…)
会話禁止を自分に念押しし、アンセムの問には心の中でしか返答しないテラスである。
(なにか、何か良い逃げ道はないかな…そうだ!)
「あのね!」
そしてテラスはやっと声を出した。
「私、タキノリと付き合うことになったの」
苦渋の言い訳だった。
「え?」
アンセムはテラスの言葉に耳を疑った。
「だから、こういうの困るんだ」
「それ、本当なのか?」
「うん…」
嘘ではない。昨日タキノリとデートした。
と言っても、今まで通り2人で遊んだだけだが。
そして、今までと変わりなく楽しい時間を過ごしただけだが。
一応お試しで付き合い始めたものの、テラスの中でタキノリに対する気持ちが急変するわけもなく、タキノリは気の合う男友達なのである。
「タキノリは、テラスの特別になったのか?」
だから、こう聞かれると即答できない。
「そうじゃないなら、オレは諦めないよ」
言われて絶句するテラス。
アンセムはムカムカと怒りを感じた。
誰に?テラスに?タキノリに?わからない。
「もうキスはした?セックスは?」
「するわけないじゃん!」
その答えを聞いて、アンセムは安堵した。
テラスは限界だ。これ以上アンセムと2人きりは恐い。
「とにかく、そういうことで、アンセムとは喋れないからっ!」
テラスは言い捨てて、ダッシュで逃げようとした。
しかし、アンセムの横を通り過ぎようとして、腕を掴まれる。
あっと思ったときには引き寄せられ、頬にキスされてしまった。
触れるような、一瞬だけの優しいキス。
同時に腕も離される。
「ひえーーー!!!」
奇声を上げてテラスは飛び退き、そのままダッシュで逃げていった。
1人残されるアンセム。
結局なぜテラスがアンセムを避けるのか、本当の理由はわからなかった。
だけど、嫌われていないことはわかった。
タキノリと付き合っているというのは本当だろうか。
以前とテラスと違い、今のテラスは少し不安定で、流されそうな危うさがある。
落ち込んでいる場合ではない。テラスを諦めるなんて、考えられない。
アンセムはそう思った。
顔を真っ赤にして、走って逃げるように図書館を出て行くテラスを見て、カイはアンセムとテラスが出会えたことを確信する。
しばらくして戻ってきたアンセムは、さっきまでの沈鬱な表情から一変、力の漲った表情をしていた。
「テラスに何したんだ?」
ニヤニヤしながらカイはアンセムに聞いた。
「告白ですよ」
「ほう~、それはそれは」
「前途多難ですけどね」
「アンセム、おまえ今いい顔してるぞ」
「そうですか?それはテラスのお陰かな」
そしてアンセムは笑った。
-----------------------
テラスは図書館から出てしばらく走り、そして後ろを振り返った。
どうやら、アンセムは追いかけてこないみたいだ。
ホッとするテラス。
「あ!でも、本どうしよう…」
今日中に欲しい。
閉館ギリギリにもう一度来てみようか。
(今度はきちんとカイさんにアンセムがいるかどうか聞いて、もしアンセムがいたら閉館後に入れてもらうしかないかな…)
テラスはとりあえず部屋へ帰ることにした。
なんだか思考がボーっとしている。
今日のは、本当の告白だった。アンセムが、自分を好きだという。
出会ってから3ヶ月が過ぎ、アンセムが周囲からどれだけ評価されているかは充分知っていた。
そんなアンセムが自分を好きだなんて、まるで冗談のようだ。
けれど、目の前のアンセムからは本気であることがヒシヒシと伝わってきた。
「どーしよー…」
テラスは部屋の真ん中でしゃがみこんだ。
なんだかどっと疲れてしまった。



