超人気美男子に目を付けられた平凡女は平和な寮生活を求めて苦悩する

ミユウが目を覚ますと、隣にアンセムが眠っていた。
まだ夜明け前のようだ。

アンセムの顔を眺める。
綺麗な顔。
柔らかい髪。
華奢なようで引き締まった体。
優しい声。
全部大好きだった。

本当にこれでおしまいなのだろうか。
昨日、初めて本音をぶつけあえたように思う。
私たちはお互いのことをまだまだわかっていないのではないか。
今からではもう遅いのか。
覚悟を決めたはずなのに、諦めたくない気持ちが大きくなる。

ミユウはそっとアンセムの髪をなでた。
もっと自分をさらけ出していれば良かった。
いつもどうすればアンセムがそばにいてくれるかを考えていた。
アンセムに嫌われないように、細心の注意を払って自分の気持ちに蓋をしていた。
後悔が押し寄せる。

そのとき、アンセムが目を覚ました。
ミユウは咄嗟に手を離す。

「ごめんなさい。起こしちゃった?」

「…ああ、寝ちゃったんだな」

アンセムは身を起こした。

「部屋に戻るよ」

「…そう…」

ミユウはとてつもない寂しさに襲われた。
ベッドを降りようとしたアンセムの手を思わず掴んでしまうミユウ。

「行かないで。私にして」

振り向くと、おびえたようなミユウの瞳が飛び込んできた。
アンセムの気持ちが揺れる。
このままミユウを失っていいのか?
この期に及んで迷いが出た。

しばらく言わずそのままでいる2人。
先に口を開いたのはアンセムだった。

「オレは、ミユウのこと好きだよ」

ミユウが目を見開いてアンセムを見る。

「だけど、今はテラスのことをもっと考えたいんだ」

残酷な言葉。
ミユウはアンセムの腕から手を離した。
アンセムは何も言わず、服を身につけミユウの部屋を出た。

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アンセムは自室に向かう。
夜明け前なので、人気がなくて助かった。
気持ちは酷く沈んでいた。
自分の選択が正しいのかわからない。
今、自分はミユウを失った。
失ってから、その大きさを気付いても遅いのだ。

無言でミユウの部屋を出たのは、言葉が見つからなかったからだ。
「ごめん」も「ありがとう」も違うと思った。
「さよなら」は自分が言いたくなかった。
終わりにしたくない自分がいたのかもしれない。

部屋へ戻り、アンセムは暫く呆然としていた。
自分から離れたのに大きな喪失感に襲われていた。
そのまま呆然と自室で過ごすアンセム。
自分の考えがまとまらなかった。

こんなに苦しいのに、人はそれでも空腹になる。
日が暮れて、さすがに何か食べようと食堂へ行った。
話しかけられるのが煩わしく、軽食を持ち帰り部屋で食べる。
空腹が満たされると、少しだけ元気になった気がした。

1人で考えても答えは出ない。
答えはきっとテラスが握っている。
そう思うと、無性に会いたくなった。
図書館で最悪の別れ方をした後だが、それでもテラスに会いたい。
会ってどうすれば良いのかわからない。
それでも、このままの自分でテラスに会いに行こう。
そう思った。